やっぱり大作戦の青学、4年生が最後の箱根で「言われてきたこと全部を覆す」
箱根駅伝で王者奪還を狙う青山学院大の原晋監督は、今大会に向けて「やっぱり大作戦」を掲げた。そこには「やっぱり4年生強かった、やっぱり青山学院強かった、やっぱり青山学院応援してよかった。そういう風なかたちで、大手町に笑顔でゴールをしたい」という思いが込められている。作戦名は例年、12月10日の記者会見の前に、原監督の口から選手たちに伝えられる。今大会のエントリーメンバー16人には4人の4年生がいる。この作戦を受けての思い、そして最後の箱根路にかける思いを聞いた。
最後は主将としての意地を見せたい
前回の箱根駅伝を走った4年生は、鈴木塁人(たかと、流通経大柏)と竹石尚人(鶴崎工)のふたりのみ。竹石は2大会連続で5区を担ったが、今シーズンはけがに悩まされていた。原監督は竹石と面談した際、ギリギリまで様子を見るために「16番目の選手として登録しよう」と提案したが、竹石自身が「青学は16番目の選手も強い。僕を外してください」と願い出たという。
鈴木は1年生のときから主力として期待されていたが、箱根駅伝のエントリーメンバー発表後に脚の痛みが気になり始め、出走できなかった。2年生のときには1区で区間5位。3年生のときにはアンカーを任されるも準優勝で、個人としても区間2位で区間賞を逃した。「箱根で悔しい思いをして、そこから(今シーズンが)スタートしました。トラックシーズンに思うような走りができず、駅伝シーズンに入ってもいい走りができなかった」と鈴木。しかし最後の箱根駅伝を前にして、調子が上がっているという。今年こそは区間賞の走りで優勝テープを切りたい。「4年生の意地、キャプテンの意地で、笑顔で箱根駅伝を終えて、後輩たちにバトンをつなぎたいと思ってます」と意気込んだ。
3人にとって最初で最後の箱根路
「(鈴木と竹石の)ふたりに頼りっきりのまま4年生になってしまったので、4年生全員で走って全員で好走すれば、チームとしても盛り上がる」。そう口にした副将の吉田祐也(4年、東農大三)は、3年連続でエントリーメンバー入りを果たした。過去2大会は11番目の次点。それでも「めげずにここまでこられたのは僕自身の強み」と自らを分析する。
定めた目標に対してコツコツ準備をしていくタイプの吉田は、「陸上競技は積み重ねていくことがすべてだと思うので、自分に合っているのかなと思ってます」と話す。普段の練習においても後輩たちの模範になれるよう、背中を見せることを心がけてきた。吉田にとって今回が最初で最後の箱根駅伝であり、大学で引退を決めている。希望区間に対しては「チームが勝つためならどこでもがんばる」と話す。
中村友哉(4年、大阪桐蔭)は今回、初めてエントリーメンバー入りを果たした。今年の出雲駅伝で初めて三大駅伝を走ったが、任せられたアンカーで3位から5位に順位を落としてしまった。全日本大学駅伝では7位だった青学を区間2位の走りで3位まで上げ、追い上げのきっかけをつくった。それでも中村自身は「ある程度出せたものはあったけど、区間賞を取れずに終わってしまった」という思いが強い。最後の箱根駅伝では持ち前のスピードを生かし、自分の区間で決定づけられるような走りを目指す。
谷野航平(やの、4年、日野台)は今シーズン、1500mで関東インカレ2部2位、日本インカレでは3分45秒31の自己ベストで4位入賞を果たし、今回初めてエントリーメンバーに選ばれた。「練習では強くないのに、ここぞというときに力を出せる」という本番での勝負強さを自分のアピールポイントとして挙げている。谷野も吉田同様、大学で競技を終える予定だ。
原監督からの叱咤激励、夏にチームは変わった
4人が口をそろえて言うのは、4年生としての責任だった。原監督は新体制に移行した直後から、「今年の4年生はダメだ」「気合が入ってない」「一体感がない」という叱咤激励を繰り返してきた。鈴木は主将として悩み、寮の規則を厳しくしたり、意識が伴わない仲間に厳しい言葉を投げかけたりしてきた。そんな中、自分ががんばる姿を見せて空気を変える大切さに気付けたことで、モヤモヤが晴れていったという。
夏合宿では鈴木や竹石、吉田ら4年生が練習で引っ張り、チームの練習消化率が向上。4年生を中心に大きく成長したチームを見て、原監督もやっと「総合優勝を目指すぞ! 」という言葉をかけられるようになったという。これまでずっと悔しさを抱えてきた中村も、「一番弱いと言われた代で勝てたらやっぱりうれしいですし、言われてきたこと全部を覆せるようにしたい」と気概を示した。
前述の通り、作戦名は青学大寮でのミーティングの中で、原監督の口から選手たちに伝えられる。そのときを振り返り、鈴木は「正直びっくりした」と言う。「事前にちらっと聞いてたのと違ってて……。『スクラム大作戦』思ってました。ラグビー(W杯)もあったんで『ワンチーム』じゃないですけど、そういうのを入れてくるんじゃないのかなって」
「総合優勝」というたった一つの目標に向け、青学は心一つで挑む。その土台には4年生の姿がある。