ラグビー

日体大・松田凜日 日本ラグビー界のサラブレッド、ワールドカップで桜を咲かせる

アイルランドとのテストマッチ第2戦では2トライをあげた(すべて撮影・斉藤健仁)

10月8日からニュージーランドで女子の15人制の世界一を決める9回目の「ラグビーワールドカップ2021」が始まる。コロナ禍の影響で1年延期されての開催となる。「サクラフィフティーン」こと女子ラグビー日本代表は今回が5回目の大会となり、目標は初のベスト8進出だ。

父譲りのポテンシャル

32名の女子ラグビー日本代表のうち大学生は7人。早稲田大学のPR・加藤幸子(3年・休学中)、日本体育大学のPR・小牧日菜多(3年)、国際武道大学のHO・永田虹歩(にじほ、4年)、立正大学のLO・吉村乙葉(3年)、日本体育大学のFL向來桜子(1年)、立正大学のSO/CTB今釘小町(3年)、日本体育大学のCTB/WTB/FB・松田凜日(りんか、3年)がおり、中でも最も活躍が期待されているのは20歳の才能豊かな松田だ。

松田の父・努氏は男子の15人制日本代表でFB(フルバック)として活躍。男子のワールドカップ(W杯)に4度出場した名選手で、凜日はまさしく日本ラグビー界が誇るサラブレッドだ。松田は開幕戦から15番を背負って先発する予定で、もし出場すれば、日本ラグビー界で初めて父娘でのW杯出場となる。

ワールドカップに挑む「サクラフィフティーン」

もともと7人制ラグビー(セブンズ)を中心に活躍してきた松田だが、今年3月から15人制の日本代表候補合宿に招集され、5月のフィジー代表戦で初キャップを得た。そして7月の南アフリカ代表との第1戦では、父と同じFBとしてタックルとカウンターアタックで15-6の白星に寄与し、そのポテンシャルの高さを見せつけた。

さらに8月末のアイルランド代表とのテストマッチ第2戦では、パワーと快足で魅せてWTBとして2トライを挙げ、29-10の快勝に貢献した。「『リラックスして迷わない』がテーマでした。お客さんが多くて緊張しましたが、見応えのある試合になればいいなと思ってワクワクしていました。(ボールを持って)抜けたときの歓声は今まで感じたことがないものだったのでうれしかった!」

7月の南アフリカ代表との第1戦。父と同じFBで、ポテンシャルの高さを見せつけた

東京オリンピック(7人制)は、けがに泣く

松田は努氏の次女として東京都府中市で生まれた。小学校3年のとき、父に連れられてブレイブルーパス府中ジュニアラグビークラブで競技を始めた。体験会で「トライを取ったときうれしかった」という松田は、徐々に競技にのめり込んでいく。なお日本代表FB立川剛士(現・関東学院大BKコーチ)の息子であるSO立川大輝(関東学院大3年)らはスクールの同期だ。

松田は「お父さんに走り方そっくり。立ち姿が似ている」といううわさをよく耳にした。中学時代はスクールで競技を続ける傍ら、中学校の陸上部ではラグビーに生かすために4種競技にも打ち込んだ。すると中学2年でセブンズユースアカデミーに選ばれ、中学校3年の終わりにはセブンズの日本代表候補合宿に参加するなど、若い時から耳目を集めてきた。

高校は、よりラグビーに集中できる環境を求め、親元を離れて國學院栃木に進学した。当初は「東京五輪に出られたらいいな」と思っていたが、日本代表候補合宿に参加を重ねるにつれて「絶対に東京五輪に出たい」と覚悟を決めた。そして高校3年の4月には、17歳でセブンズの日本代表デビューを飾った。

