野球

特集:東京六大学 2020真夏の春リーグ

東大野球部・井手峻監督 活動停止期間中も有意義に過ごしリーグ戦開幕を待つ

練習する選手を見つめる井手監督(2019年11月、撮影・江口和貴)

東京六大学野球連盟は4月5日、5月下旬に開幕日を延期し、1試合総当たりの方式に変更してリーグ戦開催の準備を進めると発表した。東大野球部は3月27日より活動を停止している。自主練習も限られたことしかできていないが、選手たちはこの時間を有意義に過ごしている。今春がリーグ戦初采配となる井手峻監督(76)に話を聞いた。

前回の1試合総当たりの時は2位に

戦後初めてリーグ戦が行われたのは1946年の春。東大はこの時、チーム史上最高順位である2位になった。東大在学時は投手でリーグ通算4勝をマークした井手監督は「よく当時の選手だったOBから『俺たちは2位だったんだ』と自慢されましてね」と回想する。井手監督は中日で投手、野手で10年間プレーした東大初の元プロ監督でもある。プロでの指導者経験も豊富で、中日では二軍監督や、一、二軍のコーチを計14年間務めた。

東大が2位になった1946年春は、終戦直後とあって1回戦総当たりだった。球場は神宮球場が占領軍(米国軍)に接収されていたため、後楽園球場などが使用された。開幕日が5月下旬に延期となった今春のリーグ戦も、従来の勝ち点制ではなく、74年前と同じ1試合総当たりで行われる。井手監督は「ゲンもいいですし、1カードで1勝すればいいので、ウチにとっては有利に働くかもしれません」と話す。

とはいえ、万全な準備ができていない状況は他大学と変わりがない。東大はオープン戦こそ、対戦校の活動自粛による都合で予定通りにはこなせなかったものの、3月26日までは練習も通常通りに行っていた。しかしこの日に学校から活動停止の通達が出され、東大球場も使用禁止となった。選手たちはリーグ戦のメンバークラスが入れる一誠寮や下宿先でオンラインによる授業を受けながら、その合間に東大球場の周りで自主練習をしている。できることはランニング、スイング、キャッチボールくらいと限られるが、選手たちはその時間を大切にしているという。

東大野球部の今年のスローガンは「挑戦」だ(2020年1月、撮影・杉山圭子)

自主練習の期間中、井手監督から出された指示が1つある。それは投手、野手問わず、「出来上がっている肩を休ませないように」ということだ。

「肩を休ませてしまうと、活動が再開になった時にまた肩を作らなければならないからです。実戦にすぐに適応できるように、『キャッチボールではある程度強い球を投げておきなさい』と言ってあります」

感染を防ぐために謙虚な気持ちで行動する

活動停止中なので対面での指導はできないが、選手には携帯アプリのLINEを通じてアドバイスを送っている。また「気になりますからね」と時たま、選手から離れたところで、自主練習の様子を見守っているという。

もちろん選手には新型コロナウイルスへの対応についても話をしている。

「日本以上に感染が拡大している国で生活している友人がいるのですが、その恐ろしさを聞きましてね。私自身も認識を新たにしました。選手には自分を過信せずに、謙虚な気持ちで行動するようにと、活動停止が決まった前日に強く訴えました。私も年齢的なところもあるので、細心の注意を払っています」

ふだんは文武両道を実践することで生活のリズムを作っている東大の野球部員。「武」の比重が減り、気持ちの張りを保つのが難しいところもあるようだが、活動停止中も有意義に過ごしている。春のリーグ戦が始まった暁には、まず連敗を42で阻止し、「東大旋風」を巻き起こすつもりだ。