大学陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

大会新と5度目のV 強い青山学院大をつくった4年生、4人それぞれの箱根駅伝

4年生のトップを飾った主将の鈴木(左)から、副将の吉田祐也へ襷リレー(撮影・松永早弥香)

第96回箱根駅伝 

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
1位 青山学院大 10時間45分23秒(新記録)
3区 区間4位 鈴木塁人(青山学院大4年) 1時間1分32秒
4区 区間1位 吉田祐也(同) 1時間30秒(区間新)
6区 区間3位 谷野航平(同) 58分18秒
7区 区間4位 中村友哉(同) 1時間3分23秒

今年の箱根駅伝で、青山学院大は2年ぶり5度目の総合優勝を果たした。その優勝会見の最後に、原晋監督は「かっこいい4年生たちでした」と口にした。16人のエントリーメンバーに入った4人の4年生は全員、箱根路を駆け抜けた。その一人である中村友哉(4年、大阪桐蔭)は言う。「4年生の中でいちばん下だったのが僕と谷野(やの)航平(4年、日野台)でした。そんな僕らが今シーズン頑張れたことで、チームの底上げができたと思う。この4年生がチームを立て直した立役者だと思ってます」

箱根駅伝、青山学院が2年ぶり5度目のV 戦術とチーム力でつかんだ勝利
青学・原晋監督、「勝てるメンタル」は型破りなポジティブ思考から

先輩からアドバイスも受けて挑んだ箱根路

今大会では、たまたま4人の4年生同士が襷(たすき)リレーをすることになった。3区を任された主将の鈴木塁人(たかと、流通経大柏)は4年生として最初に走ることを踏まえ、「(吉田)祐也(4年、東農大三)や谷野、友哉が続く中で、僕の役目を感じました。『4年生強いぞ』と原監督からも言われたかった」と明かした。

鈴木は自分の走りを振り返り、「ライバルである東海大を離せたので自分の仕事はできた」(撮影・安本夏望)

鈴木は2区の岸本大紀(1年、三条)からトップで襷(たすき)を受け取ると、自分のペースで押していった。東京国際大のイェゴン・ヴィンセント(1年)に抜き去られ、一時は國學院大にリードを許すも、最後に粘って2位に浮上。4区の吉田祐也は「競技生活10年間のすべてを出しきる」と心に決め、最初で最後の箱根路に臨んだ。14km手前で東京国際大を抜き、首位に返り咲いた。そしてタイムは1時間30秒の区間新記録。前回、東洋大のエース相澤晃(現4年、学法石川)がたたき出した記録をさらに24秒上回り、青学がマークしていた東海大との差は51秒から1分58秒に広がった。5区の飯田貴之(2年、八千代松陰)も区間新記録のペースで快走。3年ぶりに往路優勝を飾った。

6区の谷野、7区の中村も吉田祐也と同じく、最初で最後の箱根路だった。青学の6区は過去4大会、小野田勇次(現トヨタ紡織)が担ってきた。昨年10月に原監督から6区と言われた谷野は「もちろんうれしかったんですけど、小野田さんが抜けた穴を埋めるプレッシャーをすごく感じました」と振り返る。1週間前には小野田に電話でアドバイスを求めた。「最初の5kmは脚を使わず上り、下りにしっかり備える走りをしたらいい」。その走りを意識しながらレースを進め、想定より12秒速い58分18秒の区間3位の走りで中村に襷をつないだ。

中村も過去2大会連続で7区を走った林奎介(現GMOアスリーツ)から「突っ込んでいけるコース」とアドバイスをもらい、序盤から飛ばした。10km地点でみぞおちあたりに差し込みが起きたため、「押しきるよりも一度、立て直そう」とペースを落としたが、15km地点の給水からはもう一度上げた。この7区で2位に上がってきた東海大と2分1秒差を残し、8区の岩見秀哉(3年、須磨学園)につないだ。岩見は東海大の小松陽平(4年、東海大四)と1秒差の区間2位と好走。結果、往路4区以降、青学は首位を明け渡すことなく、大手町に湯原慶吾(2年、水戸工)が真っ先に飛び込んできた。

最高の走りで区間新記録、引退は惜しくない

レースを振り返り、「計算より+α。そこまでいくとは思ってませんでした」と原監督がたたえたのが吉田祐也だ。3年生のときの全日本インカレ10000mで日本勢トップの3位を果たした実力者だが、過去2大会の箱根駅伝ではともに11番目の選手だった。とくに前回、青学は総合2位で5連覇を逃した。「個人として走れなかったこともそうですけど、チームとしても勝てなかったことが悔しかった」と振り返る。

