大学バスケ

アルバルク東京で膨らむ小酒部泰暉の夢 神奈川大・幸嶋HCの愛情に背中を押され

アルバルク東京のパヴィチェヴィッチHCは小酒部のデビュー戦に「練習がほんんどできてない状態にも関わらず、思い切りのいいプレーでよく役割を果たしてくれた」とコメントした(提供・B.LEAGUE)

神奈川大学3年の小酒部泰暉(おさかべ・たいき、山北)は昨年末、同大バスケ部を退部し、Bリーグ2年連続チャンピオンのアルバルク東京と選手契約を結んだ。大学4年のシーズン終了を待たずにBリーグ入りした選手は、馬場雄大(筑波大~アルバルク東京~テキサス・レジェンズ)、岡田侑大(拓殖大~シーホース三河)、中村太地(法政大~京都ハンナリーズ)に次いで4人目となる。

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プロデビューの瞬間は動揺、それでも「いつも通り」に

1月5日、駒沢体育館で実施されたアルバルク東京vs千葉ジェッツの第2戦で、そのときは訪れた。試合開始から約5分。6-11の千葉リードという場面で、アルバルクのルカ・パヴィチェヴィッチヘッドコーチ(HC)は、小酒部の名前を呼んだ。パヴィチェヴィッチHCはベンチの右端に立ち、小酒部は左端の方に座っていた。だからなのだろう。小酒部は自分に向けられた目線を、さらに左に控える選手へのものと勘違いした後、なんともぎこちない小走りで指揮官のもとに進んだ。

神奈川大の幸嶋謙二HCは、しきりに小酒部を「田舎の小学生みたいなやつ」と例えていた。学生コーチの野崎秀平(5年、日立北)、盟友の二ノ宮杉太朗(3年、保善)も、愛情を込めて「ガキ」「子供っぽい」と彼を表する。初めてプロのコートに立った小酒部は、まさに子供のように瞳を輝かせ、ワクワクする気持ちを抑えきれないような表情をしていた。初シュートは第1クオーター残り49秒に決めた。左45度から放った、やわらかなジャンプシュートだった。

同ポジションの田中大貴がけがで欠場していたため、準備はしていた。ただ、タイミングまでは把握できず、動揺したと笑った。9分34秒の出場で2得点、2リバウンド。「出た瞬間はなんかふわふわしてて……。でも、『いつも通りやろう』って気持ちを切り替えてからは、普段通りプレーできたと思います」。小酒部は大学でプレーしていたときと同じように、穏やかに淡々とプロデビューを振り返った。

2m超の外国籍選手がいる中でも、小酒部自身が軸の一つとするリバウンドをもぎとった(提供・B.LEAGUE)

大学で一気に注目、幸嶋HCからは「裸の王様になるな」

大学バスケ部をやめ、プロの世界へ飛び込む。小酒部がそう決めたのは、昨秋のことだった。春先からU22の代表合宿に参加し、夏にあった李相佰杯(学生選抜選手による日韓戦)では3戦全戦でトップスコアラーに。けがにより途中離脱したものの、B代表候補にも選出された。当然、多くのクラブが彼の獲得に動き出していた。オファーのほとんどが、大学に籍を置いたままプロに帯同する契約だった中、「登録カテゴリーを大学からBリーグに移さないか?」という提案もいくつかあった。

小酒部は悩んだ。得点の大半を稼ぐ自分が去れば、チームは間違いなく苦戦する。「チームを大事にしたいし、同期も仲がいいし……」。しかし彼は旅立ちを決めた。「もっともっと自分を高めたい」。思いはただそれだけだった。

神奈川大のスタッフや選手たちも、小酒部がもはやチームの枠に収まりきらない存在になっていることを悟っていた。野崎の目には、小酒部が2年生のころから、仲間に対してフラストレーションを溜めているように見えることがあった。選手たちはコート上で足を止め、小酒部の動きを目で追うことが増えた。そんな状況を受け、幸嶋HCは彼に対して口酸っぱく「裸の王様になるな」と諭した。ベクトルを自らに向けること、そして自らをおとりとして仲間を生かすことにフォーカスさせた。

幸嶋HC、自分がした後悔を小酒部にはしてもらいたくない

実は、幸嶋HCと小酒部の境遇は驚くほどよく似ている。神奈川出身で、家から一番近い無名の公立高校で伸び伸びとプレーし、関東2部の大学に進学。高校から大学にかけて身長がぐんと伸びたのも同じだ。ただ、そこから先の未来は変えなければならないという強い意志が、幸嶋HCにはあった。

小酒部にとって学生最後の大会となったインカレでは、白鷗大の守備を崩せず62-74で2回戦敗退。厳しいマークにあいつつも、小酒部は28得点5リバウンド6アシストと意地を見せた(撮影・青木美帆)

「卒業後に東芝(川崎ブレイブサンダースの前身)に入ったんですけど、3年でやめたんです。監督さんの方針に納得がいかなくて、ふてくされたようなやめ方でした。あとで振り返ると、世間知らずでいきなりトップチームに進んで、勘違いしていた。すごく後悔しました。だから、同じことは絶対あいつにはさせたくないし、そういう思いもさせたくないんです」

「恥ずかしいから、あいつには話したことないんですけどね」と笑いながら、幸嶋HCは続ける。

「今季に入って、いきなり環境が変わったじゃないですか。いろいろな方が取材に来てくださって、ちやほやされてもおかしくない。だから、あいつにはいつも同じことを言いました。『俺はもうバスケットで教えることはなくなっちゃったかもしれないけど、お前は頑張りさえすれば、どんどんいい環境へと進める。そのときに大切なのは人間性だよ。ひたむきさと謙虚さ。これがお前のすべてを支えてくれるものになるから』と」

各クラブからのオファーは、小酒部本人でなく幸嶋HCのもとに届いた。「小酒部は来年も大学でやらせます」と言うことも、もちろんできた。しかし幸嶋HCはそれを選ばず、「自分の意志で決めなさい」と小酒部に話し、最終的な判断を彼に委ねた。「あいつが自分の息子だったらどうするかなって考えたんです」。幸嶋HCの深い愛情に背中を押され、小酒部は神奈川大バスケットボール部を巣立った。

「あいつが自分の息子だったら」と考え、最後は小酒部自身に判断を委ねた(写真は2018年のインカレのもの、撮影・青木美帆)

最終的に、行き先候補は3チームに絞られた。「どれも夢のようなところ」と小酒部が表するチームの中からアルバルクを選んだのは、昨年12月の初め。理由は、国内最強のチームで自分の力を確かめたかったからだ。インカレを終えた12月23日よりチームに合流し、大学の授業やテストを受けながら新生活を始めている。「ちょっとさみしい」と漏らす人生初の一人暮らしにもようやく慣れ、予定通りにいけば、卒業までの単位を2019年度中に取り終える。

大学2年生のときまで、全国はおろか県内でも非エリートだった超異例の逸材は、今季のシーズンインで急激に伸び、年をまたぐ前に次のステージへと進んだ。スキル、戦術理解、ハイレベルなゲームの経験、体づくり……。課題は山積みだが、幸嶋HCの言葉と、「いつでも、できることを全力でやる」という自身のモットーを胸に、大きく、高く飛んでほしい。