陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

出雲を制した國學院大、箱根で有言実行の3位 ダブルエース土方と浦野の胸中

5位で襷を受け取った殿地は帝京大、東京国際大、明治大との3位争いを勝ちきった(撮影・藤井みさ)

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
3位 國學院大 10時間54分20秒

新興勢力がまた一つ、自校の歴史を塗り替えた。國學院大は2001年の第77回大会で箱根駅伝初出場を果たしたチームながら、昨年の出雲駅伝で三大駅伝初制覇。そして迎えた箱根駅伝では、昨年の7位を上回る総合3位に入った。

鮮やかな逆転劇で三大駅伝初優勝 國學院大キャプテン土方英和、充実のラストイヤー

10区・殿地が出雲で土方が示したことを体現

人また人であふれかえる往路ゴール地点。國學院大の10区を走る殿地(どんじ)琢朗(2年、益田清風)の姿が少しずつ大きくなってくる。5位で襷(たすき)を受け取った殿地は帝京大、東京国際大、明治大とのデッドヒートになった3位争いから抜け出し、順位を2つ上げていた。層が厚い往路に比べ、復路は箱根未経験者が多く未知数と見られていた中、総合3位という目標の実現が迫ってくる。殿地の力強い走りを追う主将・土方英和(4年、埼玉栄)の目には涙が光っていた。

アンカー勝負、土方(中央)と浦野(右端)は祈り続けた(撮影・藤井みさ)

「3位で帰ってきたことよりも、あいつの最後まで諦めない強い気持ちに感動しまして……。1年生のときに箱根の8区を経験した殿地は去年、貧血などで調子が上がらず、苦労した選手なんです。それがつい4日前に復調し、高嶌凌也(3年、日体大柏)の代わりに走りました。高嶌も本当は自分が走りたかったと思うんですけど、殿地が結果を出してくれたので、喜んでるはずです」

殿地の走りは、出雲の最終6区で強豪のアンカーを3人も抜き去った土方の粘り強い走りそのものだった。主将が体現したものは殿地にも、しかと伝わっていたのだろう。土方はそれもうれしかったようだ。

強い気持ちで走り抜けた殿地を前にして、土方は涙が止まらなかった(撮影・藤井みさ)

4年生ダブルエースは不本意な結果をバネにする

一方で土方自身は、2年連続でエース区間の2区を任されたが、納得のいく走りができなかった。1区の藤木宏太(2年、北海道栄)から2位で襷を託されながら、タイムは区間8位。チームの順位を2つ下げてしまった。「東洋大の相澤晃(4年、学法石川)や東京国際大の伊藤達彦(4年、浜松商)のように最初から攻めていけなかった」と振り返る。

それでもすぐに気持ちを切り替え、復路7区では給水係を買って出た。7区にエントリーされた木付琳(2年、大分東明)とは寮では同部屋の関係。けがで苦しみながらも努力している姿を間近で見てきただけに、木付が箱根初出走をかなえたら、必ず土方が給水すると約束していたという。土方は1年生のときから箱根に出場しているがすべて往路。「ほんの少しの距離でしたけど、木付のおかげで復路を走ることもできました」と笑った。

土方(右)にとって2度目の2区は区間8位だった(撮影・安本夏望)

もう一人の4年生エースである浦野雄平(富山商)も、本人いわく「不本意だった」。2年連続で5区を走り、タイム的には昨年自らが打ち立てた区間記録を9秒縮め、順位も1つ上げての2位。それでも「トップでフィニッシュできなかったので意味がない」と悔しさを露わにした。

だが土方も浦野もこれで陸上人生が終わるわけではない。ともに実業団で続ける予定で、土方は3月の東京マラソンへの出場も予定している。チームのもう一つの目標であった「往路優勝」に導けなかったことは、今後の成長のバネになるだろう。

浦野は区間新のタイムでゴールするも、笑顔はなかった(撮影・佐伯航平)

あの総合3位宣言から1年

3年生のときから主将を務めていた土方が「来年は総合3位を目指します」と高らかに宣言したのは、この日のちょうど1年前。チーム最高の7位となり、6年ぶりにシード権を獲得した直後にあった報告会の場だった。しかしチームを取り囲んだ学校関係者の反応は微妙だった。2区から5区までを占めた3年生4人が残るだけに、次回に期待が持てるのは確かだが、「総合3位は……」という空気が流れたという。そして1年後、東海大、青山学院大、東洋大、駒澤大という箱根優勝経験のある強豪とともに「5強」の一角に成長。大言壮語ともとられた言葉を現実のものにしてみせた。「宣言してよかったです」。土方は感慨深げにそう言った。

もっとも今回の結果で、國學院大が2年連続でスローガンとしている「歴史を変える挑戦」が終わったわけではない。挑戦はこれからも続く。