その他

特集:UNIVASは日本の大学スポーツを変えるか

池田敦司・UNIVAS専務理事インタビュー「現状、山は一緒で登山道が違う感じ」

発足後初めて企業とのパートナーシップ契約を結んだときの記者会見の様子(撮影・野村周平)

3月1日に設立された一般社団法人大学スポーツ協会「UNIVAS」で、常任の専務理事として業務全体を統括し、設立段階から深く関与してきたのが池田敦司氏です。連載の第2回は池田氏へのインタビューを通してUNIVASを描いていきます。

プロスポーツの世界を歩み、大学教授に

池田氏は西武百貨店でマーケティング業務を担当した後、2005年のプロ野球・東北楽天イーグルス創設時の副社長に就いた。さらに15年にサッカーJリーグ・ヴィッセル神戸の社長になった後、17年4月から仙台大教授となった経歴を持つ。

UNIVAS設立に関与するようになったのは、スポーツ庁による大学スポーツの振興モデル事業提案募集からだったという。仙台大の提案が通り、助成金を受けられることが決まった後、昨年3月にスポーツ庁が日本版NCAA設立準備委員会を7月から編成すると決定。それに仙台大が参加すると決まると、スポーツ庁から池田氏に、15できる作業部会の一つである「スポンサープログラム及び賛助制度の策定スポンサー制度」の主査への就任が打診され、務めることとなったのである。

大学スポーツに関心を持つようになった理由について池田氏は、長くプロスポーツの世界を経験してきたことを踏まえ、大学での特別講義などの経験から「そろそろ後世に何かを残していくということを考え、スポーツマーケティングとマネジメントの世界で自分の知見を生かしていきたいと思いました」と語った。

昨年2月に仙台大の国際交流事業でカリフォルニア州立大ロングビーチ校を訪問し、バスケットボールと野球を観戦。アメリカの大学スポーツを目で見て確認できたことも大きかったという。

プロスポーツの世界から大学スポーツへやってきた池田氏(撮影・渡辺史敏)

非加盟でなく未加盟

ただ設立準備委員会での参加大学や競技団体の設立への意思統一は、一筋縄ではいかなかったようだ。その点について「何といってもゼロから、何もないところから作り上げるということなので、いろいろなご意見も出てましたし、みなさんの意識を統一していくのはすごく大変でした」と明かす。

ただ、設立準備委員会は第1回が昨年7月24日で、最終の第5回が今年2月25日と、わずか7カ月という短期間で設立決定に至った。その点については「スポーツ庁では平成30年度中に組織を起ち上げるという目標を掲げていたので、なんとかそれに間に合わせる動きがあったのは事実だと思います」とした。

その後、スポーツ庁からUNIVAS専務理事就任のオファーがあり、就任を決断した。ただし仙台大からの出向の形で、週5日はUNIVASの業務をこなしつつ「大学で集中授業をやっています」とのことだ。

筑波大や慶應義塾大などの有力大学が、現在UNIVASに参加していない。この点について池田氏は「『不参加』と『参加の判断をしていない』との間にはニュアンスの違いがあります。我々は非加盟とは言いません。未加盟と言ってます」とした上で、現状は「山は一緒で登山道が違う感じ」と表現。UNIVAS自体も「まだ半歩踏み出した段階ですから、いまの我々が全部正しくて、ついてこない大学が悪いということでは、決してない」と力を込めた。

すでに始めている事業の中で手応えを感じているのは、動画配信だという。「いま34団体、34競技が加盟していますが、そのうち映像化されていたのは半分もないんです。そうしたところからすれば、テレビ放映があろうかなかろうか、大会において競技者である学生アスリートが真剣に戦う姿をもっと世の中に知ってもらえるチャンスがある」と強調した。さらにUNIVASは8月21日、KDDI、マイナビ、MS&AD インシュアランス グループ ホールディングスとパートナーシップ契約を結んだことを発表。既にプレロール広告の配信などが始まっている。「パートナー様とは二つのラインで話をしていて、一つは広告として企業のプレゼンスを上げていく。二つ目は学生アスリートに対してよかれと思うサービスを共同で展開していく」という予定だそうだ。

UNIVAS CUPの指定大会であるゴルフの信夫杯で優勝し、喜ぶ東北福祉大の男子選手たち(撮影・北川直樹)

また現在開催中で、複数の競技を横断して大学が競技力を競う「UNIVAS CUP」については「ポジティブなご意見は多いです。一方でスポーツの総合力が強い大学ばかりじゃないかという意見もあります。いまは総合ランキングしか出してませんが、今後たとえば女子の部とか男子の部とか、大規模大学、小規模大学など、表彰コースを小分けして作ることも検討中です。そうすればいろいろな観点で注目度を上げることができるかと思っています」との考えを示した。

小さくていいから、まず実行すること

また今年中にやらなければならない大きな柱の一つとして、アスリートのデータベース構築を上げている。これはこれまで大学スポーツの統括団体がなかったために、大学アスリートの実数などが把握できていないためだ。データベースができれば、それをベースにしてアスリート向けのサービスを展開していこうというビジョンがある。「登録することのメリットや学生さんが登録する必然性をどう感じてくれるか」がカギになりそうだという。

UNIVASは初年度の予算が20億円と一部で報じられていたが、その点について池田氏は「20億円というのは設立準備委員会の第3回ぐらいにスポーツ庁から出た中期ビジョンの数字なんですね。3月18日の社員総会で今年度の収支に関して8.5億円に修正してます。収入の規模がそれぐらいで、赤字にはならないぐらい」ということだった。

設立から8カ月が過ぎ、初年度の残り4カ月の課題については「ゼロから物事を始めるときには、小さくていいからまず実行することが大事です。小さく産む気でよりよいものは大きく育てていけばいい。そういう意味では、今年は設立準備委員会からの引き継ぎで、13項目を具現化することを掲げています。まずそれをちゃんとリリースアウトすることが今年1年のテーマです」と、前向きに語ってくれた。

経験豊富な池田氏のリーダーシップが、UNIVASの成長にいい影響を与えていきそうだ。

in Additionあわせて読みたい