「自分に合った環境が一番」明治大で成長中のフィギュアスケート・樋口新葉
フィギュアスケートのシーズン幕明けを感じさせる9月。選手たちは新型コロナウイルス感染拡大の影響でいつもと違うオフを過ごしてきた。2018年世界選手権銀メダリストで、昨年の全日本選手権2位に入った明治大学2年の樋口新葉(わかば、明治大学/ノエビア)もその一人だ。先日、10月3日にさいたまスーパーアリーナで開催される「ジャパンオープン」出場が発表された。試合に向けて自粛期間中はどう過ごしてきたのか、大学との両立やこれからの目標について語ってくれた。
世界選手権、直前に中止
明治大学商学部に進学した昨シーズン、樋口は学業と両立しながら成長を遂げていた。「これまでは全部の試合を150%で頑張ろうとして疲れてしまうことが多く、ピークを合わせることができなくて全日本で成績を残せないことがありました。昨年は全日本だけを頑張る気持ちでやって、うまく勝負できました」 。ピーキングの重要性を知り、狙った試合でパフォーマンスを発揮。年末の全日本選手権で2位に入り、3月にカナダ・モントリオールで開催予定だった世界選手権代表に選出された。
18年に続く自身2度目のメダル獲得が期待される中、大会に合わせて早めに現地入りした。だが直後に新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止が発表され、日本へトンボ返りした。「中止と決まったときは何も考えられない感じでした」と肩を落とした。
自粛明けを楽しみに
シーズン最大の目標でピークを合わせていた世界選手権がなくなり、気持ちも身体も疲れていたという。そこで思い切って約10日間の休みをとった。だが4月に氷上練習を再開するやいなや感染拡大防止で活動自粛を強いられた。「仕方がない、自粛明けにどんなふうに滑れるかを楽しみにしながらできることだけを頑張っていました。それはそれで良い経験かなと思っています」 。いつ再開ができるかわからない状況に不安もあったが気持ちを切り替えてオフアイスで練習を続けた。
室内では縄跳びやジャンプ、屋外では5kmのランニングをしたり自転車をこいだりして筋力、体力を維持した。坂本花織(神戸学院大、シスメックス)や、海外にいた宮原知子(関西大学、木下グループ)らとも連絡を取り合っていたという。
氷上練習再開、照準は全日本
6月に氷上練習を再開。「怖かったんですけど、体がなまっていなくて思ったよりさらっと滑れました」。活動自粛中のトレーニングの成果もあり、ジャンプの調子もすぐに取り戻した。いまも試合に向けてリンクで練習を積み、フリーの構成で予定するトリプルアクセルの精度も高めている。
プログラムは昨シーズンの曲を継続し、ショートプログラムは女性ボーカルの「Bird Set Free」、フリーはフラメンコの音楽「Poeta」を披露する。「昨年と同じプログラムを滑るので質を徹底的に高める練習をしています」 。今シーズンの目標を聞くと、「全日本が一番大事。優勝を目指して頑張っていけたらいいなと思います」と力強く答えた。
「スポーツが強い明治」にあこがれ
競技でトップクラスを走る一方、学業も負けてはいない。ずっと志望していたのが明治大だった。フィギュアスケートでいえば、2007年ジュニアグランプリ(GP)ファイナル3位の西野友毬(ゆうき)をはじめ、全日本クラスの選手を多数輩出している。樋口が拠点とする明治神宮外苑のリンクにもお世話になった明治大出身の先輩が何人もいた。
「スポーツが強い明治」というイメージにもひかれた。1年で箱根駅伝に出場した長距離の加藤大誠(2年)、東京六大学野球で活躍する日置航(2年)、7人制ラグビーでオリンピックを目指す石田吉平(2年)など、応援している選手がたくさんいる。
樋口ほどの実力があれば海外を拠点にしてもよさそうだが、本人の意志は強かった。「少し海外で練習してみたいと思ったこともありましたが、トレーニングやモチベーションについて考えると、昔からのやり方を変えずにやった方が自分には合っていると思いました。自分に合った環境が一番大事だと思います」
商学部で簿記や経済学を勉強
大学の講義はハードスケジュールだという。「1年のときは練習に行って学校に行ってまた練習行って移動も大変でした。頭も身体も疲れてしまう感じだったのですが、頑張り切って全日本選手権を迎えました。自分にとっては新しいことだったので新鮮な気持ちでした」 。講義は簿記や経済学、歴史……。スポーツ選手だからといって特別な配慮はない。他の学生と一緒に勉強し、定期試験も乗り切った。
大学を通してスケート以外でも人間関係が広がり、思考の幅も広がった。スケートが不調で悩んでいたときに友達に相談したところ、新たな気づきがあったという。「『そんなに重く考えなくても、今まで頑張ってきたし、そんなに不安がることなの?』と返ってきて、気持ちが楽になりました。今までは自分がわかる範囲の中の考えでしか共有してこなかったことが、自分と違う考えを持っている友達が増えたことで、『あ、こういう考えもあるんだ』と思うことができました。スケートに関しても落ち着いて冷静に判断できるようになりました」
大学と両立しながら世界トップを目指す19歳のフィギュアスケーター。これからどんな飛躍を遂げるのか楽しみだ。