フィギュアスケート

同志社大学の「さえルカ」ペアがジュニアGPデビュー「いつか憧れの舞台に」

ジュニアGPシリーズデビューした同志社大学の清水咲衣、本田ルーカス剛史組(すべて撮影・浅野有美)

フィギュアスケートの「さえルカ」ペアこと、同志社大学の清水咲衣(さえ、1年)、本田ルーカス剛史(つよし、4年)組(木下アカデミー)は、ペア結成1年目で世界ジュニア選手権に初出場した。今シーズンはジュニアグランプリ(GP)シリーズに初挑戦。デビュー戦となったチェコ大会で総合4位と健闘した。憧れの舞台を目指し、一つひとつ確実に技術を吸収して世界で戦うための土台を固めている。

羽生結弦選手のようにスタオベを浴びたくて

清水、本田組は昨年5月に結成した。2人ともシングルと両立しながら約半年で全日本ジュニア選手権に参戦し優勝した。12月に長野市のビッグハットで行われた全日本選手権にはそれぞれシングルで出場し、本田は10位、清水は18位に入った。

シングルではラストの全日本になる本田は、ジェレミー・アボットの演技に憧れて選んだフリー「エクソジェネシス」を万感の思いで滑った。シーズンベストの144.04点をマークし、合計217.62点で暫定トップに立つと涙があふれた。観客から温かい拍手とスタンディングオベーション(スタオベ)を送られた。

その光景を見るのが本田の一つの夢だった。3年前の全日本、同じ会場で羽生結弦さんがミスのない演技を披露し、観客から割れんばかりの拍手とスタオベを浴びた。「スタオベしてもらうのが夢だった。あの時、羽生選手にみんなが感動していたのを見て、自分も同じようにリンクの真ん中に立ちたいなと思っていた」と明かす。

「シングルをまだやりたいという未練と、悔いなく終われるようにシーズンを過ごしてきたのでやりきれてよかったという気持ち、今後あれ以上の演技ができるかわからないと思うくらい気持ちよくでできたという思いがありました」。本田は様々な感情を抱きながらも、シングルに区切りをつけてペアに移行した。

昨シーズンはシングルとペアを両立した

ペアとシングルを両立「いいシーズンになった」

2人は初の国際大会となるバヴァリアンオープン(ドイツ)に挑み、世界ジュニア選手権出場に必要なミニマムスコア(最低技術点)を獲得。世界ジュニア本番では2回転ツイストリフト、スロー2回転ループジャンプなどを決め総合14位に入った。

両立は苦労も多かったが、「シングルも楽しいと思えた」と2人は口をそろえる。「より俯瞰(ふかん)して自分のことを見られた」と本田が言えば、清水も「シングルとペアの練習の切り替えで自己管理能力が学べた」と続ける。

本田は、「新しいことばっかりで、すごく大変なシーズンではあったんですけど、その中でも自分たちのペースで成長もできましたし、世界ジュニアに出られて、たくさんいい経験もできました」。清水も「1年を通して、ほとんど全てのペアとシングルの試合に出ることができました。前シーズンより断然多い試合数だったんですけど、周りの方の支えのおかげで、けがなく無事終えられたのでいいシーズンになったと思います」と振り返った。

2人の伸びやかなスケーティングは強みだ

ゼロからのスタート「道のりが長いな」

ペアの世界に踏み込んだ2人。「道のりが長いな」と本田。「全部ゼロからのスタートなので、テレビで見ている技ができるようになるまでは気が遠くなるぐらい長い期間が必要だなと思いました。ですが、いまやらないといけないことを毎日やっていくことで、それに近づいていけるんだなってことも実感できました」

アイスダンスに比べ、ペアの方がシングルに近い印象があるが、清水は「技術面は全く違いますし、心構えというか、メンタル面でもまた違うところがある。本当に世界が広がりました」と話す。

ブルーノ・マルコット・コーチやブライアン・シェイルズ・コーチはカナダが拠点のため、直接指導を受ける時間は限られる。日本ではキャシー・リード・コーチや、一足早くシニアの舞台で戦っている長岡柚奈、森口澄士組(木下アカデミー)から教えてもらう。特に森口は「日本にいる間のコーチ」(本田)だと言う。ペアの技は危険と隣り合わせ。けがを避けるために的確な指示を出してくれる。女性側の技術もよく理解していて清水にもアドバイスをくれるそうだ。

ツイストリフトやデススパイラルといった、ペアならではの技術はいままさに習得している段階だ。一方、シングルで培ったジャンプの技術と伸びやかなスケーティングは2人の武器になる。男性が女性を高く投げ上げるスロートリプルジャンプや、男女がそろって同じジャンプを跳ぶサイドバイサイドは得点源にできる。

結成して1年余り、すでにジュニアGPシリーズで表彰台が狙える

一つひとつ吸収できるものを吸収する

2人は同志社大学スポーツ健康科学部の先輩後輩関係でもある。

清水は今春入学したばかり。「ペアの練習ができて、学校にも通えて、学びたい領域があったので選びました。心理学や栄養学など、スポーツで使える能力をどんどん吸収して、将来スポーツ選手に向けていろいろアドバイスできたらいいなと思います」と話す。4年生の本田は競技に集中するため4月から休学しているが、この3年間で運動生理学やスポーツビジネス、社会学など広く学んだ。

今シーズンのショートプログラム(SP)は「Swan Lake」を継続する。フリーは新しく「Photograph / Clair de Lune」を選んだ。いずれもキャシー・リード・コーチの振り付けで、2人の魅力を引き出す。

この1年はジュニアを舞台に経験を積んでいく。9月初め、第2戦チェコ大会でジュニアGPシリーズデビューを飾った。フリーではリフトで最高のレベル4を獲得し、エレガントな表現で総合4位と大健闘した。2戦目のトルコ大会では表彰台に期待がかかる。

世界の舞台で戦うため、一歩ずつ前に進んでいく

いつかは先輩ペア頼りではなく、自分たちで世界選手権やオリンピックの出場枠を獲得して出場できるようになりたいという思いを胸に秘めている。

「もちろん大きな試合に出たいですし、長岡、森口組にもっと追いつき、いつか追い越せるように頑張らないといけない。ですが、いまは一つひとつ吸収できるものを吸収して、スキルアップしていくことが、そのあとにつながるんじゃないかと思います」と本田。清水も「まずはけがなく、目の前の大会に万全な準備ができるように日々練習していくことが一番の目標です」と先を見つめる。

2人の旅路は始まったばかり。まずは世界で戦うための土台を固める。

「いつか憧れの舞台に」。一歩ずつ、できることを積み重ねた先にその舞台が待っている。

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