ラグビー

特集:第56回全国大学ラグビー選手権

紫紺のエース 明治WTB山﨑洋之「僕が活躍しなくても、勝てばそれでいい」

明治の誇るトライゲッターになった山﨑(左、すべて撮影・斉藤健仁)

ラグビー 第56回全国大学選手権 準決勝

1月2日@東京・秩父宮
明治大(関東対抗戦1位)vs 東海大(関東リーグ戦1位)

56回目を迎えるラグビーの大学選手権も佳境を迎えようとしている。年明け12日に準決勝2試合があり、新しい国立競技場で最初のラグビーの試合として11日に決勝がある。

 苦しんだ関学戦のチームMVP

連覇を狙うのが、関東大学対抗戦Aグループを全勝で制した明治大だ。1221日、選手権初戦となる準々決勝で関西学院大(関西大学Aリーグ3位)と対戦。明治の優位は動かないと予想される中、関西学院大の守備とスクラムに手を焼き、苦戦を強いられた。少しヒヤリとした場面もあったが、明治は22-14と勝ち、準決勝に進んだ。

 この関学戦でもボールを持ったらしっかりゲインし、後半27分に大勢を決するトライをしたのがWTB山﨑洋之(4年、筑紫)だ。この試合のチーム内のMVPにも選ばれた。

苦しめられた関学戦でも安定感のあるプレーぶりだった山﨑(中央)

「ウィングとしてトライを取りきれたのがよかった。相手が前に上がるディフェンスをしてくるので、練習通りのプレーができました。(CTB射場)大輔(4年、常翔学園)が相手をコミット(引きつけること)してくれたし、その前にゲインしてくれたFWのおかげです」

 ただ、8人いるリーダーのひとりである山﨑は反省も忘れていなかった。「大学選手権は負けたら終わりです。捨て身の関学相手に、ミスで取りきれなかったし、自分たちで流れを引き寄せられなかったのが課題です。ディテール、細かいことを突き詰めるのを(練習で)やってきたんですけど、思うようにいかなかった」と、苦い表情で振り返った。

下半身の強化が力強いプレーにつながった

田中監督の言葉「安定感のある選手は強い」

 今シーズンの山﨑は、まさに「紫紺のエース」と言われるだけの活躍をしてきた。どの試合でも安定感があってハードなランを見せ、対抗戦の全勝優勝に貢献。対抗戦のトライランキングではチームメイトのFB雲山弘貴(2年、報徳学園)らと並ぶ9トライで2位だった。   

 山﨑は「いい流れだろうが悪い流れだろうが、自分のやることをやるだけ」という強い信念を持ってプレーしている。そのきっかけは、2年前の関東大学対抗戦の筑波大戦だったという。それまで一喜一憂することが多かった山﨑だが、田中澄憲監督に「波を作らず、常に一定したプレーを心がけてほしい。安定感のある選手は強い。そういう選手を目指したほうがいい」とアドバイスされてからは、そう心がけている。 

田中監督がコーチとして母校に戻ってきたのは山﨑が2年生のころだが、トイレを使ったら必ず、スリッパを並べることを続けている。「グラウンドの中で頑張るのは当たり前。グラウンドの外でどれだけ頑張れるか。小さな徳を積むじゃないですが、メリットを考えずスリッパを並べることを習慣化できれば、プレーにもいい影響を与えるはず。実際に安定したプレーにつながってると思います」 

最適な判断でプレーできるようになった

もちろん大学入学以来フィジカルトレーニングも続けており、スクワットは当初60kgくらいだったが、185kgを支えられるようになり、力強いプレーに生きている実感がある。 

田中監督、伊藤宏明コーチという日本代表を経験している方々の指導を受けたことにより、状況判断も上達した。山﨑は「いままでは、型にはまったことをやってました。それが、できたりできなかったりですけど、自分たちの最適な判断でプレーできるようになった。教えてもらうことはプラスになることばかりです」と語る。 

福岡枠が二つに増えたチャンスに花園出場

山﨑は九州電力でFLとしてプレーしていた父親の影響で小学校1年から太宰府ラグビースクールで競技を始め、すぐにつくしヤングラガーズに移り、中学までプレーした。福岡県内でベスト4に入り、私立の強豪高校からも誘われたが、高校は2学年上の兄である翔太のいた筑紫に進学した。 

3のとき、花園が95回目の記念大会だったこともあり、福岡県の枠が二つに増えて出場権を勝ちとった。しかし2回戦で大阪桐蔭に10-31で負けた。「花園では不完全燃焼というか、やりきれない気持ちで終わった」と山﨑。 

中3のときに私立の強豪校にも誘われたが、兄と同じ筑紫高を選んだ

花園という晴れ舞台で思うようなプレーができなかった悔しい気持ちと、ずっと同じチームでプレーしてきた兄がいない中で「どれだけ挑戦できるかやってみたい」と、兄の同志社大ではなく明治大進学を決めた。 

2年生のときは大学選手権で準優勝し、そして昨シーズン、山﨑は優勝も経験した。しかし彼は言う。「決勝で負けたときの悔しい思い出、景色を忘れたことはないです。自分たちの代で優勝したい」と、腕をぶす。またリーダーのひとりとしての自覚も十分だ。「(キャプテンのHO武井)日向(4年、國學院栃木)は強い意志で引っ張ってるし、背中で見せてくれてます。ただ、一人に全部任せないように僕らが声をかけたり、リアクションをしたりするようにしてます」 

命惜しむな、名こそ惜しめ

大事にしている言葉がある。それは「命惜しむな、名こそ惜しめ」でだ。高校、大学の先輩であるCTB鶴田馨(現NTTドコモ)に教えてもらった。「もともとビビりで、タックルにけなかったんですけど、チームのためを思うなら自分のことを気にせず、勝つためのプレーができるようになった」と振り返る。その言葉通り、持ち前のアタックだけでなくタックルでも体を張るようになった山﨑をトップリーグの強豪が放っておくはずがなく、来春からはトップリーガーとなる。 

紫紺のジャージで戦えるのも多くて2試合だ

決勝の舞台は新国立競技場だ。山﨑は「まだ想像できませんが、新国立でプレーしたい。ただその前に、東海大を倒すことを意識して練習し、死にものぐるいで戦いたい」。そして、こうも口にした。「僕が活躍しなくても、チームが勝てばそれだけでいいです」。どんなに多くても明治での試合は残り2試合。リーダーの一人として、最上級生として、自分のためではなく紫紺のジャージのためにプレーする。