陸上・駅伝

特集:駆け抜けた4years.2021

駒澤大の主将・神戸駿介と副主将・小島海斗 箱根駅伝優勝へ率いた2人の信頼関係

優勝のゴールテープを切った石川を迎えた神戸(左)と涙をぬぐう小島(右)(撮影・藤井みさ)

第97回箱根駅伝で13年ぶり7度目の優勝を果たした駒澤大学。下級生の台頭、初出場の6区の花崎悠紀(3年、富山商業)の区間賞、そして最終10区石川拓慎(3年、拓大紅陵)の最後数㎞での大逆転劇など見どころの多いレースだったが、注目されたのは出場したメンバーだけではなかった。

今年度1年間チームを引っ張り続けた4年生のうち、出走したのは3区の小林歩(4年、関大北陽)のみ。他の4年生は出場選手の付き添いや給水などサポート役に徹し、その姿もまた注目された。中でも神戸駿介(4年、松が谷)は主将として、小島海斗(4年、市立船橋)は副主将としてチームをまとめ上げた。

二人だからこその仲の良さ

今年度は試合の数が激減し、それに伴い取材の機会もとても少なかった。だが年4回のコマスポ発行のため陸上部には主にオンラインで取材に応じていただいた。その中で特に印象に残っているのが12月上旬に行った、箱根駅伝に向けての神戸主将と小島副主将の対談取材だ。

はじめに「お二人の普段の仲はいかがですか?」と聞いた。すると二人は笑顔で冗談っぽく「いや、そんなに仲良くないですよ、ぼちぼちです」。逆に仲の良さが伺えた。

「主将・副主将になって変わったことは?」と尋ねると神戸は「責任が増えた。人に指示を出すことも増え、自分ができていないと説得力がなくなってしまうので、準備とか期日を守るとか、そういう自覚はあります」と話した。対して小島は「僕の場合は特に変わりはないですね」とあっさり答えた。

石川を迎え入れた神戸(撮影・藤井みさ)

二人は質問の答え方が大きく異なる。これまでの取材から、神戸は一つひとつの質問に丁寧に、考えながら答えるのに対し、小島は比較的簡潔に、はっきりと話すタイプだと感じていた。この質問からもよく分かるだろう。さらに、神戸が話す間小島はじっと耳を傾け時折うなずく。また小島がさらっと答えると神戸は「それだけでいいの?」というように笑う。二人の自然な関係性が見て取れた。

二人なりのチームのまとめ方

お互いの信頼関係も知ることができた。「相手に感謝しているところ」として神戸は「選手たちも自分が注意するうちはまだいいけど、小島が出てきたらやばいと分かっていたと思う」と小島が最後の砦のような位置でいてくれたことを挙げた。そんな小島は「全部。チームのことは任せきりだったのでありがたい。冗談抜きで」という。質問の答え方と同じように生活面でもタイプが違っていたようだった。お互いを理解しきっているからこその分業をしていたのだろう。

結果として、下級生からものびのび走ることができ、学年問わず仲が良く競技としても力のついたチームを作り上げた。

それぞれ一選手としての目標

この取材はエントリーメンバー発表よりも前だったため、箱根当日への意気込みも聞いていた。神戸は「故障していて、ぎりぎりまでチームに合流できず今なんとか仕上げていてエントリーできるかもまだ分からない。入ることができたら上級生として貢献して、終わったときに笑顔でいたい。それまで悔いのないように一日一日努力していきたい」と話していた。そして小島は「2、3年生のときに区間1桁(順位)で走れたので、4年目こそは区間賞を取れるようにしたい」。

昨年の箱根駅伝、4区を走り区間5位だった小島(撮影・北川直樹)

終始和やかに進み、笑顔が絶えない取材だったが、この質問のときばかりは特に真剣なまなざしになったのが画面越しに分かった。前回の第96回大会では目標を下回る8位になり、その晩の慰労会で悔しい思いをあらわにしてリベンジを誓っていたことが思い出された。

出場はかなわずとも優勝の立役者に

だからこそ私は二人の走る姿を楽しみにしていたのだが、エントリーメンバー16名の中に小島の名はなく、神戸もエントリーはしたものの、走ることはなかった。

「箱根路を走らない」と分かってから当日を迎えるまでどのような心境だったのか、想像することは難しい。だが大会当日、テレビには後輩の好走を褒め、共に喜ぶ二人の姿が見られた。優勝のゴールテープを切った石川も「最後に神戸さんと小島さんが迎えに来てくれて、去年恩返しができなかった分、今年恩返しができたかなと思う」と語った。

この箱根で優勝を果たし、全日本大学駅伝と合わせて2冠、「三大駅伝単独最多優勝校となる」という目標も達成した今年度のチーム。神戸と小島がその駅伝を走ることはなかったが、練習では最上級生として前で引っ張り、さらに主将・副主将としてお互いの特性を信頼しながらチーム全体をまとめ上げた二人の功績は大きい。

この二人の活躍を実際に見に行く機会がなかったのは悔しいが、二人は共に別々の実業団に進む。今度は走る姿も見られることを楽しみにしたい。