フィギュアスケート

特集:フィギュアスケート×ギフティング

同志社大・本田ルーカス剛史がペア挑戦 山隈太一朗さんが教えてくれた自分の強み

ペア挑戦を決めた同志社大の本田ルーカス剛史(すべて撮影・浅野有美)

フィギュアスケートで同志社大学3年の本田ルーカス剛史(木下アカデミー)が5月18日、ルネサンス大阪高校3年の清水咲衣(さえ、同)とのペア結成を発表した。2020年の全日本ジュニア王者で2022年世界ジュニア選手権に出場した。だか今シーズンは結果を残せず苦しい1年間を送っていた。新たな挑戦を決めた本田に2023~24年シーズンの意気込みを聞いた。

悩んでいた本田に山隈太一朗がアドバイス

本田は2020年全日本ジュニア選手権優勝、同年グランプリ(GP)シリーズNHK杯で3位に入り、2022年4月の世界ジュニア選手権に出場した。シニアに完全移行した2022~23年シーズンはGPフィンランド大会11位、全日本選手権21位と成績が振るわず悩んでいた。

「鬱(うつ)になりそうなくらい、しんどいシーズンだった」。モチベーションが低下し、週の半分以上、練習に行けなかった時期もあったと明かす。

「シーズン前くらいから自分を追い込んでプレッシャーをかけながらやっていた。スケートを楽しめず、夏から年明けまでずっと苦しかった。やりたい気持ち、やらないといけない気持ちだったんですけど、どうしてもリンクに足が向かない時とか、けがもあったりとかで、何もうまくいかなかった」

すっかり自信を失っていた本田。気持ちが前に向くきっかけをくれたのは、この春に現役を引退した山隈太一朗さん(明治大学卒)の言葉だった。

「ブルーム・オン・アイス」でギターを手に「Black Betty」を披露した

「スケートのスタイルを変えないで」

2023年1月にあったインカレ後、山隈さんに悩みを打ち明けると、親身になって相談にのってくれた。

実は山隈さんも本田の心境が気になっていた。「ルーカスの演技を見ていて、すごい迷いを感じた。乗り切れてないし、自分がどういうスケーターになるのか、何をしたいのか、どういうものを見せたいのかという方向性が定まってない感じがしました」と振り返る。

山隈さんにとって当時の本田の姿が、過去の自分に重なって見えた。山隈さんも本田と同じく「見せる」のが得意なスケーターだ。だか勝つことを優先した結果、成績を落とし悩んだ時期があった。

「今までは別に方向性を決めなくてもうまくいっていたのかもしれないし、うまくいっていたからこそ方向性が決まっていたのかもしれないけど、うまくいかなくなった時にブレる。ブレ始めると、どうにもこうにも合わなくなってくる。昨年と同じことをやっているのにうまくいかなくなり、気持ちが空回りしてしまうんです」

本田の現状を理解できるからこそ、自分のストロングポイント(強み)を伸ばしてほしいと伝えた。

まずは体が大きくて筋肉があり、ポテンシャルに恵まれていること。そしてジャンプも上手だが、それ以上に音楽表現が得意で世界観を出せること。「お前みたいなスケーターは他にいない。お前みたいなスケーターが大好きだから、俺が好きなスケートのスタイルを変えないでくれ、と言いました」(山隈さん)

自分の強みを伸ばすために、探求心を持ってスケート技術を研究するように勧めた。エッジの使い方、足さばき、演技のアクセントや間の取り方。まだまだやることがたくさんあると発破をかけた。

「表現で見せられるスケーター」を理想にしている

本田はその思いに応えるように、1月末の国体に向け気合を入れて練習に励んだ。

「山隈さんが背中を押してくれました。こういう選手になっていったらいいと話してくださって、そこである意味開き直りました」

国体で本田の姿を見た山隈はすぐにその変化を感じとった。「練習の姿勢がすっげぇいいねって言いました。失敗した後、すぐ立って次に向かっていた。インカレから変わったなと思いました」。本田はSP5位、フリー9位で総合8位に入り、納得のいく結果で終えた。

ペアの技術「毎日毎日吸収してけるように」

5月18日、木下アカデミーのSNSで清水、本田組のペア結成が発表された。清水は2023年インターハイ6位入賞など活躍している選手で、2人ともシングルと両立する。

本田に対するペアの誘いは1月くらいにあった。シングルに注力したい思いもあり、しばらく迷っていたが、トライアウトを通して3月末には気持ちが固まった。シングルは2023~24年シーズンまでで、翌シーズンはペアに専念する可能性があるという。大学との両立もあり、「本当に忙しくなりました。(ペアは)まだまだひよっ子なので、もっともっとやりたいという意味で時間も体も足りないなって感じです」。

今は2人で滑るスケーティングが中心だが、陸上でリフトの練習をするなど、少しずつペアのエレメンツにも取り組んでいる。SPのプログラムも作り始めた。清水は「ルーカスくんはスケーティングがすごい上手で、それだけでもこの1カ月くらいでお互い滑りやすくなって成長したと思います」と信頼を寄せる。

木下グループには2023年世界選手権で頂点に立った「りくりゅう」こと、三浦璃来、木原龍一組がいる。「世界一になって、みなさん感動したと思いますし、すっごく仲がよく見えるので、そういうペアに憧れています」と清水。本田も「できるだけ後ろをたどっていけるようにという気持ちがあります。とにかくけがなくというのと、一つ一つ積んでいかないといけないと思うので、毎日毎日吸収してけるように、ステップアップしていけるように頑張っていきたいです」と意気込む。

清水咲衣(左)とペア結成の思いを語った

本田のシングルのショートプログラム(SP)は「Black Betty」。キャシー・リードさん振り付けのギター調のプログラムで、軽快にステップを踏むところが見どころだ。フリーは「エクソジェネシス」を継続し、プログラムの完成度を高める。「今シーズンはしんどい思いをしたので、次のシーズンはその思いが晴れるように、自分が満足するシーズンにしたいです」

どんなペアを目指したいか尋ねると、「お客さんに見てもらえるスケートをシングルでしていたと思うので、曲の表現ができるペアになりたいです」と力強く語った。

理想とする「表現で見せられるスケーター」。シングルでもペアでもその思いは変わらない。

進むべき方向はもう見えているだろう。自信を持って、今こそ自分の殻を破る時だ。

【写真】宇野昌磨・島田高志郎ら「チーム・シャンペリー」と木下アカデミーが合同合宿

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