立教女子ラクロス 最後に流した4年生の涙
目指していた日本一への道が途絶えた――。先週の敗戦後、立教のチーム全体が行き場のない感情に押しつぶされそうになっていた。そんなとき、常時試合に出てきた木村花恋(かれん、4年、都立新宿)を悲劇が襲った。ひざの前十字靭帯損傷。最後の試合に出ることさえできなくなった。
いつも笑顔を絶やさない彼女が最終戦の4日前、部の"引退"ブログに「"今"伝えたいこと」というタイトルの文章を載せた。自分自身のやるせなさがにじむ一方で、チームを想う言葉が並んだ。二度とない"今"に全力を尽くす。木村のためにもそう誓って、立教のチーム232人が今シーズン最終戦に挑んだ。
残り1分で見せた4年生の力技
1部残留のために大差で勝ちたい東農大は、開始早々から怒濤の攻撃をしかける。開始6分半の間に5本のシュートを放ち、関口紗生(4年、横浜市立東)が2点、林萌波(3年、日本大学)が1点。8分には立教の樋口紗穂(2年、横浜隼人)が2人のDFをかわしてシュートを決めるも、東農大の勢いは止まらない。立教の佐藤壮ヘッドコーチはたまらずタイムアウトをとった。「いまは我慢の時間。後半までこのペースは続かない」と檄を飛ばす。それでも流れは変わらず、1-4で折り返した。
流れを変えたい立教に、後半3分、東農大の追加点が重くのしかかる。1-5だ。先週の青山学院大戦はリードされて追い上げられず、リーグ戦での敗退が決まった。あの悔しさが脳裏をよぎる。立教は5分、前西莉奈(2年、横浜市立東)が1点を返すと、寺西佑美香(2年、都立駒場)が2連続得点で4-5と追い上げた。一気に流れは立教のものとなった。東農大にシュートさえ許さず攻めに攻めるも、1点が遠い。残り1分、体を張ったプレーで同点にしたのは、4年生の井上果歩(佐原)だった。さらに逆転を狙ったが、試合終了のホイッスルが鳴り響く。最後も勝ちきれなかった。
チームのためにできること全てを
松葉杖姿の木村もベンチ入りしていた。いつも自分が輝いていた場所をベンチから見る。特別に用意してもらった椅子に座って「ヘッドコーチみたいでしょ?」と冗談を言ってはいたが、その笑顔がかえって痛々しかった。
木村も大半のチームメートと同じで、大学からラクロスを始めた。入学当初は高校時代と同じチアリーディング部に入部したが、誘われるまま訪れたラクロス部の新歓イベントで心が揺らいだ。自分をこんなにも必要としてくれている人たちがいる。チアの先輩に辞めると伝えたとき、「ラクロス部は本当に一生懸命やってるから。応援してるよ」と言ってもらえたという。
当初は先輩たちとの練習についていくのがやっとだった。初めてリーグ戦に出場したのは2年生のとき。限られたチャンスの中で確実に点をとるために、誰よりも走ると決めた。3年生の途中からスタメンを勝ち取り、下級生に背中で示せる選手を目指した。最上級生になってからは、中心メンバーとして発言をするようにもなり、ずっと大所帯の代表として晴れ舞台に立ってきた。
そして、日本一への道がなくなった。リーグ最終戦直前の紅白戦だった。相手にぶつかられて倒れた瞬間、負傷の重さを悟った。なぜ、いまなんだろう。なぜ、私なんだろう。やりきれぬ思いに押しつぶされそうになった。そんなときでもチームのことを考えてみた。青山学院大戦でリーグ戦での敗退が決まったとはいえ、試合はある。なのに主将である同期の葛西眞珠(4年、聖ドミニコ学園)も含め、チームが一歩踏み出せずにいるのを実感していた。いま自分ができることを全部やろう。雨の日も、使い慣れない松葉杖で練習グラウンドに向かう。「行ったところで何もできないんですけど、でも、何かひとつでもアドバイスができたらいいなと思って」。これが、大学スポーツなのだ。
ひとつでも多くのことを伝えたい。自分以外の231人に何かを残せないか。その想いから"引退"ブログを綴った。"引退"ブログは4年生全員が書く決まりだったが、今年は50人もいるため希望者限定になり、木村は当初、書くつもりがなかった。しかし、負傷の直後に思い直し、真っ先に名乗り出た。そんな木村の想いに触れた葛西は「立ち止まっていられない。私たちはやるべきことをやりきらないといけない。それが花恋のためにもチームのためにも、そして自分のためにもなるから」と考えたという。
心ひとつで挑んだ最終戦。ベンチ前に立って応援する木村は、何度も祈るように手を合わせた。仲間の後半の追い上げに心強さを感じ、同期の井上が同点ゴールを決めた瞬間、涙を抑えられなかった。本当は同じフィールドで泣きたかったに違いない。しかしこの涙を、彼女は忘れないだろう。これからの長い人生で大輪の花を咲かせる糧となるに違いないと、私は強く思った。