フィギュアスケート

早稲田大学スケート部・永井優香 ラストダンスは感謝を込めて

東京選手権女子SPで「エリザベート」を披露する永井優香(撮影・朝日新聞社)

フィギュアスケートの全日本選手権が12月25日から長野市で開催される。今季限りで引退を決めている早稲田大学社会科学部4年、スケート部フィギュアスケート部門主将、永井優香(22、駒場学園)がインタビューに応じ、これまでのスケート人生や大会への思いを語った。集大成の舞台で支えてくれたすべての人へ感謝の気持ちを込めて演技する。

早大の偉大な先輩たちを追って

東京出身の永井は、中学時代から国際大会で活躍。高校1年の2014-15年シーズンはジュニアから全日本選手権に推薦出場して4位に入り、四大陸選手権、世界ジュニア選手権に出場。翌シーズンはグランプリ(GP)シリーズスケートカナダで3位に入るなど飛躍した。

スケート漬けの高校生活を送る中で、世の中を広く見たいと思うようになった。2006年トリノオリンピック女子金メダルの荒川静香さんをはじめトップ選手を輩出し、勉強とスポーツを高いレベルで両立できる早稲田大学へ進学した。

「いろんな学生がいて、いい刺激になっていました。壁は人それぞれだけれど、自分なりに越えたいもの、目標を達成していけたらいいと思うようになりました」。永井にとってはそれがスケートだった。

フィギュア部門の主将として

早大スケート部に所属し、拠点のダイドードリンコアイスアリーナ(東京都西東京市)に週6日通い、練習に励んだ。自分なりにどうすればよくなるのか、日々考えながらトレーニングを続けた。トレーナーのアドバイスを参考にバランス感覚を高めるトレーニングをしたり、ジムに通ってヨガやランニングマシンでスケートとは違う体の動かし方を試したりした。昨年の全日本選手権で9位入り、日本スケート連盟の強化選手にも指定された。

今年度はフィギュアスケート部門の主将として部をまとめた。新入部員も増え、2018年世界ジュニアGPファイナル3位の島田高志郎(木下グループ)や2019年全日本選手権3位の川畑和愛(ともえ)らトップ選手もいた。新たな取り組みとして毎月「部練」の日を設け、貸し切り練習でお互いの演技を学ぶなど部活動も充実していた。

高校時代から考えていた次のステップ

大学卒業と同時に引退することはずっと前から決めていた。「高校生くらいからスケートと離れて社会人生活を送り始めると思っていました。スケート以外の広い世の中を知りたいと思っていて、そのタイミングとしては大学卒業がふさわしいのかなと」

高校時代から世界トップクラスの選手たちと競う中で「厚い壁」を感じるようになったという。「自分で限界を作ってしまったのだと思います。そこが自分の弱いところだと思います」と自己分析する。

スケート始めるきっかけになった浅田真央さん、大学の先輩でオリンピック2大会金メダルの羽生結弦選手(ANA)。「天才かつ努力する人たちを何人も見てきました。トップのトップで戦い続けるのは自分には厳しいなと感じましたし、大人になってどう社会に関わっていきたいかを考えたときに、自分が支えてもらいながらスケートをやってきたので、大人になったら誰かを支えながらお仕事できたらいいなと思うようになりました」。自分自身と冷静に向き合い、出した答えが大学卒業と同時の引退だった。

東京選手権女子フリーの演技。曲は思い入れの深い「エデンの東」(撮影・朝日新聞社)

母が好きな「エリザベート」

「支えてもらいながらやってきた」。そう語る永井をずっとそばで支え続けてくれたのが母の美香さんだ。

ショートプログラム(SP)は美香さんが好きな「エリザベート」を選曲した。「朝練や夜練の送り迎えをしてくれて、ご飯をつくってくれて。『いいよ』と言うのですが、『疲れるでしょ』と迎えに来てくれます。成績が出ないときもあったけれど、私がやるんだったらと、いつでも応援してくれました。その母が喜んでくれたらいいなと思って選びました」

フリーは2014-15年シーズンのSPで使用した「エデンの東」。自身にとって大事なシーズンに滑ったプログラムで競技人生を締めたいと思った。

「スケートノート」に書かれた攻めの気持ち

ラストシーズンは楽しむつもりだったが想定とは違っていたという。「苦しいですね。思い通りにいかないことも多くて。今までのシーズンと同じで頑張っていかなきゃという感じです」

東京選手権は優勝したが東日本選手権はSP11位と出遅れた。それでも気持ちを切り替え、フリーで5位と持ち直し総合6位で全日本選手権進出を決めた。そのときにヒントになったのが約10年前から書き続けている「スケートノート」だった。

「中学1年生くらいから悩んでいるときに書いていました。10冊以上はあると思います」。部屋の掃除をしながら読み返すことがあるといい、「一生懸命スケートに向き合おうとしていたんだなと思うと頑張れるし、ヒントになることも眠っているんです」とはにかむ。

東日本選手権のSPの後、スケートノートを手に取ると、できないことばかりに目を向けて弱気だった自分に気づいた。「昨年はスケートノートに攻めるということを書いていた。その気持ちを忘れていたなと。できないと言っている場合じゃない、攻めていくしかないじゃん、と思ったらふっきれました。フリーは練習以上のことができました。そこから少しずつ歯車が合ってきている感じがします」

ラストの全日本選手権は感謝の気持ちを込めて演技する(撮影・浅野有美)

卒業後は金融業界で働く。昨年の全日本選手権直後から就職活動を本格化させ、内定を得た。入社に向けて心の準備も整っている。「スケートはやりきったかなと思います。引退してからは見るのを楽しもうと思っています」。ラストの全日本選手権はまもなく開幕する。「今までたくさん応援してもらい、続けてこられたので、演技を通して感謝の気持ちを伝えられるように最後まであきらめず滑り切ろうと思います」

永井優香のメッセージ動画

in Additionあわせて読みたい