陸上・駅伝

特集:第101回箱根駅伝

箱根駅伝連覇の青山学院大 MVPの野村昭夢、当初は〝夢物語〟だった56分台を実現

青山学院大の連覇を手繰り寄せる快走を披露した6区の野村昭夢(左、撮影・佐伯航平)

第101回箱根駅伝

1月2・3日@東京・大手町~箱根・芦ノ湖間往復の217.1km
総合優勝 青山学院大学 10時間41分19秒(大会新)
2位 駒澤大学    10時間44分07秒 
3位 國學院大學   10時間50分47秒
4位 早稲田大学   10時間50分57秒
5位 中央大学    10時間52分49秒
6位 城西大学    10時間53分09秒
7位 創価大学    10時間53分35秒
8位 東京国際大学  10時間54分55秒
9位 東洋大学    10時間54分56秒
10位 帝京大学    10時間54分58秒
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11位 順天堂大学   10時間55分05秒

第101回箱根駅伝は、青山学院大学が2年連続8度目となる総合優勝を飾った。特殊区間の5区山登りで若林宏樹(4年、洛南)がトップを走っていた中央大学をとらえ、復路スタートの6区山下りで野村昭夢(4年、鹿児島城西)が初の56分台をマーク。ともに区間記録を塗り替える快走で、流れを引き寄せた。最優秀選手に贈られる金栗四三杯と新設された大会MVPの両方に選ばれた野村は「ダブル受賞できると思っていなかった」と喜びを口にした。

3区を終え「デッドゾーンに入りかけた」

「大手町で笑おう」というチームスローガンのもと、2区に前回も2区区間賞の黒田朝日(3年、玉野光南)、3区に今季の出雲駅伝と全日本大学駅伝でともに区間賞を獲得した鶴川正也(4年、九州学院)、4区に前回優勝の立役者・太田蒼生(4年、大牟田)という主力を並べた青山学院大。1区を担ったのは、トラックシーズンは1500mで実績を残し、前回の箱根駅伝でアンカーを担った宇田川瞬矢(3年、東農大三)だった。

原晋監督は「当初は荒巻(朋熙、3年、大牟田)を使う予定で1年間準備していたんですけど、割と長く故障が続いて、11月後半ぐらいから宇田川にしようと。これまた足の状態が悪くて100%じゃないという中で、スローペースになってほしいと願っていました」と起用の意図を明かした。その1区では、スタート直後に中央大学の吉居駿恭(3年、仙台育英)が飛び出し、関東学生連合の亜細亜大学・片川祐大(4年、報徳学園)も抜け出した。ただ、ライバルの駒澤大学と國學院大學は3番手集団でレースを進め、宇田川はトップと1分44秒差の区間10位で黒田に襷(たすき)をつないだ。

2年連続で「花の2区」を担った黒田朝日(撮影・松崎敏朗)

2区の黒田は前半からハイペースで刻む他校のエースたちに惑わされず、自分の走りに徹した。14km付近の権太坂に入ってから、前との差がみるみると縮まり「動きもよくなってきたので、これはいける」。2021年の第97回大会で東京国際大学のイェゴン・ヴィンセント(現・Honda)が出した1時間05分49秒を切る1時間05分44秒で3区に入った。

最初で最後の箱根路となった鶴川は本来の力を発揮しきれず、区間4位。太田に襷が渡った時点で、先頭の中央大とは2分24秒の差がついていた。原監督は「いわゆるデッドゾーンに入りかけた」。ただ、区間記録の更新を狙っていた太田は「前を追いかけることしか考えていなかった」。2年時には駒澤大の鈴木芽吹(現・トヨタ自動車)との競り合いを繰り広げたこの区間。「2年前の感覚よりも速く走っていけば、区間新に近づける」と信じながら走り、中央大との差を45秒差まで詰めた。往路優勝の仕上げは若林。自身3度目となる5区山登りを冷静に、そして楽しんで走りきり、区間記録を3秒更新。2位の中央大とは1分47秒差をつけて復路に入った。

4区の太田蒼生は区間新記録が出せなかったことを悔やんだ(撮影・佐伯航平)
芦ノ湖にトップでやってきた若林宏樹(中央)を鶴川正也(左)らが受け止めた(撮影・井上翔太)

