早大・千葉百音 羽生結弦さんの背中を追ってオリンピックへ「坂をよじ登る気持ちで」
フィギュアスケート女子で早稲田大学1年の千葉百音(もね、木下アカデミー、東北)は昨シーズン、仙台から京都に拠点を移し、四大陸選手権で初優勝、初出場の世界選手権で7位と健闘した。オリンピック2連覇を成し遂げた同郷の偉大な先輩、羽生結弦さんの背中を追いかけ、世界への階段を上がる。
羽生さんが教えてくれたスケートの楽しさ
端正で美しいスケーティング。物語を語るようにプログラムを演じる。それが千葉百音の魅力だ。仙台で育まれた才能が、京都から大きく花開こうとしている。
宮城県仙台市出身で、4歳の頃にスケートを始めた。2大会連続オリンピック金メダリストの羽生結弦さんが育った「アイスリンク仙台」で技術を磨いた。
幼少期は羽生さんがリンクで鬼ごっこをして遊んでくれた。「やさしいお兄ちゃん。すごい面倒見がいい感じです。スケートが楽しいという記憶ができて。スケートの楽しさはそこで教えていただけたのかなって思います」
趣味は読書。小中学生の頃はたくさん本を読み、言葉の感性や想像力を育んだ。
初の世界選手権7位「すごくいい経験」
偉大な先輩と同じ東北高校に進学。高校1年時の2021年全日本ジュニア選手権で3位に入り、頭角を現した。翌シーズンはジュニアグランプリシリーズに初挑戦。全日本ジュニアで2位に入ると、推薦出場した全日本選手権で5位と飛躍し、ジュニアながら四大陸選手権代表に抜擢(ばってき)された。自身初の大舞台で堂々と演技し、銅メダルを獲得、トップ選手へと駆け上がった。
高校3年時に京都府宇治市に拠点を置く木下アカデミーに移籍、シニアに転向した。シーズン前半は運動誘発性ぜんそくを患い、本調子ではなかった。治療により回復すると、昨年12月の全日本選手権で2位と躍進。今年1~2月の四大陸選手権では自己ベストを10点近く更新する合計214.98点のハイスコアをたたきだし、日本女子史上10人目となる優勝を飾った。
今年3月の世界選手権にも初出場。SP13位から臨んだフリーでは3回転フリップ-3回転トーループの連続ジャンプをきれいに決め、スピンはすべて最高のレベル4を獲得して総合7位と追い上げた。3連覇を達成した坂本花織(シスメックス)との順位合計で、日本の来シーズン出場枠3枠獲得にも貢献した。
「すごく濃い1年だった」。千葉は激動のシーズンをそう振り返る。
「シーズン前半はなかなか結果が出なくて悔しくて。全日本選手権と四大陸選手権は緊張する中でいい演技ができました。世界選手権に初めて出場させていただいて、いままでにないくらい緊張しましたが、その緊張を味わえて、すごくいい経験ができました。世界選手権は悔しい結果だったので、たくさん反省点も見つかりました」
その世界選手権では、3連覇を達成した坂本花織(シスメックス)の演技に圧倒された。「緊張した場面でもなんとしてでも(ジャンプ)を下りるという強い意志が伝わってくるフリーで、すごく感動しました。常に安定したジャンプが跳べるように、さらに強くなりたいと思いました」
早大の通信課程に進学、生態心理学などに関心
今春には、早稲田大学人間科学部の通信教育課程に入学した。羽生さんと同じ学部だ。
「いろんな学部の学問を学んでみたいと思っていたのと同時に、フィギュアスケートに関連する学問があったらいいなって思っていました」
スポーツ科学関連の大学をいくつか探した。オリンピックまでの1~2年は競技を優先したいと考え、早大の通信課程を選んだ。
学部では多彩な講義が用意されているが、千葉は生態心理学やパフォーマンス認知科学などに興味があるという。「最終的には競技と学問をつなげた研究をしたいと思いますが、いまはインプットの期間だと考えています」と話す。
一日一日を大切に練習していきたい
2026年2月のミラノ・コルティナダンペッツォ・オリンピックは約1年半後に迫る。大会の出場枠(各国・地域最大3)は来年3月の世界選手権の成績で決まる。
千葉がオリンピックを意識し始めたのは高校時代。「自分のフィギュアスケート人生を考えた時に一番ピークを持っていくべきオリンピックってどれかなって考えた時に、ミラノ・コルティナダンペッツォ五輪だと思った」
オリンピックまでの道のりを、千葉は「よじ登る」と表現する。
「普通に登れる坂ではない、気を抜けばずるずるって下がってしまうし、けがをしたら練習ができなくなってしまう。毎日、積極的に練習をしないといけない時期であることは明らかなので、一日一日を大切に練習していきたいです。努力の過程はどうしても3歩進んで2歩下がるみたいな感じなんですけど、その中でも1日1mmでも高く跳んで、少しでも上手くなれるように意識していきたいです」
練習では、4回転トーループやトリプルアクセルにも積極的に取り組む。精度が上がってくればプログラムへの投入も視野に入る。
今シーズンのプログラムはSP、フリーともに新しくした。SPはケイトリン・ウィーバー振付の「Last Dance」で明るく軽快な曲。フリーはローリー・ニコル振付の「Ariana Concerto No.1」でピアノとオーケストラの荘厳な音楽だ。8月初めの木下トロフィー争奪大会では、今シーズン初戦ながらも完成度の高い演技で初優勝し、幸先のいいスタートを切った。
大会後は、日本スケート連盟がオリンピックを見据えて実施した、イタリアの強化合宿に参加。夢の舞台に向けて士気を高めた。
どの試合でも自分のペースを崩さずに
自分の名前が好きだという千葉。「『百音』の漢字は将来、芸術や音楽を一緒にできたらいいなと、両親が考えて決めてくれました」
その名前のとおり、多彩な音を奏でるようにプログラムを演じる。
「その曲の音自体を感じ取って、音に体を乗せるようなイメージで表現するのは得意な方だと思います」と語る。
その表現力にますます磨きをかけている。
「頭の中で滑ろうと思っていることと、体に出る姿勢には自分の中では、まだまだラグがあるなって感じています。こういう動きをしたいってなった時に思ったように完全に再現できるようになるまで、もうちょっと練習が必要だと感じているので、極めていきたいですね」
今シーズンのGPシリーズは第4戦のNHK杯と第6戦の中国杯に出場予定だ。「どの試合でもしっかり自分のペースを崩さずに、その時の練習のすべてをしっかり出し切りたい」と意気込む。
目指すのはシーズン終盤の世界選手権出場だ。
「世界選手権に出場できたことはすごく大きな第一歩でした。来年も必ず世界選手権に出たいって思いが強くて。今度は出るのを楽しむみたいな感じではなく、しっかり結果を残して、爪痕を残してこられるようにしたいです」