ラクロス 宿敵・早稲田へのはなむけは「強い慶應」
絶対的な力で勝つ、それが永遠のライバルである早稲田への敬意――。慶應の主将である友岡阿美(4年、慶應女子)は、身長149cmの小さな身体に熱い想いを灯していた。全勝でAブロックのトップを独走する慶應のリーグ最終戦が、早稲田の4年生の“引退試合”になった。だからこそ全力を尽くして立ちはだかりたい、と。私は早慶戦の深さを知った。
追い上げる早稲田、立ちはだかる慶應
雨の早慶戦になった。滑りやすい芝はミスを誘発する。グラウンドボールの競り合いが続く中、前半8分、慶應が一時退場者を出したところを早稲田が攻め、青柳七瀬(4年、国府台女子)が先制点を決めた。慶應は巧みなフットワークで縦横無尽に攻め返す。12分には伊藤香奈(4年、慶應女子)、15分に西村沙和子(同、同)が連続得点して逆転。前半は2-1の慶應リードで終えた。
後半開始早々、慶應は伊藤が1on1から決め、さらに3分、相手のパスミスからの速攻で伊藤が追加点をあげ、4-1に。早稲田はフルフィールドディフェンスでボールを奪い、5分に吉田なつ湖(4年、明星学園)、10分に主将・永廣めぐみ(4年、Lafayette)と続けて決め、4-3と追い上げた。
慶應は11分、清水珠理(2年、慶應女子)のシュートで5-3にするも、ここからミスが続き、流れは早稲田に。すると慶應の大久保宜浩ヘッドコーチがタイムアウトをとり、冷静なプレーを選手に促す。22分にはゴール前のパスミスに素早く反応した山田美帆(4年、South Brunswick)が決めて5-4に迫られたが、早稲田の反撃もここまで。友岡のパスカットからの流れで1点。さらに西村がダメ押し。7-4で慶應が勝った。
互いに応援するのは早稲田であり慶應
慶應の大久保ヘッドコーチは試合前、“早稲田の底力”を選手たちに強調していた。リーグ敗退が決まっている早稲田は、何とか慶應に勝って4年生に花を持たせたい。一丸となって向かってくる。そのチームに、応援団が雨を吹き飛ばさんばかりの声を送る。早稲田のそうした強さを知っているだけに、ここまでの戦いは忘れ、目の前の戦いに全力を出そうと訴えた。
もちろん慶應の選手たちも分かっていた。試合前、主将の友岡が仲間にかけた言葉は「絶対に勝つよ」だった。毎年5月の早慶定期戦は観客動員数6300人と、国内のラクロスで最大規模の試合。女子は2年連続で慶應が勝っており、早稲田は大舞台で負けた悔しさをずっと抱いていた。それでも、同じフィールドに立ってさえいなければ、互いに応援するのは早稲田であり慶應だ。どこにも負けてほしくない。互いのプレースタイルをよく知り、同じ4年間を過ごしてきたライバルに対するはなむけは、最後まで全力を尽くして倒しにいくこと。試合直後、慶應の選手たちは負けて泣いた早稲田の選手たちに声をかけることはなかった。その沈黙もライバルへの敬意なのだろう。
慶應は1部Aブロックを1位通過して10月27日の準決勝に進む。大久保ヘッドコーチは「チームの出来はまだ30~40%程度。細かいところでミスがある。日本一をかけてクラブチームと戦うまでに、それぞれの課題を克服しないといけない」と話す。準決勝までの間、トップ選手を連れてアメリカ遠征を予定している。ラクロス最先端の国で格上のチームに挑み、いまの自分たちの力を知るのが狙いだ。慶應の選手たちは、すでに新しい目標を見据えている。
慶應は昨年、クラブチームとの戦いも制して日本一に輝いた。2連覇を期待する声は内外にある。しかし、選手たちに気負いはない。自分たちの戦い方で勝つだけだ。大久保ヘッドコーチから見ると、昨年の4年生にはタレントが豊富で、華があったという。残された友岡たちは、一人ひとりがもつ力をチームとして機能させながら戦っている。友岡自身、得点力を求められるATでありながら、守備力の高さで攻撃のチャンスも生み出している。「もちろん2連覇は意識にありますけど、去年の勝利と今年の勝利は違います」。そう話す友岡の目は、誇りに満ちていた。