日体大・谷山三菜子 セブンスの19歳ゲームメーカー、武器のキックは服部亮太仕込み

「サクラセブンズ」こと、女子ラグビー7人制日本代表。メダル獲得を目指した昨夏のパリオリンピックは過去最高の9位となったが、上位進出はかなわなかった。再びロスオリンピックを目指して代表メンバーの若返りを図る中で、昨秋、大学1年生ながら日本代表に駆け上がり、世界を転戦するワールドシリーズ(WS)で攻撃的なゲームメーカーとして過去最高の4位に貢献した19歳のホープがいる。日本体育大学ラグビー部女子の谷山三菜子(佐賀工業)だ。
アメリカ戦でトライ、WSベスト4に貢献
2月22日、WSのカナダ・バンクーバー大会の準々決勝のアメリカ代表戦、延長戦で谷山はインゴールに飛び込み、トライを挙げてベスト4進出に大きく貢献した。「トライを取ったときはめちゃくちゃうれしかった! ただ同点の後、自分がゴールキックを決めていれば延長戦はなかった。(キックの時)手が震えたりしてしまったので、もっとメンタル面を強くしないといけないと思いました」
今季、谷山は11月のUAE・ドバイ大会、12月の南アフリカ・ケープタウン大会、1月のオーストラリア・パース大会では13人の代表メンバーに選ばれながらも試合出場時間はあまりもらえなかった。しかし、中学時代から指導を受けている兼松由香HC(ヘッドコーチ)に「(代表メンバー)13分の1の役割をしっかり果たすこと、そして、どれだけの時間に出たのではなくチームに貢献した数が大事とずっと言われていました。13人が一人ひとりの役割を果たすことができたことが勝利につながったのかな。私も自分のやるべきことが明確になっていたから思いっきりアタックできました」と破顔した。

ラグビー一家の生まれ 走り高跳びで中学の県大会優勝
福岡県福津市出身の谷山は、2人の伯父、いとこ、さらに警察官の父や3人のきょうだいも競技をしているラグビー一家に生まれた。4きょうだいの3番目に生まれたため三菜子と名付けられたという。
埼玉ワイルドナイツに在籍する兄・隼大が玄海ジュニアラグビークラブで競技を始めたため、物心ついたときからグラウンドにいたという。姉・美典はYOKOHAMA TKMでプレーし、高校2年の妹・雅は佐賀工業ラグビー部に在籍している。

まず谷山が3歳の頃から夢中になったのは、父の勧めで取り組んだゴルフだった。ラグビーは、兄がやっていたことと、ゴルフのために足腰を鍛える目的で始めた。しかし小学校5年くらいになると、「ラグビーの練習が楽しくなった」ことや、ゴルフは緊張からかOBをよく打つようになってしまったため、ラグビーを選んだ。そのときのことを、「ラグビーに集中しようと思った。ゴルフは老後の楽しみにとっておきます」と苦笑いで振り返った。母が陸上経験者だったため、中学時代は学校の陸上部にも所属。走り高跳びでは157cmを跳んで県で優勝するほどの実力だった。
ラグビーでは中学2年時、スクールの福岡県選抜に選ばれて全国大会で優勝し、その活躍から将来、世界で戦える人材を育成する「セブンズユースアカデミー」に選出されるようになった。当時は日本代表の兼松HCがコーチをしており、谷山は中学2年以来、ずっと指導を受け続けている。

高校時代、同期の服部亮太からキックを教わる
高校進学時、福岡の高校に通いながらクラブチームでラグビーを続ける選択肢もあったが、「部活でラグビーをしたかった」ため、親元を離れて、人工芝があり設備が整っており、女子選手も多数受け入れている佐賀工業に進学。「男子部員といっしょに練習した方が鍛えられるかな」という思いもあった。
谷山のもくろみ通り、有望な女子選手たちといっしょに練習するだけでなく、タックルこそしないが男子部員と練習することができて「めちゃくちゃ良かった」。また小城博総監督に「女子であまりキックを蹴ることができる選手はいないから練習した方がいい」とアドバイスを受けた。同級生のSO服部亮太(早稲田大学1年)に教えてもらい、SH井上達木(筑波大学1年)といっしょに練習に精を出し、攻撃的なランとともに谷山の武器の一つとなっている。

