フィギュアスケート

特集:駆け抜けた4years.2022

石塚玲雄が「WASEDA ON ICE」に込めた思い 全員が輝くアイスショーに

「WASEDA ON ICE」で演技する石塚玲雄(すべて撮影・浅野有美)

3月12日、早稲田大学スケート部フィギュア部門のアイスショー「WASEDA ON ICE2022」がダイドードリンコアイスアリーナ(東京都西東京市)で開催された。海外を拠点とする選手も含め全部員18人が演技を披露した。卒業と同時に競技を引退する主将の石塚玲雄(4年、駒場学園)は、佐々木風珠(4年、早稲田実業)とともに仲間や家族たちと新しい門出を祝った。

島田高志郎ら豪華キャスト

石塚らが起案者となり、昨年から始まったアイスショー。企画から運営まで部員たちで作り上げた。コロナ禍のため会場に入れた関係者以外はYouTubeのライブ配信で1日限りのショーを楽しんだ。

顔ぶれも豪華だった。2018年ジュニアグランプリファイナル男子3位の島田高志郎(2年、木下グループ、就実学園)や2021年全日本選手権アイスダンス3位の西山真瑚(2年、目黒日大)、高浪歩未(3年、インターナショナル東京)、2019年同女子3位の川畑和愛(ともえ、2年、N高)ら全国レベル選手に加え、国際大会で活躍し昨年卒業・引退した永井優香さんも特別ゲストとして花を添えた。

ショーでは18人全員が個々のプログラムを披露。グループナンバーもあり、男子はブルーノ・マーズの「Just the Way You Are」、女子はYOASOBIの「群青」の音楽にのり、息の合った演技を見せた。シンクロナイズト・スケーティングの経験がある佐々木が振り付けを担当。1月から練習を始め月2回の部連を通して仕上げた。

早稲田のネットワークもフル活用。選手を紹介するアナウンスもOBOGのつながりから全日本選手権を担当している方に依頼した。会場の照明やパンフレット制作には広告研究会や放送研究会が協力。パンフレットにはOBOGの中野友加里さんや町田樹さんたちもメッセージを寄せた。

島田高志郎(左から2人目)らとグループナンバーを披露した

大トリを務めた石塚は今季のフリー「雨に唄えば」を万感の思いで滑った。スケートを楽しむ気持ちを忘れないために選んだ曲。 雨の中で歌い踊るミュージカル映画の名シーンを再現した。アンコールでは自身の振り付けの「Mr.S」で、アイテムの帽子を使いながらアップテンポな曲で会場を沸かせた。

早大の石塚玲雄「フリーを絶対に滑る」 全日本選手権で最高のラストダンスを

18人全員が演技する意味

「18人全員そろったことがうれしい。開催に関わってくれたすべての方に感謝したい」

フィナーレを終えると会場と配信で見守った人たちに石塚はそう語りかけた。

「もともとは(永井)優香ちゃんの代をちゃんと送り出してあげたいという思いがありました。僕が入学した時は部連もなく、部の一体感を感じられるものがないなと。早稲田は魅力的なメンバーがそろっているので、引退生がしっかり送り出してもらえて引退生でなくても楽しめるのがアイスショーだと思いました」と起案の理由を語る。

自分たちでアイスショーを作り上げること。何よりも部員全員が滑ることにこだわった。

「僕はトップではないけど全日本には出ている微妙な立場。トップはトップでいろいろ苦しさや大変なこともあると思いますが、そこになかなかいけないつらさを経験しています。だからこそ『WASEDA ON ICE』を含めて部員全員が一人ひとり演技できて、級と関係なく活躍できる場を作りたいと思っていました」

リンクサイドから仲間の演技を見守った

全日本選手権や国際大会でメダルをとれるのは一握り。全日本やインカレにさえ出られない選手が大半だ。それぞれの目標で競技に打ち込んだ選手たちが輝く場所を用意したかった。

その象徴がスケートを始めて2年のチェン・ドンシェン(シンガポール)だった。他の選手より短いプログラムだったが1回転ジャンプを入れて滑り切った。練習のたびに上手になっていく姿を思い出した石塚は胸が熱くなった。

引退セレモニーでは後輩の小室笑凜(3年、開智日本橋学園)から「玲雄君のあたたかい人柄や明るい人柄で部をまとめて、ここまでひっぱってくれていい部活を作り上げてくれました。本当にありがとうございました」と花束を贈られた。石塚は「僕のスケート人生はまだまだ続くので、立場は変わりますが部員のみんなを応援しています」とエールを送った。

第2のスケート人生へ

3歳から始まったスケート人生。東京を代表する選手に成長し、悔しさも喜びもたくさん味わった。大学進学後は全日本選手権に出場するも過去3回連続SP落ち。「客席から他の選手のフリーを見る自分の体は重かった」。そのつらさを最後の全日本選手権にぶつけた。SPを通過しフリーを大きなミスなく滑り切ると何度もガッツポーズをした。

「若干オーバーにやりました」と笑うが、イメージトレーニング通りだった。「うれしかったです。最小限のミスでいい演技ができたのは、完成度を高めて練習できていたからだと思います。過去3回のSP落ちが全日本につながりました」。最高のラストダンスだった。

そして「WASEDA ON ICE」で仲間とともに最高のフィナーレを迎えた。

自ら振り付けた「Mr.S」で会場を魅了した

「早稲田のスケート部に入ってよかったです。先輩にも後輩にも恵まれて、こんなに幸せなことはないです」

4月からは大阪府立臨海スポーツセンターでコーチとして選手の育成と競技の普及に携わる。「第2のスケート人生を走り始めます。全日本に選手を連れていけるコーチになりたいし、選手以外にも大人のスケーターにスケートの楽しさをもっと感じてもらえるコーチになりたいと思います」

石塚の笑顔がまぶしく輝いていた。

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