フィギュアスケート

フィギュアスケートも英語もコツコツ、関西大学の宮原知子が挑戦秘話を出版

何事にもコツコツとチャレンジを続ける宮原知子(提供・KADOKAWA、撮影・吉成大輔)

フィギュアスケート女子で平昌オリンピック4位入賞、宮原知子(木下グループ・関西大学)が今春、『宮原知子の英語術 スケートと英語のさとこチャレンジ』をKADOKAWAより刊行しました。4years.では、本に込めた思いや競技と学業との両立について書面でインタビューしました。

「まさか本当に本になるなんて」

関西大学4年の宮原は全日本選手権4連覇、2015年世界選手権銀メダルなど世界のトップ選手として活躍しながら、幼少期から英語の学習を継続し、海外のインタビューでは通訳を介さず答えるなど英語が得意なアスリートとしても知られる。

自身にとって初めてとなる著書で、スケートと英語の勉強にどのように取り組んできたのかを振り返りながら、オリンピックの思い出や海外選手との交流、自身の英語学習法が紹介されている。「もともと笑い話で英語本とか出したら面白いんじゃないか、と家族や友人と話していたのがはじまりです。まさか本当に出版することになるとは思ってもいませんでした。嬉しい気持ちと少し恥ずかしいがあります」と刊行への思いを語る。

一番伝えたかったのは英語の楽しさ。「『勉強』のように抵抗を感じてしまっている方々にも、実際に教科書通りにやろうとしなくても、何げなく身ぶりも交えて単語をつなげるだけでも通じることがある。そして通じた時の達成感が英語への自信につながるということをぜひ味わってほしいです」

遠征中も機内で洋画を鑑賞

宮原は医師の両親の仕事で米国・ヒューストンに住んでいた4歳のときにフィギュアスケートに出会った。長野オリンピック女子金メダルのタラ・リピンスキーさん(米国)が拠点にしていたリンクのスケート教室に通い、小学2年生の春に帰国した後も関西を拠点にスケートを継続。小学3年生のころにはスケート中心の生活になり、国内外で活躍する選手に成長した。

英語も塾に通いながら学習を続けてきた。海外遠征や海外の振付師の指導など、英語でコミュニケーションをとる機会も増えたが、日本で生活する中で意識的に触れる環境を作ってきた。

本著にあるChapter 3の「私の英語学習法」は自身が特に思いを込めた章だ。これまで英語にどう向き合ってきたかが綴られている。最も苦労したのが語彙(ごい)力だといい、「今もなかなか時事英語や難しい単語を覚えられず大きな壁となっています」と明かす。手で書く、文章を訳しながらその中で単語を覚えるようにしている。

大好きな小説を英語で読むこともある。結果として語彙力アップにもなっており、平昌オリンピックシーズンには、ショートプログラムの映画『SAYURI』の原著を読んだ。また、遠征中も移動の機内で洋画を鑑賞する際は、あえて日本語字幕で英語を聞くようにしている。フィギュアスケートでは映画音楽が使われていることも多く、プログラムの世界を理解し、表現の幅を広げることにもつながっている。

2019年3月、日本で開催された世界選手権に出場した(撮影・朝日新聞社)

英会話の一番の勉強法とは

英会話の勉強法について尋ねるとこう答えてくれた。「積極的に英語に触れることではないかと思っています。海外選手とは平昌オリンピック後、ここ2~3年にかけて、だんだんとコミュニケーションをとれるようになってきました。海外選手と友達になりたくて、とにかくあいさつするようにしていました」

試合で海外選手に会うと、「元気?」と挨拶したり、演技が終わってから「お疲れ様!」と声を掛けたりする。とくに仲が良いというラトビア代表のデニス・ヴァシリエフスについては「夏合宿でスイスに行った時には一緒に料理したり、散歩したりして、趣味や新しいプログラムについて様々な話をしました」とほほえましいエピソードを教えてくれた。

