ラグビー

流通経済大卒のSO大塚朱紗はランとキックで世界に挑む 格上オーストラリアに金星

オーストラリア代表戦でプレーヤー・オブ・ザ・マッチに輝いた大塚朱紗(写真・日本ラグビーフットボール協会提供)

10月にニュージーランドでワールドカップを控えている「サクラフィフティーン」こと女子15人制ラグビー日本代表(世界ランキング12位)。その強化のために5月にオーストラリア遠征を敢行し、3連勝を果たした(対戦相手:フィジー代表、オーストラリアンバーバリアンズ、オーストラリア代表)。最終のオーストラリア代表戦でトライを挙げるなどPOM(プレーヤー・オブ・ザ・マッチ)に輝いたのが、3月に流通経済大を卒業したばかりのSO(スタンドオフ)大塚朱紗(あやさ、23、RKUグレース)だ。

チームからコロナ陽性者 逆境はねのけ3連勝

5月の女子ラグビー日本代表のオーストラリア遠征では、チームからコロナ陽性者が出て毎回、誰が出るかわからない苦しい状況の中でも3連勝を達成した。初戦でフィジー代表に勝利して勢いに乗ると、最終戦では格上で世界ランキング5位(当時)のオーストラリア代表に4戦目にして史上初めて勝利した。

3戦すべてに出場し、オーストラリア代表戦では10番を背負って先発した大塚は前半9分、組織ディフェンスで相手のミスを誘い奪ったボールを蹴り込み、自ら押さえて先制トライ。12-10の勝利に大きく貢献した。「ものすごく嬉(うれ)しかったです」と破顔した。勝利の後から翌日まで祝福のメールが届き、携帯が鳴りっぱなしだったという。

オーストラリア代表戦では先制トライを奪うなど勝利に大きく貢献した(写真・日本ラグビーフットボール協会提供)

司令塔としてキックをうまく使った大塚は「自分たちより、フィジカルが強く格上のチームということは認識していました。それをどう崩して、どう自分たちが勝利するのか考えながらプレーした。コロナの陽性者が出てしまい、前日までメンバーがわからない状態だったので、勝利をつかめたのは良かった」と振り返った。

ただワールドカップを控えているだけに、大塚はロッカールームに戻り、やや冷静さを取り戻すと「もっとエリアを取ったり、外に展開して面白いブレーができたりしたかな」と反省したという。

ラグビー一家、3歳から競技はじめる

大塚は、京都・花園高校ラグビー部出身の父を持ち、3学年上の双子の兄2人(拓殖大出身の隆史は現在も秋田ノーザンブレッツに在籍)もラグビーをやっていた影響で、3歳から京都西ラグビースクールで競技を始めた。女子ラグビー部が創設されたばかりの京都精華中学に進学し、高校から親元を離れて兄2人も通った石見智翠館高校(島根)に進学した。

大学は7人と15人制代表経験のある井上愛美ヘッドコーチ(HC)がおり、寮生活をしながらラグビーに専念できる流通経済大学に進学。15人制ではスピード、ステップ、スキルに長(た)けたFB(フルバック)だった大塚のプレーを見て、井上HCは「4年間、SOで育てる」と15番から10番にコンバート。「父も兄2人もSOだったので、私もSOになってちょっと嬉しかった!」と大塚は話す。

流通経済大学に進学後、FBからSOにコンバートした(撮影・松嶋愛)

高校時代はどちらかと言えば7人制ラグビーが中心だったこともあり、井上HCの下でSOとして大きく成長したという。大塚は「まったく知識がなくて、ずっと感覚でラグビーをやっていてゲームメイクなどを教えてもらうことができて良かった」と語気を強める。

SOとして存在感を発揮した大塚は大学1年生の終わり、2019年1月にレズリー・マッケンジーHCが就任すると日本代表合宿に初招集された。そして同年11月、大学2年時のイタリア代表戦で初キャップを得ると、スコットランドの代表戦では途中出場ながらトライを挙げて24-20の勝利に寄与した。

ただ、SOのライバルで、前回ワールドカップも経験しているSO山本実(日本体育大卒、三重パールズ)は、イングランドのウスター・ウォリアーズで研鑽(けんさん)を積んでおり、今回の遠征に参加していなかった。大塚はライバルの存在を強く意識しており、「もちろん(ワールドカップでも)10番で出たいですが、自分の調子も含めチームにしっかりと貢献できる選手じゃないと、強豪相手に通用しないと思うので、もうちょっと鍛えていきたい」と先を見据えた。

ワールドカップ、目標は「ベスト8」

3月に流通経済大学を卒業して、社会人となった大塚は「環境がいいので」と引き続き、RKUグレースに在籍。日本代表の遠征などを認めてくれる茨城トヨペットに所属し、午前9時から午後4時半まで働きながら、15人制ラグビーに精を出す毎日だという。

2大会連続5回目のワールドカップ出場となる女子ラグビー日本代表。大塚にとっては出場すれば初のワールドカップとなる。予選プールではカナダ代表(世界ランキング4位)、アメリカ代表(同5位)、イタリア代表(同6位)と強豪と同組となった。

10月のワールドカップに向けて「自分でもパフォーマンスをしっかり上げていきたい」(撮影・松嶋愛)

大塚は「ワールドカップは、オーストラリア代表よりもっと格上のチームと対戦することにもなるので、自分たちが掲げるベスト8という目標を絶対に達成したい。ワールドカップでは自分でもパフォーマンスをしっかり上げていってチームを勝利に導けたらいいなと思います」

女子ラグビー日本代表は7月末に南アフリカ代表(同13位)と、8月末にアイルランド代表(同7位)とそれぞれ国内で2試合ずつ戦い、10月のワールドカップに向けて強化を進める。流通経済大学で大きく成長した大塚は山本と切磋琢磨(せっさたくま)しながら、得意のランとキックで世界の舞台で10番を背負って「サクラフィフティーン」を勝利に導く。

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