鎌田薫UNIVAS初代会長インタビュー「社会全体が盛り立てていく形にしたい」
今年3月1日、大学スポーツの統括組織である「一般社団法人大学スポーツ協会」(通称UNIVAS=ユニバス)が発足しました。大学の運動部には全体を束ねる組織がなかったことから、全米大学体育協会(NCAA)を参考に設立準備が進められた背景があります。11月18日現在で早稲田大や中京大、立命館大など222の大学と、34の競技団体が加盟。運動部学生の学業充実、安全に安心して競技に取り組める環境整備、大学スポーツの活性化の三つが事業の柱。一方でどう収益を上げるのか。大学や競技団体との役割分担などが不透明との指摘もあり、筑波大学や慶應義塾大学、関西学院大学などの有力大学は参加を見合わせました。またUNIVAS自体の存在を含め、その認知度は低いと言わざるを得ないのも事実です。UNIVASの現状と今後について、4回の連載で描いていきます。1回目は早稲田大の前総長でもある鎌田薫UNIVAS初代会長(71)へのインタビューをお届けします。
学業の充実については最低限の基準を提示
――UNIVASで現状掲げておられる三つの事業からうかがいたいと思います。まず学業の充実についてです。
鎌田 成績基準などの話があったり、キャリア支援などがありますが、実際に動き出しているものはまだありません。いま委員会を立ち上げ、その中に部会を作る組織設計をしている状況です。いくつか先行的に実際にやっている大学の例を集めて意義と課題を整理する作業は準備段階からやっており、とりまとめています。あとはコンセンサスを作れば成績基準の基本的な考え方は割と早くいけるんではないかと思います。
――どういったタイムスパンで考えておられますか。
鎌田 大まかな基準を決めていき、それに基づいて各大学が自らの特性に応じたそれぞれの基準を作りましょうというところまでは、年内にできると思っています。コンセンサス作りにむしろ時間がかかりそうです。キャリア支援であったり、推薦入学と一般入試との学力の差などが課題としてあり、そこを埋めるようなサービス自体は初年度から、UNIVASとして提供できるように準備をしており、そのための部会を作っています。成績基準に関してはUNIVASとしてはNCAAのような基準を作り、導入するのかという議論もしていますので、事例のとりまとめなどの検証作業は今年度もやっていく予定です。
――各大学の独立性もあり、難しい問題ですね。
鎌田 UNIVASが決めてしまうことはありえないと思います。基本的な考え方や、やり方です。すでに実施している大学があり「うまくいっています」というような。こういう基準が最低限あって、それに上積みしていくような形で考えてます。そうした提案以上に踏み込むと、それぞれの大学の問題になりますから。
安心安全の面は、何を手厚くカバーしていくのかが大事
――二つ目の安全安心な環境整備はいかがでしょうか。
鎌田 UNIVASが直接やることとしては研修の実施です。各大学、各競技についてのコーチングやトレーニング、栄養管理、ガバナンス体制の構築などについての研修や検討会を開いていきます。実際の競技会が医師もいない状況で開催されていたりするケースもあるので、それに対して手当て、体制整備もしていきます。事故が起きた際の保険の問題は競技種目ごとにリスクの度合いが違っていたりします。それらに応じたものを組めるのか組めないのかといった面も含めて検討していかなければなりません。
――各協会との関係も重要になりますね。
鎌田 重要です。例えばインターカレッジならば参加者は全員学生ですが、オープン競技だとさまざまな人が入ってきます。そうなると、その競技会限りの保険という考え方もとらないと、学生だけが保険に入っていればという風にはならないので、これも課題です。賠償責任保険と傷害保険の両方の側面もあります。本当に多面的にやらないといけないことなんだと思います。学連や競技種目ごとにそういうことを考えていくのか、大会主催者側で用意するケースもあったりするのかで、かなり入り組んでると思います。ただ大学スポーツの観点から言えば、どこを手厚くカバーしていくかというのが、一番重要です。
