東洋大がまさかの10位 主将・相澤晃と副将・今西駿介が振り返る苦悩の1年間
第96回箱根駅伝
1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
10位 東洋大 10時間59分11秒
清々しくも寂しげでもあるその表情が、2人のこれまでを物語っていた。往路でまさかの11位。シード圏外という想定外の状況に心が揺れた。「チームをまとめてあげられれば」。1年間、主将を務めた相澤晃(4年、学法石川)が往路後にポツリとこぼした言葉だ。そして東洋大は復路7位、総合10位となった。「自分たち4年生のせいだと思ってます」。副将の今西駿介(4年、小林)はときおり詰まりながらも、箱根直後の報告会ではっきりそう言った。
常勝チームを引き継いだ2人の苦悩
相澤にはこれまで主将の経験はなく、手探りで必死にチームをまとめた。言葉で引っ張るというよりは態度や行動で進むべき道を示す。その相澤の姿にあこがれる部員も多い。しかし、それがあだとなったのか。生活面で下級生の失敗が続いた。そのことに注意などをあまりしてこなかったからか、チーム内には忘れ物や寝坊がなくならず、それが次第に走りにも表れていった。学生ナンバーワンランナーは、自身が率いるチームの不協和音に苦しんでいた。
迎えた箱根駅伝の往路、相澤の2区区間新記録での区間賞、宮下隼人(2年、富士河口湖)の5区区間新記録での区間賞という見せ場はあったが、チームは11位に沈んだ。今西は自身3度目の6区。1位以外の順位で芦ノ湖を後にするのは初めてだった。それでも「相澤の走りを見て自分もやらないといけないと思った」と、往路で圧倒的な走りを見せた相澤のように、魂の走りで7位まで順位を押し上げた。前回大会で目の当たりにして驚いた記録を、57分34秒という区間新記録(区間2位)をもって超えた。
今西は今季、副将として相澤を支えてきた。三大駅伝が開幕してすぐに、チーム状況の改善が急務だと悟った。この状況になったのは自分たち4年生の責任だと反省し、徹底して下級生を注意した。今季の東洋大4年生の安定感は、こうした苦悩のもと実現されていた。
東洋大のユニフォームを着て走る最後の箱根は区間新記録を出しても、区間賞を取っても、4年生の顔が晴れることはなかった。しかし、箱根初出走ながらアンカーとなった及川瑠音(1年、一関学院)をゴールで待つ2人は、とても穏やかな顔をしていた。
2人から後輩へつなぐ鉄紺の襷
東洋大に入ってよかったですか? と相澤に聞いた。すると、すぐにこう返ってきた。「東洋大学に入ってなかったら、いまの自分はないと思います」。側から見ると、3位以内の記録を11で止めてしまった。順位も、シード権ギリギリの10位。伝統あるチームの主力は重圧も大きい。その上で彼らは「心からやりきった」と言いきれるほどのものを得た。あとは2人の姿を見て涙を流した後輩たちが、自らの誇りを取り戻すところを見届けるだけだ。今西は「苦しんでいるけど耐えて、次のステップへ向けて飛躍してほしい」と後輩たちにエールを送った。
苦しみながらも一時代を作った4年生は、東洋大での歩みを終える。チームの誰もがあこがれてきた男が言う。「今年の悔しさを来年、後輩たちが晴らしてくれる」。発破をかけながらも、相澤の声音は穏やかだった。こうしてまた、鉄紺の襷(たすき)は受け継がれていく。