陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

箱根駅伝12位の中央大 最後に見せた二井の走り、支えた舟津と田母神の笑顔

唯一の4年生として箱根路を駆け抜けた二井を舟津(左)と田母神がゴールで迎え入れた(撮影・藤井みさ)

第96回箱根駅伝

1月2、3日@大手町~箱根の10区間217.1km
12位 中央大 11時間3分39秒

中央大は今年の箱根駅伝で「シード圏内、8位」を目標に掲げていた。結果は12位。シード権ラインとなった10位東洋大とは4分28秒差だった。前回の11位からは順位を落としたものの、その前回のタイムを7分更新する中大新記録。「往路は想定よりも1分速く、復路は調子がよくない選手もいたけど耐えてくれました。アンカーの二井(康介、4年、藤沢翔陵)が4年生の意地を見せてすべて出しきってくれた。みんなよく頑張ってくれました」。長距離ブロック主将の田母神一喜(4年、学法石川)はレース後、そう口にした。自身の悔しさを押し隠しながら。

中央大・田母神一喜 悩み苦しんで目指した箱根、主将として駆け抜ける
中央大・舟津彰馬 「ばっちこい!」と挑む最後の箱根駅伝、念願のシード権を

アンカー二井、亡き母を思い駆け抜けた

前回大会、中央大には中山顕(現Honda)と堀尾謙介(現トヨタ自動車)のダブルエースがいた。中山は1区で区間2位、堀尾は2区で区間5位と好走。その勢いを継続させたかったが復路で耐えきれず、11位に終わった。今大会では往路を課題とし、藤原正和監督は選手たちに耐える走りを期待した。往路を13位で終え、復路はルーキーの若林陽大(倉敷)からスタート。8区で矢野郁人(3年、須磨学園)が順位を一つ落としたが、9区の大森太楽(3年、鳥取城北)が抜き返し、アンカーの二井へ襷をつないだ。

大森(左)からの襷を二井は笑顔で受け取った(撮影・安本夏望)

二井は今大会が最初で最後の箱根路だった。1年生のときの夏、同期の舟津彰馬(現4年、福岡大大濠)と田母神が急きょ主将と副将になり、新体制の下で箱根駅伝予選会に挑んだが、中央大は11位で本戦出場を逃した。二井は当時の1年生では唯一の10000m28分台ランナー。この予選会にも舟津とともに出走した。しかし2年目はなかった。休部して競技から一線を退いたが、闘病中だった母の言葉で再び箱根駅伝を目指すと決意し、陸上部に復帰した。その母は2018年春に他界。目指す場所を失いかけたが、仲間や家族に支えられ、再び前を見ることができたという。

昨年11月の上尾ハーフには田母神とともに出場し、自己ベストをたたき出した(撮影・藤井みさ)

2年ぶりに挑んだ予選会で中央大は8位で本戦出場へ。その予選会でチーム10番目のタイムだった二井は、本戦を走れなかった。そしてラストイヤーが始まった。全日本大学駅伝関東地区選考会も箱根駅伝予選会もメンバー入りできず、チームに迷惑をかけていると自分を責めた。それでも自身の課題と向き合い、昨年11月の上尾シティマラソン(ハーフ大学生男子の部)で自己ベスト。箱根駅伝に向けて調子を上げてきた二井の姿を見て、藤原監督はアンカー起用を決めた。

前を行く拓殖大との差は1分45秒。二井は序盤からつっこみ、徐々にその差を詰めた。15km手前で拓殖大の背中をとらえ、さらに前を追う。11位の中央学院大をとらえることはできなかったが、最後にもう一度ペースを上げ、大手町に戻ってきた。ゴールでは田母神と舟津が待っていた。「二井ラスト!」。ひときわ大きな声で二人が叫ぶ。フィニッシュテープを切り、二人の元へ。二井を抱きかかえた舟津は顔をくしゃくしゃにさせながら、ポンポンと何度も二井の背中を優しくたたいた。

二井は1時間10分18秒で区間6位。中央大の中で唯一の一桁だった(撮影・北川直樹)

踏ん張った、それでも“色”が足りない

田母神と舟津は今大会、16人のエントリーメンバーに入ったものの、出走には至らなかった。それでも舟津は復路の最終メンバー発表後、「間に合わなかったとかではなくこれが中央大学のベストオーダーです! 安心してみてください」とツイッターで発信していた。田母神は言う。「箱根に向けて半年間頑張ろうと思ってやってきて、でも最後は自分の実力が足りなくて外れてしまいました。全部出しきっての負けですので、何て言うか、悔しいのはもちろんありますけど、悔いはないです」

舟津はレース前、「踏ん張って踏ん張って戦うぞ」と選手たちに声をかけた。前回大会で耐えられなかった復路に課題を感じていたが、二井の力強い走りも含め「今年は復路でもある程度は戦えたというのは、来年につながるかと思います」と選手たちをたたえた。

それでも、シード権を狙うには“色”が足りないという思いが舟津にはある。「もっと自分たちの強みを出せるような展開を、自分たちでコントロールしてつくっていかないといけない。チームの強みをしっかり理解して走る。そこをもうちょっと明確に突き詰められれば、うちももっと戦えると思う」。今大会のメンバーは3年生が主体となり、ポイントとしていた6区の山下りは1年生が担った。このレースをどう感じ、自分たちの色をどう出せるか。これからを担う後輩たちに期待している。

ゴール前、「二井ラスト!」と大きな声で何度も叫んだ(撮影・藤井みさ)

田母神と舟津、中距離ランナーの再スタート

箱根駅伝を目指してきた田母神の挑戦は終わった。今後はまた中距離ランナーに戻り、阿見アスリートクラブに所属するプロランナーとして、1500mで東京オリンピックを目指す。田母神は昨年夏まで、前800m日本記録保持者の横田真人さんから指導を受けていた。箱根駅伝のためにそのチームを離れると決断した際、横田コーチには「帰る場所はないと思え」と言われていた。「まだ(横田コーチの)面接に合格してないので、まずは合格します」と田母神。1月10日から合宿に取り組み、2月からオーストラリアでシーズンインする予定だ。

舟津は地元福岡に戻り、中央大OBの片渕博文氏が監督を務める九電工に進む。田母神と同じく1500mで東京オリンピックを目指す。「自分の力量をちゃんと理解して、この1月から日本選手権までに、ある程度自分のビジョンを固めてから狙っていきたい」。その先にパリオリンピック、そしてロサンゼルスオリンピックも見すえている。

田母神と舟津は今後、別々の道を歩むが、同じ目標を掲げるライバルであることに変わりはない。舟津は箱根駅伝が終わったら「まずはビールを飲みたい」と話していた。その横にはきっと、田母神もいたことだろう。