陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

早稲田ルーキー井川龍人 「おもしろい走り」で復活期すチームに勇気を

井川にとって初の三大駅伝となった全日本大学駅伝で大きな悔いが残った(撮影・安本夏望)

早稲田大は前回の箱根駅伝で13年ぶりにシード落ちとなった。高校生だった井川龍人(現1年、九州学院)はその現実にショックを受けるよりも、「早稲田を僕たちの代で強くしたい」という思いを強くしたという。初の三大駅伝となった11月の全日本大学駅伝では1区で16位に沈み、大きな悔いを残している。初の箱根へのモチベーションは、より高まった。

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「楽しく走れた」と予選会でチーム2番

井川は元陸上部である父の影響で競技を始め、小さいときから父にくっついて走ってきた。中学生のときにはいろいろと父がアドバイスをしてくれ、一緒に走ると「いい勝負でした」と井川は言う。しかし高校生になって、父をぶっちぎった。「一緒にジョグしたときも、キツそうでした」と振り返る。九州学院高時代、主将として臨んだ高3のインターハイ5000mでは4位、国体少年男子A5000mでは2位となり、ともに日本勢トップ。3年連続で全国高校駅伝を走り、最後は1区で区間4位。チームは4位だった。

早稲田に進み、5月の「ゴールデンゲームズinのべおか」では5000mで13分54秒59をマーク。鮮烈な大学デビューを飾った。ルーキーイヤーから関東インカレと日本インカレに出場。とくに日本インカレの5000mで先輩の中谷雄飛(2年、佐久長聖)に初めて勝てたことが励みになったという。

井川(14番)は日本インカレ5000mに出場し、14分13秒07で13位。記録には満足していないが、中谷に勝てたことは自信になった(撮影・藤井みさ)

夏合宿を経て臨んだ箱根駅伝予選会で、井川は主将の太田智樹(4年、浜松日体)に続くチーム2番目となる44位に入った。しかしチーム内トップと1時間3分台前半を狙っていただけに、1時間4分50秒という結果には納得していない。それでもレース自体は楽しく走れたという。「当日は暑かったし、後半にはアップダウンもあるコースなので、めちゃくちゃキツかったです。でもトラックとは違ってロードだとスタートから伸び伸び走れる。ロードの方が自分には合ってるのかな」。チーム3番目には同期の鈴木創士(同)が続き、1年生コンビの活躍が光った。

田澤廉にひっくり返された立場

翌週には全日本大学駅伝が控えていたが、予選会でハーフマラソンを走った疲労が体に残っていた。予選会翌日から3日間はウォーキングだけ。全日本の3日前から走り始め、前日に刺激を入れた。そして1区を任された。1区は高校時代に何度も走ってきたこともあり、井川自身も思い入れが強い。「高校時代に監督から『1区が大事だから』と言われて走るようになりました。1区は好きっちゃ好き。だから全日本でも1区でチームに元気づけられるように、おもしろい走りをしたいと思ってました」

スローペースになった。スピードに自信があった井川は終盤のスパートで勝負できると踏んでいたが、そこで突き放され、区間16位に終わった。井川から襷(たすき)を受け取った主将の太田が区間4位の走りで8位に押し上げてから、流れに乗った。早稲田は6位でフィニッシュ。想定外の9位だった箱根駅伝予選会から、チームとして浮上の糸口をつかんだ。ただ井川自身には、大きな後悔が残った。

全日本では同学年のライバルである駒澤大の田澤廉(青森山田)にも刺激を受けた。高校時代はトップ争いを繰り広げ、井川が勝つことが多かった。しかし大学に入ってからの田澤は5000mで13分41秒82、10000mでも28分13秒21の自己ベストをたたき出し、出雲駅伝では各校のエースがそろった3区で区間2位、そして全日本では7区で区間賞を獲得。早くも爆発的な活躍を見せている。大学に入ってからは1度も同じレースで戦っていないが、井川は「絶対負けたくない。いまは立場が逆転してしまってるけど、どうにかして勝たないといけない」。口調に熱が帯びた。

井川(27番)は自分の持ち味であるスピードを生かし、よりキレのあるスパートができるよう、強化に取り組んでいる(撮影・北川直樹)

“流し”を見直しスピード強化

箱根駅伝を前にして自分の練習を振り返り、もっとできたことがあったんじゃないかと考えた。たとえば30kmの距離走のときは35kmまで走り、ジョグの設定時間も人より増やした。とくに意識したのは練習前後に走る“流し”だ。高校時代、どんなにキツい練習をした後でも、必ず流しを走らされていた。その結果、思うような走りにつながった。大学に入ってからは甘えから流しを省くこともあったが、いまはスピード力を高めるため、流しも丁寧に走るように心がけている。

井川にとって初めての箱根駅伝で、自分の区間として思い描くのは1区だ。「ラスト勝負だと絶対誰にも負けないという自信はあるんで、最後まで死ぬ気で粘って勝ちたいです」。2000年生まれのルーキーが、早稲田復活の原動力となるか。

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