フィギュアスケート

連載:4years.のつづき

9割の敗北と1割の勝利、それでもやるしかなかった フィギュアスケート・町田樹1

町田樹さんにこれまでのキャリアを振り返ってもらった(すべて撮影・時津剛)

連載「4years.のつづき」から、関西大学卒業、早稲田大学大学院スポーツ科学研究科修了、博士号を取得した町田樹さん(30)です。2014年ソチオリンピック男子フィギュアスケート5位に入賞。現役引退後は、大学院生のかたわらアイスショーにも出演しました。2018年にプロも引退し、研究に専念。今月15日に博士論文をまとめた『アーティスティックスポーツ研究序説』を白水社より刊行し、10月からは國學院大學の助教に就任します。6回の連載の初回は、スケートとの出会いから大学1年までを振り返ります。

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あと一歩でメダルを逃したノービス時代

町田樹さんは神奈川県川崎市出身。生まれてすぐに千葉県松戸市に引っ越し、3歳のときにスケートに出会った。家族でよく出かける近所の大型スーパー・ダイエー新松戸店に併設された「新松戸アイスアリーナ」のスケート教室に通い始めた。

幼少期に経験した初めての競技会は、そのリンクで開催された「ダイエーOSCカップ大会」。スパイラルで前のめりに転んで顔面を強打してしまい、泣きながら滑ったという。結果は最下位、ほろ苦いデビュー戦だった。

広島に転居した後も、地元のリンクに加え、通年営業している岡山や福岡のリンクに新幹線や車で通いながらスケートを続けた。全国大会にも出場するようになったが表彰台まではあと一歩。「ノービスの頃やジュニア時代も4位や5位ばかり。目の前にメダルがあって、指先がかかっているけれど手に入らない。そんなことが何度もありましたね」と笑う。「私のスケーターとしてのキャリアは負けや失敗の連続でした。割合としては、9割の敗北(失敗)と1割の勝利(成功)、という感じでしょうか。ですが、そのキャリアの中で幾度となく味わってきた悔しさが原動力になっていたと思います」

ようやく優勝できたのは2006~07年シーズン、倉敷翠松高校(岡山)2年のときに地元の広島で開催された全日本ジュニア選手権だった。初出場の世界ジュニア選手権は9位。翌シーズン、英国シェフィールドで開催されたジュニアグランプリ(GP)シリーズのジョン・カリー記念杯でも初優勝し、少しずつシニアクラスに向けて階段を上っていった。

この頃からすでに、フィギュアスケートというスポーツの芸術性にひかれていた。美しく踊れなければこの競技をやる意味はないと、スポーツと芸術の両方を追究していた。

ノービス時代はあと一歩のところで表彰台を逃していた

並み居る先輩方の背中を追って

大学は、2010年バンクーバーオリンピック日本代表の高橋大輔(関大ク)や織田信成ら世界で活躍する選手たちが集う関西大学に進学した。スポーツ分野を学べる文学部総合人文学科を選んだ。「先輩方が活躍してくださったおかげで関西大学はフィギュアスケート競技への理解が深かった。大学の勉強とうまく両立できるのではないかという期待もありました」

関西大学にも専用リンク「たかつきアイス・アリーナ」があったが、町田さんは師事するコーチが拠点とする大阪府守口市のリンク「守口スポーツプラザ・VIVAスケート」(2017年3月に閉館)を中心に練習していた。毎日午前5時に起床し、早朝2時間の氷上練習。それを終えると吹田市の大学キャンパスに通い、夕方まで講義を受けて再びリンクへ。一般営業中はジャンプやスピンはもちろんのこと、それ以外にもステップワークやコンパルソリー・フィギュアなどの練習を通じてスケーティングの強化に取り組んだ。夜間の貸し切り時間には、曲をかけてプログラム練習に打ち込んだ。

スケートをやめたら何も残らない

この頃、スケートの環境は高校時代と比べて飛躍的に向上したが、一方でトップへの道はまだまだ遠かった。高校からシニアクラスに昇格する選手もいる中、町田さんは大学に入ってもジュニアクラスに留まったままであった。

正直、つらかったという。「先は見えてないですよ。本当に苦しい思いをして何回もやめたいと思ったのですが、自分がフィギュアスケートをやめたら何が残るのだろうと。つまり『町田樹-(マイナス)フィギュアスケート≒(ニアリーイコール)ゼロ』だったのです。だからやめられなかった」

「フィギュアスケートをやめたら何が残るのか」。苦悩の日々が続いた

スケートをやめたら何も残らない。もやもやしたものを抱えながら消極的な姿勢でのぞんでいたが、大学生活を通して町田さんの心に少しずつ変化が現れた。

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4years.のつづき

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