現在でもヘッドギアは佐賀工業時代のものをかぶってプレーしている。「佐賀工業では精神面で鍛えられた部分が大きく、ヘッドギアをかぶると、ちょっと気合が入ります。横に(佐賀工業のスローガンの)『不撓不屈(ふとうふくつ)』って書いてある。それを見るともっと頑張ろう!と、ちょっとスイッチが入りますね」
高校卒業後は、大学に行ったり働いたりしながらクラブチームでプレーする選択肢もあった。ただ、クラブチームだと高校時代より練習量が減ってしまうことを懸念。「毎日練習をやって、しっかり自分の課題に取り組めるところがいいな」と考え、勧誘を受けた強豪の日本体育大に進学した。「日本代表を目指していたので、代表になるためにはどこが一番いいかなって考えたら、やっぱり日体大が一番だと思いました」

日体大で1年から活躍、日本代表にも初選出
昨年、谷山は1年生ながら太陽生命ウィメンズセブンズシリーズに出場し、さらに上のレベルで経験を積むことができた。「日体大のシステムとかも多くて大変だったんですけど、先輩たちに助けてもらえました。システムを覚えて動けるようになってからは楽しむこともできました」と声を弾ませた。
日体大での活躍が評価されて、昨年9月、アジアシリーズの韓国大会で初めて日本代表に選出された。「初キャップが取れた時は、やっと日本代表になれたと、本当にうれしかったです」
アジアシリーズを経て、ワールドシリーズでも世界各地を転戦し、谷山は海外の相手と対戦することが多くなった。「状況判断とか周りを見るということはだいぶできてきたと思うが、外国人選手と戦ってみて、初速のスピードや身体的なフィジカルがまだ足りない。またディフェンス面でも苦手意識が多いので、(高校・大学の先輩で、日本代表で一緒にプレーする堤)ほの花さんに練習で教えてもらっています」と手応えを口にした。

海外遠征もようやく最近は慣れてきて、楽しめるようになった。バンクーバーでは先輩選手と一緒にいろんな国の食べ物を食べたり、ショッピングを楽しんだりしたという。現在は、海外のレフェリーとコミュニケーションを取るために「英語の勉強を本当に頑張っています」。好きな選手は元オーストラリア代表SOクエイド・クーパー(現・近鉄ライナーズ)だ。
大学では体育の教員免許も取得中で、大学の授業と代表活動の両立はやはり大変だという。「合宿中にパソコンで課題をやったりとか、ラグビー部の同期の友だちに頼ったりと、どうにかやりくりしてやっています」
今年は6月から始まる太陽生命ウィメンズシリーズは代表活動と日程が被らず、今季も日体大の一員として出場できそうだ。「日体大のラグビーに慣れてきて、戦術も理解できるようになって、今年は引っ張っていかないといけない立場になると思うので、チームの中心になって戦えるようになりたい。今年はみんな優勝しか狙っていないので、(3大会の総合ポイントで)4位以内に入ればチャンスが出てくる。チームの士気も上がっているので、とにかく最初の大会でベスト4以上を目指して頑張りたい」と語気を強めた。

兄・姉・妹と切磋琢磨しロスオリンピックめざす
サクラセブンズに定着しつつある谷山は、大学を卒業する2028年のロサンゼルスオリンピックに対して、「より出たいという思いが強くなりました。今までは『出られたらいいな、いつかあの舞台に立ちたいな』と思っていましたが、今は『絶対に出たい!』とちょっと思いが強くなりました。日本代表に残り続けたら、オリンピック出場のチャンスがあると思うので、自分の強みを出していきたい」と前を向いた。
大学の授業や日体大の練習、代表活動と忙しい日々を送っている谷山だが、やはりきょうだいの存在は心のよりどころになっている。「お兄ちゃんはいつも『頑張れよ!』って応援してくれます。プレー面でも、素直にどうしたらいいかと聞くときもあります。でも技術面とかよりもお姉ちゃん、妹も含めて『いっしょにラグビーをやっている』って精神的なところで支えになっている部分があります。これからも一緒に頑張りたいですね」
谷山は引き続き、3月末は香港、4月はシンガポールで開催されるWSに出場するサクラセブンズに選ばれた。きょうだいと切磋琢磨(せっさたくま)しながら、自ら仕掛けるランとキックを武器に、オリンピックへの歩みを着実に進めていく。

