陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

青学・岩見秀哉がリベンジの8区2位で総合Vに貢献「みんなの言葉で頑張れた」

後方の監督車から原監督は岩見に「落ち着いていけ」と声をかけた(撮影・藤井みさ)

第96回箱根駅伝 

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
1位 青山学院大 10時間45分23秒(新記録)
8区 区間2位 岩見秀哉(青学3年) 1時間4分25秒

今年の箱根駅伝は青山学院大が2年ぶり5度目の総合優勝を飾った。青学は往路の4区でトップに立ってから1度も首位を譲らず、10時間45分23秒の大会新記録でゴール。原晋監督が優勝を確信したのは、8区ラスト5km。前回大会の4区で失速した岩見秀哉(3年、須磨学園)が、力強く遊行寺の坂を登る姿を見たときだという。岩見はレース後、「自分の『リベンジしたい』という思いよりも、去年の4年生やチームメイト、みんなの言葉で頑張れました」と口にした。

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前回MVPの東海・小松に対し「自分の走り」を貫いた

青学は2位の國學院大と1分33秒差をつけ、3年ぶりとなる往路優勝を果たした。往路で青学が意識していたのは、前回総合優勝の東海大だった。その東海大は4位で、3分22秒の差をつけられた。原監督は6区と9区をポイントと考え、7区と8区では「東海に差を詰められるかもしれない」と覚悟し、耐える走りを求めた。6区で東海大主将の館澤亨次(4年、埼玉栄)が57分27秒の区間新記録を出したが、青学の谷野(やの)航平(4年、日野台)も粘った。7区で東海大が2位に追い上げてきたが、青学の中村友哉(4年、大阪桐蔭)はそれでも2分1秒差をつけ、8区の岩見に襷(たすき)をつないだ。

東海大の8区を任された小松陽平(4年、東海大四)は前回、22年ぶりとなる8区の区間新記録を樹立し、東海大に初優勝を引き寄せた立役者だ。「小松さんは力のある選手なので、差を詰められることは初めから想定してました。だから少しぐらい詰められても動揺せず、自分の走りをしようと思ってました」と岩見。原監督も「落ち着いていけ」と声をかけ続けた。

8区スタート直前の岩見。チームの仲間に支えられてここまでこられたという思いが岩見には大きい(撮影・松永早弥香)

岩見の快走に焦ったのは小松の方だった。「アンカーの郡司(陽大、4年、那須拓陽)には青学さんが見える位置で襷を渡すのが最低限の仕事」と考えて岩見を追ったが、中盤は逆に差を広げられる展開となった。巻き返しを狙ったが、結局青学と2分ちょうどの差で襷リレー。小松は区間賞ながら「不甲斐ない走りをしてしまいました」と涙を流した。

原監督は岩見起用を「ケツ」で決めた

岩見は箱根駅伝の2日前に原監督から「8区」と告げられた。ただ、原監督自身が最終的に岩見の起用を決めたのは往路4区の時点だった。監督は8区と10区は最後まで悩み、実際に走った岩見と湯原慶吾(2年、水戸工)のほかにも、新号健志(3年、秋田中央)、早田祥也(2年、埼玉栄)、近藤幸太郎(1年、豊川工)を候補と考えていた。箱根駅伝の1週間前のミーティングでは、早田が8区の最有力候補だったという。

最終的に原監督が岩見起用に踏み切った理由は「冗談半分、本気半分」で「ケツ(尻)」だと表現した。「去年4区のスタートラインに立ったとき、ケツがボテッとしてた。思った以上に絞れてなかった。でも今年はしぼれてたので、使えるのかなって思ったんです」。普段の練習での岩見の「動きや初動作、輝き、つや」から、ゴーサインを出した。

7区の中村に背中を押され、岩見はトップで駆けだした(撮影・松永早弥香)

岩見自身、今シーズンは昨年8月にけがを負い、思うように練習が詰めなかった。しかし、その間も前回の箱根駅伝での悔しさを忘れず、筋力トレーニングに取り組んできた。何より、「まだ大丈夫」「焦らず頑張ろう」と励ましてくれたチームメイトの言葉がうれしかった。練習を再開できたのは昨年11月の上旬。そこから箱根駅伝に向けて走り込み、メンバー決定を左右するポイント練習でも好結果を出した。ただ、箱根駅伝1週間前にはメンバーから外れていた。「自分が走ることはないのかな」と思っていただけに、最後の最後でメンバー入りを告げられたときは「うれしさやプレッシャーよりも、びっくりしました」と振り返る。一緒に走ってきた早田たちの分まで走る責任を、強く感じた。

先輩たちの励ましが力になった

レース前日、メンバーの誰よりも自分が緊張していると感じていたが、往路の選手たちの力強い走りに勇気づけられた。そして、昨シーズンの4年生だった森田歩希(現GMOアスリーツ)や小野田勇次(現トヨタ紡織)、梶谷瑠哉(現SUBARU)らもまた、岩見の力になってくれたという。「4年生の先輩方がLINEを送ってくださって『楽しんでこい』『期待してる』『これまでよく頑張った』って、うれしい言葉をかけてくれました。本当に助かりました」と笑顔で語った。

岩見は優勝記者会見で「1年間チームに迷惑をかけてきて、先輩たちが自分を支えてくれました。支えてくれた人たちに感謝したい」と口にした(撮影・藤井みさ)

自分の走りに集中した結果、区間賞の小松と1秒差の区間2位。あと1秒で区間賞だったと知り、驚いた。「もっと差を詰められると思ってたので、1秒だけにとどめられたのはよかったです」。前回の箱根駅伝からの1年間、岩見自身はチームに何も貢献できなかったという思いが大きい。そして今年、その悔しさを何倍にもして箱根路で返した。