高校はラグビーに集中できる環境を求めて國學院栃木へ

だが、その後は右足首のけがに苦しみ、手術も経験。リハビリを重ねながら東京オリンピックに備えてきた。オリンピックの日本代表に1度は選ばれたものの、大会直前にまた負傷し、辞退せざるを得なかった。4年以上目指してきた夢の舞台を、直前で諦めることになり、「すごく悔しくて、応援してくれている方に申し訳ない気持ちで、落ち込みました」と振り返る。

高校時代と東京オリンピックをめざしたセブンズでは、けがとの戦いだった

快速・フィジカル、15人制でも開花

辞退したことのへ失意は、競技に取り組む意識を変えることで消えていった。日体大に戻った際は「本気で取り組んでいたからこそ、また頑張ろうと思わないようにしました」。すると「ラグビーを楽しもうと切り替えてリハビリや練習に臨んだら、気持ちも楽になってラグビーのプレーの質も上がっていった。今までになくラグビーが楽しくなりました!」

そんな時、サクラフィフティーンのレスリー・マッケンジーHC(ヘッドコーチ)から、15人制の日本代表に誘われる。当初、そのままセブンズをプレーすることも考えたが、父やコーチに相談すると、「15人制に行ったほうがいいのでは? (15人制の)W杯が終わってからでも2024年のパリ五輪に間に合うのでは?」というアドバイスを受け、今年は15人制に集中することを決めた。

15人制のバックスリーを任されると、一気に能力を発揮

マッケンジーHCは当初、松田をCTBで考えていた。だが、「広いスペースで使いたかった」とFBやWTBといったバックスリーで起用するようになると、松田はその能力をいかんなく発揮。50m走6秒7の快足ながら、ベンチプレスはFWの選手を入れてもトップクラスの90kgを上げるフィジカルで、一気にスターダムへとのし上がり、一気にW杯のメンバーにも選ばれたというわけだ。

松田は「尊敬している」という父の話をされることについて、「別に嫌ではない」と話す。「顔や走り方、根暗な性格とか全部そっくり過ぎると自分でも思いますが、あまり気にしていなくて、お父さんのおかげで女子ラグビーを知っていただけて、自分に興味を持っていただけるのは、すごくありたがい」

コーチとしても娘を長年指導してきた父の努氏は、「まだまだ経験の浅いところもあるが、力を発揮できるように失敗をおそれずプレーしてほしい」とエールを送る。

ラグビーをしているとき以外はもっぱらインドア派で、漫画を読んだり、YouTubeを見たりするのが趣味だ。お菓子やケーキも好きで、自分へのご褒美としてシュークリームやハッピーターンを食べるという20歳の大学生らしい一面もある。

国歌を歌う松田。左は加藤。右は名倉

めざすは世界の8強

現在、世界ランキング13位のサクラフィフティーンは、W杯2日目の10月9日15時15分(日本時間11時15分)にカナダ代表(同3位)との初戦を迎え、15日17時30分(日本時間13時30分)にアメリカ代表(同6位)、23日12時45分(日本時間8時45分)にイタリア代表(同5位)と対戦する。格上ばかりの対戦だが、最低でも1勝し、負けても勝ち点を得ないと、ベスト8の道は見えてこない。

「W杯本番まで進化する」をテーマに合宿と試合を重ねてきたサクラフィフティーンは、9月24日、大会前最後のテストマッチとして、敵地で優勝候補のニュージーランド代表と対戦し、12-95で大敗。松田も持ち味を発揮できなかった。だがチームとしても個人としても、この試合で出た課題を修正してW杯本番に臨みたい。

大学3年生ながらその活躍が大いに期待されている松田は、初のW杯に向けて「ラグビー選手として目指したい大会でした。大舞台でしっかり強豪国に勝ってベスト8に入って、日本のラグビーの価値を上げられたらいいな」と力強く語った。

ワールドカップの舞台に立てば、日本初の父娘2代での出場となる

父娘で初のW杯となる凜日が、サクラのジャージーを着てニュージーランドの地で大きな花を咲かせる。

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