筑波大学・中村悠 誰より声を張り上げ、コート内を駆け回った〝150cmの守護神〟
第71回全日本バレーボール大学女子選手権大会 決勝
12月1日@船橋アリーナ(千葉)
筑波大学 3-1 青山学院大学
(25-18.21-25.25-23.29-27)
※筑波大は2年連続10回目の優勝
セットカウント2-1。あと1セットを取れば筑波大学の連覇が決まる。
1点、また1点と積み重ね24-23。先にマッチポイントをつかんだが、関東秋季リーグを制した青山学院大学も同様に、逆転勝利をつかむべく猛攻を仕掛けてきた。
気持ちは熱く。でも、頭は冷静に。リベロで主将の中村悠(4年、三重)は周りの選手たちへ常に声をかけ続けた。
「落ち着いて1点ずつ取って行こう。大丈夫、大丈夫だから」
最後の最後は門田に決めてほしかった
互いに点を取り合い、ジュースとなって28-27。筑波大、3度目のマッチポイント。セッター熊谷仁依奈(2年、古川学園)のサーブから始まるラリーで、青山学院大の攻撃を中村がレシーブ。150cmの守護神はすべての思いを乗せ、ありったけの声で叫んだ。
「行けーーーーーーー!!」
チャンスボールからの攻撃パターンはいくらだって考えられる。ミドルのクイックか、前衛レフトか。ただ、中村の願いは一つだった。
「(門田)湖都(4年、広島桜が丘)に決めてほしかった。試合の中で何度も感情が高ぶる時があったんですけど、あの時、最後に一番の感情を込めて叫びました」
熊谷も中村と同じ思いを抱いていた。序盤から中盤にかけて、レフトからアウトサイドヒッターの阿部明音(2年、古川学園)と瀧澤凜乃(2年、八王子実践)の攻撃を多用していたこともあり、青山学院大のブロックはレフト攻撃に対して警戒を厚くしているのが見えた。加えて終盤に差し掛かる中、門田の調子が上がっているのも感じていた。
「絶対に最後は4年生が決めてくれると信じていた」と熊谷が託したトスを門田が決め、29-27。激闘の末にセットカウント3-1で筑波大が大会連覇を決め、中村は真っ先に門田のもとへ駆け寄り、抱き合った。
「この1年、苦しいこともいっぱいあったので、最後の最後は門田に決めてほしかったし、本当に決めてくれた。優勝が決まって『やりきった』と思えました」
前主将・大山遼からの助言
ミドルブロッカーの大山遼(現・大阪マーヴェラス)とアウトサイドヒッターの佐藤淑乃(現・NECレッドロケッツ川崎)の2人が攻撃の柱だった昨シーズン、チームは全日本インカレを4年ぶりに制し、歓喜に包まれた。
だが、当時3年生の中村にとっては、そこからが新たなチームをつくるスタートでもあり、当然のように昨年以上の成績が求められた。前年の優勝メンバーも残る中で最初のタイトルである関東春季リーグを制し、大会期間中に開催された黒鷲旗全日本男女選抜バレーボール大会では、SVリーグの久光と東レにも勝利した。周囲からは筑波の強さが際立つように見られていたが、中村は「最初がうまく行きすぎた」と振り返るように、東日本インカレは準決勝で青山学院大に敗れ、秋季リーグは8勝3敗。9勝2敗で優勝した青山学院大の後塵(こうじん)を拝した。
全日本インカレまでのカウントダウンが始まる中、同じことを繰り返さないためにどうすべきか。悩んだ中村は前主将の大山に相談した。
「キャプテンとしての重圧もあって、自分自身も苦しかった。その時に大山さんから『ララ(中村のコートネーム)がやりたいバレー、目指すチームをつくっていけばいい』と。その言葉を聞いて、今までの筑波がそうであったように、縦と横、学年関係なくみんなが意見を言い合える〝つながり〟を大切にしたチームをつくりたい、と思ったし、コートの中だけじゃなく外から支えてくれるメンバーも含めた全員で目指すチームをつくる。そこで自分がキャプテンをできることは成長につながると思えたので、プレッシャーとして受け止めるだけでなく、『この経験も自分のものにしよう』と思って取り組んできました」
セッター熊谷仁依奈「大きな背中を見せてくれる存在」
スパイカーとは異なり、リベロはコート内で唯一、自らのプレーで直接点を取ることができないポジションだ。だが、だからこそ周りの選手が点を取れるように働きかける。中村が「熱くなりがちなところがある」と笑いながら評する同期の門田には、「試合中もあれこれ言うのではなく『後ろは私が拾うから前は頼むね』と伝えてきた」。セッターというポジション柄、悩みを抱えることが多い熊谷には、芯があると信頼しているからこそ、トスワークやゲームメイクを任せてきた。
その振る舞いに「いつも本当に助けられた」と言うのが他ならぬ熊谷だ。
「チームにとってララさんの存在が本当に大きくて。4年生最後の大会でも常に冷静で、私が焦っていてもララさんは変わらないトーンで声をかけ続けてくれた。『今行けるよ』『大丈夫だよ』と言われて本当に助けられた。あんなに小さい体なのに、本当に大きな背中を見せてくれる存在でした」
東日本インカレで青山学院大に敗れた時は、チャレンジャーとしてすべてを出し尽くしてくる勢いに屈した。全日本インカレでも同様、突き放しても追いかけてきた。スタンド席からの「青学」コールや、コートに立つ相手の4年生たちの意地に「本気でこの大会に懸けてきた思いを圧として感じた」。だからこそ自身は「冷静に」と心がけた。
スパイクは打てなくても、相手のスパイクを拾って得点にさせないのがリベロの醍醐味(だいごみ)でもある。苦しい時こそチャンスボールは丁寧に。後ろから相手ブロック枚数やディフェンスの付き方を伝える声は誰よりも張り上げ、最後は「行けー!」とスパイカーの背中を押す。ブロックされても全部拾うから、とコート中を駆け回る姿は、コートに立つ誰よりも小さいはずなのに、確かに熊谷が言うように誰よりも大きく見えた。
チームがうまく回らない時は、意見をぶつけ合うこともあった。苦しいことは何度もあったが、その積み重ねを最高の結果につなげた。
「最後の最後に目指したチームをつくりきれた。それが、この結果につながったんだと思います」
小さな守護神を中心に、一人ひとりがつなげて育んできた絆。それこそが、どこにも負けない筑波大の強さだった。