早大の島田高志郎、スイスから世界へ 宇野昌磨・紀平梨花から刺激「経験値積みたい」
2大会連続オリンピック金メダルの羽生結弦(ANA)、2006年トリノオリンピック金メダルの荒川静香さんなどトップスケーターが輩出した早稲田大学。その現役選手で注目される一人が19歳の島田高志郎(木下グループ)だ。身長176cm、長い手足を生かした豊かな表現力、爽やかな笑顔で観客を引きつける。羽生も学んだ人間科学部eスクール2年生でスイスを拠点に世界を目指す。北京オリンピックシーズンを前に抱負を語ってもらった。
15歳で単身スイスへ
島田は愛媛県松山市出身、6歳でスケートを始め、競技に打ち込むため小学4年で岡山市に移住した。ユースオリンピックや世界ジュニア選手権代表などジュニア時代から注目された一人。17年に15歳で単身スイスへ渡り、トリノオリンピック銀メダルのステファン・ランビエル・コーチに師事した。就実高校に在学しながらジュニアグランプリシリーズをはじめ多くの国際大会に出場。18年ジュニアグランプリファイナルでは銅メダルを獲得し、翌シーズンにシニアデビューした。4回転ジャンプも習得し、技術、表現ともに磨きをかける。
全日本で集中力を発揮
20~21年シーズンは島田にとっても厳しい1年だった。新型コロナウイルス感染拡大で出場できた試合はスイスで行われた大会と年末の全日本選手権だけ。帰国後は滑れない期間もあった。「もっと試合がしたかったのが本音です。コロナ禍の状況なので仕方ないですが、もっと経験値を積みたかった」と明かす。
その中でも成長はあった。「数少ない試合の中で最大限はできたと思います。集中力、大事なところで力を発揮する。それができた2試合でした。ここ2、3年はあまりいい演技が見せられませんでしたが、全日本では自分の強い気持ちを100%出して演技ができました。まだ細かいミスがあり、自分の(理想とする)滑りにはほど遠かったですが及第点は出た試合でした」
19年全日本選手権フリーと比べると、4回転ジャンプはトーループ1本から20年はサルコーとトーループの2種類2本に増え、技術点は16.55点上がった。スピンも最高のレベル4をそろえ合計149.06点、順位も前年10位から8位に上げた。「つかんだものというのが何かあると思うので、それを来シーズンにつなげていきたい」と先を見据える。
宇野、紀平の練習を“特等席”で
スイスに拠点を移して5年目。海外生活も板についた。週6日は氷上と陸上の練習、週1日がオフ。練習の合間に大学の講義を動画で勉強している。英語はオンラインで受けるときもある。「人として成長するために大学に入りたいと思いました。行動分析学とか健康心理学とか、気持ちの問題をどう解決していけばいいのか学んでいます。自分で料理もして生活をこなしながら大学の勉強もして、スケートと向き合っている毎日です」と充実した様子だ。
練習を共にする仲間にも恵まれている。ランビエル・コーチのもとでは、男子で2018年平昌オリンピック銀メダルの宇野昌磨(トヨタ自動車)、女子で全日本選手権2連覇中の紀平梨花(同)がいる。「スケート技術だけでなく、試合に向けての気持ちや調整の仕方、練習量。トップで活躍している二人ですから、『特等席』で見ながら刺激をもらって自分の練習に生かしていくことができます」
深まるコーチとの信頼関係
ランビエル・コーチとの信頼関係は日々深まっている。「振り付けをするときもサクサク進むというか、二人の意見、感覚が似てきたんじゃないかと思います。最近、ステファンの誕生日(4月2日)に『おめでとう』という言葉をかけたら。『演技動画を見たけれどすごく成長しているね、ありがとう』と逆にお祝いされちゃって。ステファンから成長面を言われたのがすごくうれしかったですね」。周りから見るとほほえましいひとときだったという。
ランビエル・コーチも島田の持ち味を引き出しており、「昔から変わらない笑顔、感情を表に出す、氷の上で出すことが自分は得意なので、そこが好きだと言ってくれます」とはにかむ。
シニアで踊る「チャップリン」
来シーズンに向けて準備も進んでいる。4月に京都府宇治市で開催されたアイスショー「ブルーム・オン・アイス」では来シーズンのショートプログラム「Giving Up」を披露した。アメリカの歌手ダニー・ハサウェイの曲で「はかない、せつない、大人びた恋愛を表現したい。ステファンからこの曲で振り付けてもらえないかと言ってもらえた」と紹介した。
フリーはジュニア時代の15~16年シーズンに演じた「チャップリン」をテーマにした曲。当時、ジュニアとは思えない表現力でコミカルに踊った「チャップリン」はファンの間で記憶に残るプログラムの一つ。今度はシニアになって演じる。「ライムライト」や「モダン・タイムズ」など映画音楽の名曲が詰め込まれている。3月にランビエル・コーチが振り付けを手がけ、「成長した大人びたチャプリンを出していきたい」とアピールする。
オリンピックへ強い気持ちで
いよいよ北京オリンピックシーズンが始まる。島田も代表入りを狙う一人だ。日本男子のトップ争いは熾烈(しれつ)。18年平昌オリンピックで金メダルの羽生、銀メダルの宇野に続き、今年の世界選手権で銀メダルを獲得した星瑳国際高校横浜3年の鍵山優真や2019年ジュニアグランプリファイナルを制した埼玉栄高校3年の佐藤駿(フジ・コーポレーション)らが力をつけている。ベテランの田中刑事や友野一希もいる。
「4回転3本では足りない時代。練習で4回転の成功率は徐々に上がっているので、それを試合で決めることと、経験値を積みたいです」。4回転ジャンプはサルコーに加え、ルッツにも挑戦するという。
整理された思考、言葉一つひとつにも気を配る。甘い笑顔の中に強い意志がはっきりと見える。ジュニア時代から変わらない島田の魅力。最後にオリンピックシーズンへの意気込みを聞いた。
「強い自分を目指してやってきて、少しずつつかみつつある。それをもっともっと練習で伸ばしていきたいです。オリンピックシーズンを強い気持ちで戦い抜いて、そこから得られる経験値を今後につなげていきたいです」
トップにどこまで迫れるか、島田の成長に注目だ。