大学野球

特集:駆け抜けた4years. 2020

六大学通算17勝「小さな大エース」立教・田中誠也 打たれて落ち込んでるんはダサい

昨秋の最終カードの明治戦、1回戦の1回で降板した田中(中央)はベンチで大声を出した(すべて撮影・うさみたかみつ)

「小さな大エース」という言葉がこれほど似合う選手も、そうはいない。身長173cm、体重68kgの体を大きく使い、左腕を振る。かわすだけでなく、時には胸元をついて詰まらせる。立教大の田中誠也(4年、大阪桐蔭)はそうやって、大学野球の最高峰、東京六大学で勝利を積み重ねてきた。 

「勝てるピッチャー」を目指すことにした

1月。プロ野球の各球団では新人合同自主トレが始まった。昨秋のドラフト会議で大学生として最も注目を浴び、広島へ進んだ明治大のエース森下暢仁もその一人だ。 

田中は1年生の春から神宮のマウンドに立ってきた

そこに田中の姿はない。早い段階から社会人野球の大阪ガスに進むと決め、プロ志望届も出さなかった。投手としての森下をどう思うか聞くと、驚くほど素直にこう答えた。

150kmを超えるボールを投げるし、うらやましいなって思います」と。ただ、続けた言葉に田中のプライドがにじむ。「うらやましい部分はたくさんあるけど、それなら僕は『勝てるピッチャー』になろうと思ってやってきました」 

そう。この春に六大学を巣立つ4年生の中で、最も多くの勝利を挙げたのは森下(15勝)ではなく、田中(17勝)なのだ。1年生の春からリーグ戦を経験すると、2年生の春からは先発を任された。3年生の春には6勝を挙げ、1.16の防御率を残した。 

大切にしたリズム、タイミング、コントロール

彼には150kmの直球はない。大切にしてきたのは「リズム、タイミング、コントロール。プラス低め」。大阪桐蔭高時代に石田寿也コーチから耳にタコができるほどにたたき込まれた教えは、いまも脳裏に深く刻まれる。 

投球のリズム、リリースのタイミング、打者とのタイミング……。その投球フォームには一切のぶれがない。しなやかに体全体を使い、白球を放つ。140km前後の直球にスライダー、2種類のチェンジアップ。大学4年生でカットボールも覚え、投球の幅を広げた。中日入りした慶應義塾大の郡司裕也(4年、仙台育英)が「打てそうで打てない。狙い球が絞れない」と評するように、文字通り打者を手玉に取り続けた。 

投球だけではない。彼は仲間からもファンからも愛される。 

自分が投げている試合でも、攻撃中はベンチの最前列で声をからす。だから、打たれても「お前がエースやで」と仲間が集まってくる。象徴的な試合が、最後のシーズンにあった。

昨秋の最終カードとなる明治大戦1回戦が苦しい投球となり、田中は顔をしかめる

昨秋の最終カード1回戦で早々にKO 

立教にとって最終節となった昨秋の明治戦。1回戦に先発した田中は15失点でKOされた。 

ベンチに帰ると、仲間に言った。「ホンマごめん。頑張って声出すから、取り返してくれ」と。味方打線は森下ら明治の投手陣に襲いかかり、引き分けに持ち込んだ。2日後の3回戦で、田中は見事に勝利。通算17勝目を挙げたのだった。 

これは彼の精神的な成長を示すエピソードでもある。2年生の春の法大戦。先発で打ち込まれた田中は、ベンチの端っこで声も出さずにうつむいていた。すると、試合後のミーティングで当時主将だった熊谷敬宥(現プロ野球阪神)から、全員の前でこう言われたのだという。 

「打たれたら終わりか?」 

追いつこうと頑張ってくれる野手の仲間がいる。「それなのにしょんぼりしてしまった自分はダサかった」。ベンチの雰囲気をだいなしにする行動を深く反省した2017415日が、田中の野球人生にとってのターニングポイントだった。 

この春に六大学を巣立つピッチャーで、一番勝ってきたのは田中だ

いろんな人から応援される投手になりたい

目標は2年後のプロ入り。そして、長く野球をやることだ。人なつっこい笑顔で、どれだけ活躍しても偉ぶることがなく、人の意見を素直に聞き、感謝できる。 

「人から信頼されて、任せてもらえるピッチャーになりたい。いろんな人から応援されるピッチャーになりたいです」。田中誠也はまさに、そんな投手だ。新たなステージで再び「小さな大エース」の地位を確立し、これからも愛され続けることだろう。