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特集:UNIVASは日本の大学スポーツを変えるか

アメリカの事情に詳しい大体大教授の藤本淳也理事「大学ごとに意識レベルに差、課題も違う」

アメリカの事情をよく知る藤本教授にインタビューした(撮影・渡辺史敏)

一般社団法人大学スポーツ協会「UNIVAS」の理事で、設立準備委員会でも作業部会の主査を務めたのが、スポーツマーケティングを専門とする大阪体育大の藤本淳也教授だ。1997~98年にイリノイ大学、2010~11年にはフロリダ州立大と、2年間にわたるアメリカでの研究生活で現地の大学スポーツ文化に触れ、日本の大学スポーツ活性化を課題として考えるようになったという。

大体大は開学50周年をきっかけにスポーツ改革

大体大がスポーツ改革に乗り出すきっかけとなったのが、2015年の開学50周年だった。次の10年に向けてのビジョン策定に向けた委員会が作られ、藤本教授がその委員長に就任した。その結果、学生アスリートをパフォーマンス、教育、研究、生活支援、キャリア支援の面からサポートする「DASHプロジェクト」が立ち上がった。さらにビジョンの施策としてDASHプロジェクトを推進し、学内の部活動やアスリートを支える機能を持つスポーツ局が17年に設置されている。

そうした中で15年10月にスポーツ庁ができ、17年度からスポーツへの先進的な取り組みに当たる大学を支援する「大学スポーツ振興の推進事業」の対象になった。藤本教授は「うちとしてはとてもタイミングがよかった。DASHプロジェクトの構想と実績を評価していただいたことで、この事業の選定を受けるに至ったと思ってます」。助成金獲得がスポーツ局立ち上げの追い風にもなったという。

ゴンザガ大時代の八村塁(USA TODAY Sports)

さらに18年春に日本版NCAA設立準備委員会の発足が発表され、参加大学の募集が開始されると、大体大も参加を表明。藤本教授は15あったプロジェクトの中でキャリア支援の作業部会の主査に任命された。その理由について「本学は学生の8割がアスリートなので、長年にわたりアスリート支援のプログラムに全学的に取り組んでいたことが評価されたのでは」と推測する。

設立準備委員会の段階で課題と考えていたのは「ガバナンスですね。競技団体、学連があり、アメリカのNCAAのように加盟大学だけでガバナンスを効かせるのはかなり難しいだろうとは思ってました」と打ち明ける。UNIVASは大学とともに競技団体も加盟して発足したが、このガバナンスは今後も重要な課題だ。ただ設立準備委員会は自ら手を挙げた大学によって組織されていたこともあり、各作業部会はスムースに進行できたという。結果としてUNIVASでは入学前と入学後を合わせたデュアルキャリア委員会に発展している。

しばらく様子を見ようという大学があるのも分かる

筑波大や慶應義塾大、関西学院大など有力視された大学がUNIVASに参加していない。この点については「実績があるわけでなく、多くの課題も抱えています。とはいえ、それらを解決した後にスタートできる状況ではない。そうなるとしばらく様子を見ようという大学があるのも理解できます」とした上で、「将来的には主要な大学にはぜひ一緒に歩む形になればいいと思います」と、前向きな姿勢を示した。

さらにUNIVAS発足後半年で感じている課題として、会員である大学の意見が反映される組織をいかに作っていくかを挙げた。UNIVASは現在222の大学が参加する規模になっており、各大学の加盟意識の差や抱える課題の違いがあるという。まずは「ここに問い合わせたら課題解決へ向けてのヒントやアドバイスをもらえる、他大学がどんなキャリアのアスリート支援のプログラムを持っているかという情報をもらえる、会員が一同に集まって議論するカンファレンスを年一回開催するなどの仕組みを早くスタートさせることが必要」と強調する。さらにそれを3年程度のスパンで進めなければ、離れる大学が出る可能性もあるとの危機感を示した。

1976年11月、南カリフォルニア大とワシントン大のアメフトの試合は満員(撮影・水村孝)

大学スポーツが変われば、高校スポーツも変わる可能性がある

その上でUNIVASの意義について、こう語った。「学業基準の設置もデュアルキャリアもそうですが、UNIVASで大学スポーツが変わると、10年、20年後には高校スポーツも変わっている可能性があります。例えばUNIVAS加盟大学が学業成績の基準を置いて、一定の基準を満たさなければ試合に出られない、または練習参加も見送るとなったら、高校生も志望する大学でプレーするために入学前に勉強をもっと頑張るようになる。高校の進路指導もちゃんと勉強をしておかないと入学後にプレーできなくなる、と変わるかもしれない。親もしっかりと勉強をさせてくれるUNIVAS加盟大学への進学を勧めるという社会になるかも。そして、多くの学生アスリートにとって社会に出る最後の教育機関である大学が彼らのデュアルキャリア教育を充実させることで、彼らの一般社会人としての活躍とともに企業スポーツやプロスポーツにおけるアスリートとしての活躍も、もっと充実していくのではないでしょうか。学生アスリートが主役である大学スポーツが変わることで、高校スポーツや社会人のスポーツも変わる。そう考えると大学スポーツはすごい立ち位置にいます。改革が進むと前も後も変わってくる。20から40年のスパンでは、そこを目指していきたい」

UNIVASの現状について「短期的に成果を出さなきゃならない部分がある一方で、先ほど話したように多くの加盟大学とともに地道にやっていかなければいけないことも多い」と指摘する。