宮原といえば会見のときに英語でインタビューに答えている姿が印象的だ。「自分の使える英語力を利用するよい機会だと思い、英語で答えるようにしています。なるべく日本語で伝えたい文章がそのまま伝わるように心がけています」といい、海外選手が使うフレーズをまねして使うようにしている。

文武両道を目指して

宮原は文武両道を目指している。海外の試合が増え始めた中学生の頃から両立は一気に厳しくなったが、それでも特別に補講してもらったり、移動の電車の中で課題をやったりしていた。関西大学文学部に進学後も構内の専用リンクでスケートに打ち込むと同時に、とりわけ英語に関しては「よりネイティブに使えるようになりたい、英語の授業を積極的に受けてみたい」という思いから意欲的に取り組んできた。

現在は英米文学英語学を専攻し、英会話だけではなく、英語学や文学にも興味をもつようになった。海外の小説を題材にした授業も受けている。「授業を通して翻訳とは、ただ日本語になおすことだけではなく、翻訳する人の解釈によって話、物語自体のニュアンスも異ってくるというところにおもしろさを感じるようになりました」という。「大学に入り、新しい友達が増えましたが、自分を発信していく必要性を学びました。さらに、色んな科目を受講できるので様々なジャンルのものにふれることができたところが良かったです」と充実した日々を過ごしている。

スケートと英語の共通点

英語とスケートの両方を磨く中である共通点に気づいた。「何かを習得する。現時点のレベルを引き上げるそのために少しずつ積み重ねる努力が必要であることが最大の共通点ではないかと思います。その上で達成感や楽しさを味わえるといったものが生まれるのでは、と考えています」

英語もスケートもコツコツと積み重ねてレベルアップしてきた宮原。昨年からはカナダ・トロントを拠点に指導するリー・バーケル氏に師事している。新天地で練習を積んできたが「精神面での弱さにぶち当たるシーズンでした」と振り返る。そして新シーズンへ向けて「前シーズンの経験を糧に再出発したいと考えています」と意気込む。

昨年末の全日本選手権ショートプログラムの演技(撮影・朝日新聞社)

氷上練習再開、トリプルアクセルに挑戦

新型コロナの感染拡大の影響で、今年3月に出場予定だったカナダ・モントリオールの世界選手権が中止になった。中止発表の約1週間後には拠点のリンクも閉鎖されたという。オフも兼ねて2週間は身体を休めることに専念し、ホストファミリーと過ごしていた。トレーニングが始まってからは筋トレやオンラインでのダンス、バレエ、ピラティスで身体を動かし、インラインスケートも始めた。普段はなかなか見られない映画やドラマも鑑賞した。

今年チャレンジしたいことを聞いてみると、「トリプルアクセル、4回転ジャンプです。また、音楽の捉え方、身体の動かし方を学んで表現力を向上させたいです」と答えてくれた。

6月に入り、氷上練習を再開。自身の公式ブログで「練習ができることの嬉しさ、ありがたみを改めて実感しました。調子を取り戻していけるよう、徐々に、計画的に練習に励んで行きます!」と報告した。

最後に大学生へのメッセージを送ってもらった。「競技と勉強の両立は本当に大変ですが、少しでも取り組めることを1つでも続けることで両立を頑張れている達成感も持てると思います。その気持ちが次へ向かうための大切なものだと思います。そのポジティブさを胸に、楽しむことを忘れず頑張っていきましょう!」

新シーズン開幕に向けて不透明な状況は続いているが、前向きにチャレンジを続ける宮原の活躍に期待したい。

『宮原知子の英語術 スケートと英語のさとこチャレンジ』

フィギュアスケートで「ミス・パーフェクト」と称され、2015年世界選手権銀メダル、2018年平昌オリンピック4位など世界のトップ選手として活躍しながら、海外メディアの取材にも英語で答えるなど高い英語力で知られる宮原知子選手。フィギュアスケートも英語も一朝一夕で身につくものではなく、「さとこチャレンジ」を続けてきた賜物です。そんな宮原選手のこれまでの努力の軌跡と「今」がわかる一冊です。

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