マイナー競技の映像も流し、スポーツの活性化につなげる
――三つ目の事業はスポーツの活性化ですね。
鎌田 一つはもう始まっていますが、ネットでさまざまな試合を配信することです。いま大学スポーツをテレビで実況中継してくれることが少なくなってしまいました。マイナースポーツだと、とくに可能性は薄いので、ネット上のメディアを使って試合の模様を流すことで全体を盛り上げたい。大学スポーツはやってる人だけじゃなくて、そのサポーターグループを大きくしていくことが必要です。いま野球から始まり、アーチェリー、トライアスロンの3競技を映像配信しています。
――映像制作はどうでしょうか。
鎌田 基本的にUNIVASが主体となり、制作しています。野球はJ Sportsが個別で契約し、ライブ配信しているので、そこからサブライセンスの形で映像を提供いただきその映像を出していますが、アーチェリーもトライアスロンも自主制作しています。アーチェリーなんかはこれまで映像化されてなかったので、保護者の方がUNIVASの事務所にいつアップされるか教えてほしいという電話をいただいたりしています。ライブだけでなく、いまはアーカイブとしていつでも見られるようにしています。関係者からも選手からも好評です。
――既存の大会に乗る形ですか?
鎌田 そうです。UNIVAS主催でまったく新しい大会を全種目で開催するというのは現実味が薄いですから、むしろ各学連がUNIVAS傘下で大会を開催していくようなことを考えています。全体を統括するのがUNIVASといった。競技種目を越えたいろいろな企画、イベント、異種間の学生交流などが始まっていくと、スポーツ界全体の空気を入れ換えていくのに役立つんじゃないかと思います。
――UNIVASの現在の課題の一つとして認知度の低さがあります。
鎌田 非常に低いですね。認知度を上げるために、ありとあらゆることをやっていかなければいけない。ただ誰の認知度を上げるかということが重要です。社会全体が大学スポーツを盛り立てていくということにしないといけないんです。さらにいまは大学の視点が欠けています。学連の集合体であったり、部長さんの集合体ではなくて大学の集合体にするにはやはり大学の管理者、執行部がもっと積極的に関与してもらいたい。そういうこともあって7月23日に学長会を開催しました。そこには未加盟の有力大学の学長さんたちも参加されました。71大学から参加いただけました。それだけ関心が高いと言う側面もありますが、あるのは知ってるけど何をしようとしているのかわからないという面もあるので、あれだけ多くの方々が来てくれたんだと思います。いろいろな発言もしてくれました。直に議論したことでだいぶ理解が深まったのではないかと思ってます。あのような会も続けていきたい。
――今後についてお聞かせください。
鎌田 一番大きいのは、UNIVASの組織をもっとしっかりさせることです。そのためには加盟大学の数だけでなく、有力大学がどれだけ積極的に参加してきてくれるか。同時に財政面が弱いですから、UNIVASのスポンサー集団のようなものを強化していく。ゆくゆくは大口企業だけでなく、個人の小口のサポーターみたいなものを得ながらやっていかないといけません。独自の収入源を持ってませんから。一朝一夕にできることではありませんが、最重要課題の一つです。あとは大学スポーツ、課外活動についても大学としてのガバナンス、アドミニストレーションのあり方についてやらなきゃいけないんですが、どういう考え方の下で、どういうシステムで、どこまで責任を負うのかといったことはまだまだ不明確なことが多いです。そうした議論を詰めていかなければなりません。(終)
成績基準や認知度の問題などUNIVASだけでは踏み込めない課題も多く、各大学や運動部、学連などがUNIVASへの意識をどう高めていくかが大学スポーツを盛りあげるためには不可欠だと感じた。と同時に、UNIVASが発足したからこそそうした課題に対してまさに第一歩を踏み出せたのだということも実感できたのも事実だ。