吉田祐也(左)は「10年間、このたった1時間のために努力してきました」(撮影・北川直樹)

強い4年生が卒業し、「弱い代」と言われることもあった。吉田祐也は「いままで自分が人に頼りっぱなしだったんだなと痛感させられました」と言い、悩みながらも普段の生活や練習の中で自分ができることに意識を向けた。箱根駅伝に向けて、充実した練習が積めたという自信があった。結果、区間2位に1分7秒差もつけての区間新記録。「4年間苦しいことの方が多かったけど、最高の走りができたので悔いなく卒業できる」と言いきった。吉田祐也は大学で競技を引退する。「引退するのは惜しいと思いませんか?」という質問にも「思わないです」と笑顔で答えた。

マネージャー転向への打診、タイム突破から上向いた

谷野もまた、大学で競技を引退する。中村は「谷野と襷リレーができたことはやっぱりうれしかったです」と言う。谷野と中村は3年生のときの夏合宿前、学年ミーティングで原監督からマネージャー転向の打診を受けた。箱根駅伝後の新体制移行までに、規定タイム(5000mで14分30秒)を切ることが選手の条件だった。「このままではいけない。だから頑張りなさい」と原監督に発破をかけられた。

中村自身、最初はショックで食事がのどを通らず、1週間で体重が2kgも減ってしまったという。それでも高校のコーチや親に相談する中で気持ちが上向き、「やってやろう!」と覚悟を決めた。

チームメイトが箱根駅伝に向けて距離を踏んでいる中、中村と谷野はスピード練習も加え、5000mの記録会に挑んだ。そして二人とも3年生の秋のうちに規定タイムをクリア。「期限を与えられ、そのための練習も積ませてもらえました。クリアできてホッとしたし、そこから谷野も僕も上り調子でこれました」と中村。とくに谷野は今シーズン、1500mで関東インカレ2部2位、日本インカレでは3分45秒31の自己ベストで4位入賞を果たした。「やっぱり僕もすごい刺激になりました」と中村は振り返る。

中村(右)は「谷野と襷リレーできて本当にうれしい」(撮影・佐伯航平)

箱根駅伝で二人がエントリーメンバー入りを果たしたのは今大会が初だった。そして6区と7区を任された。小田原中継所にトップで飛び込んできた谷野の表情には勢いがあった。襷リレーの瞬間を中村はこう話した。「谷野が気持ちよさそうに走ってきて、僕も笑顔が絶えなかった。顔は笑顔だったけど気持ちは必死。これはいくしかないな。この勢いを大事にしよう。最初からぶっ飛ばしていこうって思いました」

「いちばん弱い」と言われた代で示した強さ

中村は来春から地元大阪に戻り、大阪ガスで競技を続ける。「1500mや5000mを鍛え直し、日本選手権で5000m優勝を、その後にはマラソンなどにもつなげられたらいいなと思ってます」。同じ東大阪市出身のランナーには関西学院大の石井優樹(4年、布施)がおり、二人は中学生のときから争ってきた仲だ。「箱根で優勝できたとは報告したいですけど、あいつは強気な発言をしてくると思うんですよね。『俺だったらもっといけるぞ』って。(大阪に)戻って戦うとしたらこっからが勝負なんで、『まだまだ負けないぞ』と言いたいです」と笑顔で宣言した。

「卒業していった4年生への恩返しがやっと箱根でできました」と話す主将の鈴木は、今春からSGHで走る。「箱根は通過点。社会人からスタート」と言う鈴木は、オリンピックや世界選手権に出て、見たことがない景色に挑戦したいという思いがある。「おじさんになるまで走る」という夢を掲げており、できるだけ長く競技者を続けていきたいと考えている。

4人の4年生もそろって、大手町でアンカーの湯原を待ち構えた(撮影・藤井みさ)

同じ襷をつないだ4年生も、この箱根駅伝を最後にそれぞれ次のステージに進む。箱根駅伝の事前取材で中村は「いちばん弱いと言われた代で勝てたらやっぱりうれしいですし、言われてきたこと全部を覆せるようにしたい」と言っていた。そして今大会、全部を覆せるだけの強さをしっかりと見せつけた。