前回は「後ろとの差を一番気にして走った」

連覇を決定づけたのは、野村の走りだった。前回も6区を走り、58分14秒で区間2位。その後、新チームとなり、選手それぞれで目標を立てる機会があった。野村はそこで〝56分台〟と書いた。「その時はまだ夢物語というか、書くだけ書いて、あわよくば57分17秒の区間新記録を出せればいいなという感じだったんです」。3年まではケガが多かったが、最終学年になるとその頻度も減り、ケガをしても長期間ではなく、1週間程度で痛みが抜ける程度のものになった。夏合宿でも走り込みができ、結果的に1年間を通して練習を継続できたことから、少しずつ56分台の現実味が出てきたという。

原監督は最後まで懐疑的だった。「1週間ぐらい前から『56分台を出します』と言ってたんですけど、そう簡単に出るもんじゃないぞ、と心の中で思っていました」。野村は走り始めると、本格的な下りに入るまでの上りと、15km~18km付近で「きつさ」を感じたという。「平地を走る場合は、押していけるギリギリのペースで行くことが大事だと思うんですけど、下りに関しては全力を出しても呼吸はあまりきつくならないんです。どちらかというと体のダメージが大きくなる」。負担が大きい左足の裏には水ぶくれができた。後半は「まだあと5、6kmある……」と残している距離の長さも感じながら走り抜いた。

総合優勝を決めた後の記者会見で笑顔を見せる野村(中央、撮影・藤井みさ)

「第100回大会のスタートの時は、後ろとの差を一番気にして走っていたんですけど、今年に関しては『56分台』だけを気にして走って、出せれば後ろも離れて、おのずと区間賞もついてくるだろうと走りました」と野村。原監督も「有言実行、かっこよかったですね。最後の最後までスピードが落ちることなく、運営管理車から見ていて『ものすごいヤツだ!』と思いました」と称賛した。

確立したメソッドと意識の高い選手たち

7区は「基本となるジョグの練習を誰よりもこだわってきた」と自信を持つ白石光星(4年、東北)がつなぎ、8区塩出翔太(3年、世羅)は2年連続の区間賞。9区の主将・田中悠登(4年、敦賀気比)も区間2位の走りで優勝を決定づけた。アンカーは原監督が「1月2日に若林がゴールするまで、誰を置くか悩んだ」末、ルーキーの小河原陽琉(1年、八千代松陰)を起用。小河原にとっては、先輩たちが築いた大きなリードが安心材料となった。「きつかったときにチームメート全員の顔を思い出すと、自然と力が湧き出てきました。ゴールの前でみんなのことが視界に入ったときは、疲れが全部吹っ飛びました」。スローガンを想起させるようなポーズで、大手町のフィニッシュ地点に駆け込んだ。

9区区間2位と安定した走りを見せた主将の田中悠登(撮影・佐伯航平)

青山学院大には、箱根駅伝で勝つためのメソッドが確立されている。1年間を春のトラックシーズン、夏合宿での走り込みシーズン、秋の駅伝シーズン、冬のハーフマラソンの4季に分け「選手の能力を把握し、半歩先の目標設定をして、それを積み上げていくのが基本」と原監督。さらに実績を残すことで、モチベーションの高い選手たちが青山学院大に来てくれるという好循環もある。主将の田中は言う。「練習での設定ペースは、入学した1年目よりかなり上がっている。でも『それは当たり前』という認識をチーム全体が持つことで、速いペースでもびびらずに走っていける雰囲気がある」

往路優勝をつかんだ後、後ろと差が広がったとしても、さらに復路の選手がリードを広げていく。原監督が「ピクニックラン」と表現する根底には、これまで築き上げてきたチームの方針がある。「選ばれた者が楽をしてゴールするという文化が、私どもにはないんです。仮に差が開いていて、ゆっくり入って区間10番ぐらいで笑顔でゴールすると、『そんな走りをして恥ずかしくないの?』『俺が走ったっていいじゃないか』という雰囲気になるんです。だから選ばれた者は、自分の能力を最大限発揮する心構えが、我がチームにはある」

自分の意志で好きな陸上競技と向き合い、ライバルでもある仲間と高め合い、箱根駅伝総合優勝というチーム共通の目標へ向かっていく。原監督の作り上げたメソッドに選手たちの高い意識がかみ合い、8度目の頂点をつかんだ。

【写真】第101回箱根駅伝フォトギャラリー① 中央大学・吉居駿恭の独走で幕開け
【写真】第101回箱根駅伝フォトギャラリー② 5区山登りで3年連続の区間新が誕生

前回大会で自分たちが作った大会記録を更新しての快勝だった(撮影・藤井みさ)

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