大学陸上・駅伝

特集:第96回箱根駅伝

早稲田・中谷雄飛 けがで苦しみ、負けて芽生えたチャレンジャー魂

全日本大学駅伝は痛みを我慢しながらのレースとなった(撮影・藤井みさ)

早稲田大にとって13年ぶりとなった箱根駅伝予選会は、まさかの9位だった。その翌週に全日本大学駅伝が控えていたこともあり、相楽豊監督は難しい舵(かじ)取りを強いられた。予選会で苦しんだ一つの要因が、中谷(なかや)雄飛(2年、佐久長聖)の欠場だ。中谷は全日本では3区を走り、区間6位。早稲田は6位と復活の兆しが見えた。ただ、中谷自身は自分の力のなさを痛感させられた。今シーズンここまでを振り返り、「すごく苦しかったし、悔しかった」と言う。だからこそ、箱根駅伝では勝ちたい。

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心と体の状態が合わない

ルーキーだった昨シーズン、中谷は出雲駅伝の3区で区間4位、全日本大学駅伝は3区で区間2位、箱根駅伝は1区で区間4位だった。上々の三大駅伝デビューとなったが、中谷が目指していたのはトラックでの強さを身につけること。トラックシーズンは勝ちきれないレースが続いたが、全日本大学駅伝後の記録会では5000mで13分45秒49の自己ベストを出した。

今年5月の「ゴールデンゲームズinのべおか」では10000mで28分50秒77と記録を伸ばした。その後もユニバーシアードと日本選手権の参加標準記録突破を狙ってレースを重ねたが、思うような走りができなかった。「レースを絞って練習を積めたらよかったんですけど……。去年もそう思ってて、でも今年も同じような状況でした」

その分、夏合宿では走行距離を増やしたが、左脚に違和感を覚えた。当初ははっきりとした痛みではなかったため、「時間が経てば治るだろう」と箱根駅伝を見すえて練習を継続した。しかしそこから本格的に痛み始め、慢性的な痛みになった。合宿の合間にあった9月の日本インカレ5000mでは、早稲田の後輩である井川龍人(1年、九州学院)にも負けた。

今年の日本インカレ5000mでは、中谷は14分18秒52の記録で19位だった(撮影・藤井みさ)

トラックシーズンを振り返ると、納得できたレースがほとんどなかった。自己ベストは更新できたが、目指していたところには届かなかった。同期や後輩たちの活躍は刺激になったが、そんなときに限ってけがで走れない。心と体の状態が一致しない時期が続き、「競技をやってても楽しくない」「果たして意味があるんだろうか」と感じることもあったという。

「守りに入ったんじゃないか」と自問

これまでの競技生活で、これほど長くけがを抱えたことがなかった。「高校と比べると大学では環境が大きく変わりました。だから生活とかケアとか、本当にこれまでのやり方がベストなのか、どこかで油断してるんじゃないかってすごく考えるようになりました」と中谷。自分自身を見つめ返し、少しずつ変えようと試行錯誤してきた。

箱根駅伝予選会は中谷も走る予定だった。だがレース10日前に痛みが出始めたため、大事をとって回避した。「夏合宿でどのぐらい力がついたかを試したかったし、走って自分の状況を確かめた上で、今後どういう練習を積んでいくかを考えたかったというのはありました。でも足の状態が乗りきってませんでした」。9位というチームの結果を目の当たりにし、「自分が走れてたら少しは流れを変えられたんじゃないか」と悔やんだ。

全日本大学駅伝に向けて練習できたのは1週間程度。この状態で走れるのだろうかと思う一方で、今シーズン初の駅伝を前にワクワクする気持ちもあった。2区で主将の太田智樹(4年、浜松日体)が16位から8位に追い上げ、3区の中谷に襷(たすき)をつないだ。途中から足に痛みが走ったが、区間6位の走りで8位を死守。その上で「最後の最後まで持てる力を出しきれたか」「守りに入った部分があったんじゃないか」と自分に問いかけた。

「誰よりも速く」の初心に戻った

全日本を終えてからの3日間程度は痛みが残ったが、そこからは痛みを気にすることなく継続して練習に取り組めている。11月23日の10000m記録挑戦会で、同じ早稲田の太田直希(2年、浜松日体)や鈴木創士(1年、同)が自己ベストを出し、中谷のタイムを抜いた。また同じ日にあった八王子ロングディスタンスでは、駒澤大の田澤廉(1年、青森山田)が10000mで28分13秒21をマーク。田澤とは仲がよく、一緒に食事に行くこともある。「自己ベストのお祝いとか言いつつ、なんだかんだで僕がお金を払ってます」と中谷。それでも「さすがにこんだけおごってもらったら困る」と田澤が言い、いちど払ってもらったことがあるそうだ。

継続して練習ができるようになってから、気持ちも上向いてきた。「僕がやりたいのは強い選手に勝ちにいくこと。直希や創士、井川、田澤たちの走りは、誰よりも速い選手になりたいっていう初心を思い出させてくれました。本人には言ってないけど、刺激をもらえて感謝してます」

昨シーズン、中谷は出雲と全日本で3区を走った。今大会の箱根で3区を希望するのも「いい印象があるので、その験担ぎもあって」(撮影・安本夏望)

箱根駅伝では1区か3区を走りたい。1区なら前回の経験を生かして、3区なら自分の持ち味であるペースをつくって押していく走りで区間賞を狙う。ただあくまでも中谷の念頭にあるのはトラックでの勝負。まずは5000mで日本選手権の参加標準記録を切る。田澤が10000mでたたき出した記録を破るのも一つの目標だ。

相楽監督の言葉で吹っ切れた

ルーキーだった昨年、中谷には「スーパーエース」という言葉がついてまわった。その言葉は励みにも、プレッシャーにもなった。結果が出なかった1年目のトラックシーズンには「高校時代に強かったのはどこにいったんだ」と言われることもあったという。2年生になってからは、けがが続いて思うような走りができなくなった。高校時代に勝ち続けてきた相手に負ける悔しさがずっと胸にあった。

そんなとき、相楽監督がこう声をかけてくれた。「負けたことで新たにチャレンジャーとして戦える。そういう感じでもいいんじゃないか?」。もう、そんなに気負わなくてもいいのかなと思え、吹っ切れた。

これまでの競技人生の中で、今シーズンはもっとも悩み苦しんできた。そして、負けたことで心に火がついた。いまはチャレンジャーとして前だけを見すえている。

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