フィギュアスケート

フィギュア界の「二刀流」 同志社大学・森口澄士、シングルとペアで全日本出場狙う

20年全日本選手権に初出場し12位と健闘した(代表撮影)

野球界で二刀流といえば米大リーグ・エンゼルスの大谷翔平だが、フィギュアスケート界にも二刀流に挑戦する男子選手がいる。2020年全日本選手権シングルに初出場した同志社大学商学部2年の森口澄士(すみただ)だ。京都府宇治市立宇治中学2年の櫛田育良(いくら)とペアを組み、シングルとペアで全日本選手権出場を目指す。新境地を切り開く森口にペアを始めたきっかけや北京オリンピックシーズンの目標について聞いた。

アイスダンスが大好き

フィギュアスケート界にリアル二刀流男がいるらしい。そんなうわさを聞いて京都宇治アイスアリーナに足を運んだ。2014年ソチオリンピックペア日本代表の高橋成美さんが「ペアボーイ」として一目置く男子選手だ。

京都府出身の森口は身長174cm、体重69kgで日本男子の中ではガッシリした体形。所属の木下アカデミーでは「生徒会長」を務めている。小学3年の冬、2010年バンクーバーオリンピック銅メダルの高橋大輔(関西大学カイザーズフィギュアスケートクラブ)の演技を見たのがきっかけでスケートを始めた。京都両洋高校では全日本ジュニア選手権や全国高校選手権(高校総体)に出場、表彰台経験こそなかったが、大学生になって力をつけ、2020年全日本選手権に初出場し総合12位と健闘した。

昨年6月からペアに挑戦。きっかけは男性が女性を肩より上に持ち上げるリフトや、男女がそろってジャンプを跳ぶサイド・バイ・サイドを遊び感覚でやっていたところ、ペアのパートナーを探していた櫛田から声がかかった。

もともとアイスダンスを見るのが大好きで、通学中やストレッチの合間に演技動画を繰り返し見ていた。カップル競技挑戦への心理的ハードルは低く、「リフトがかっこいいし、楽しいと思った。アイスダンスみたいにペアを滑れたらいいなと思っていました」。

櫛田育良(左)とペアを組み、全日本選手権出場を狙う(撮影・西岡臣)

櫛田は全日本ノービス(カテゴリーA)選手権4位の実力者でジャンプが得意。「二人とも3回転ルッツが跳べるので、迫力があるサイド・バイ・サイドが見せられる」と試合で披露する様子が頭に浮かび、ペア挑戦を決意。いまはシングルとペアを2対1の割合で練習している。

高橋成美さん「ペアボーイとして完璧」

櫛田、森口組を指導する高橋成美さんも「森口選手はスケート能力が高いし、性格もいい。ペアは一緒に毎日練習するので、性格も含めて実力なんです。ペアボーイとしての素質があります」と太鼓判を押す。櫛田も「やさしいし、練習前に注意点を確認してくれて、練習中も励ましてモチベーションを上げてくれます」と信頼を置く。

森口がスケートを始めるきっかけになった高橋大輔はシングルからアイスダンスに転向した。「(シングルだけでなく)カップル競技でもあこがれの存在になってくださった」と尊敬する。

同志社大進学は友野一希のおかげ?

大学ではビジネスを学ぶ森口。同志社を選んだ理由について「SNSで先輩たちの練習やインカレの様子を見て楽しそうだったのと、 笹原景一朗さん(2019年卒)に『同志社きいや』と言われて、友野一希選手に『同志社こようや』と言われて、好きな先輩に誘われて選んだら同志社になりました」と笑顔。1年で教養科目を履修し、2年から商業・金融学系の専門分野を学んでいく。

最近興味を持った授業は店舗運営。オーガニックとそうではない価格帯が違う二つの商品を店内でどう並べて価値を高めるかを議論した。価値をどう見せるかという点でスケートにも通じるものがあったという。

あこがれはシングルからアイスダンスに転向した高橋大輔だ(撮影・西岡臣)

分刻みのスケジュール

シングルとペアの両立、さらに大学との両立は想像以上に大変だ。「1日24時間ある中でアルバイトを4つ掛け持ちしている気分」と言う。生活は分刻みで、午前5時に起床し7時15分から練習。日中は大学の講義を受け、リンクに戻ってまた練習。帰宅は午後8、9時頃でストレッチや授業の課題をこなして深夜に就寝する。

シングルでは4回転ジャンプの練習に励みながら、ペアの技の習得、上半身の筋トレも欠かさない。4月にあった木下アカデミーのアイスショー「ブルーム・オン・アイス」では先輩ペアの三浦璃来(りく)、木原龍一組(木下グループ)にアドバイスを求めた。「デススパイラル(男性が軸となり、女性の手をつかんで回転する技)が難しいのでコツを聞くと、女の子にしっかり合わせて滑ってあげるようにと教えてくれました」

羅針盤になっているのが、木下アカデミーで指導する田村岳斗(やまと)コーチ。1998年長野オリンピック男子シングル代表で知られるが、その前年1月にあった全日本選手権男子シングルで2位、ペアで優勝している。

「田村先生が同じ日にペアとシングルの両方の試合に出たと聞きました。ペアを滑った50分後にシングルがあり、それでもいい演技ができたという話を聞いてすごいなと。田村先生くらい頑張ったらできるんだと思い、全日本選手権にシングルでもペアでも出ることを目標にしています」と志は高い。

「ブルーム・オン・アイス」に出演し、ペアとシングルで技を披露した(撮影・西岡臣)

自分で選んだ道だから

来シーズンの準備も進んでいる。シングルのショートプログラム(SP)はイギリスのシンガーソングライター、エルトン・ジョンの「アイム・スティル・スタンディング」でキャシー・リードさんが振り付けた。フリーは「Jekyll & Hyde」を選曲した。「昨年はトリプルアクセルを2本決め切れていなかったので、それをできるようにすることと、4回転トーループも組み込んでいけたらと思います」と意気込む。

シングルとペアと両立、競技と学業の両立。とてつもない挑戦への覚悟を聞いてみた。「この道を自分で選んだので。もっと体力をつけていきたい」ときっぱり。「ペアはパートナーがいるから落ち込んだときとか励まし合えるし、相手が頑張っていたら自分も頑張れるし高め合える。シングルにもよい影響があると思っています」

「二刀流」を体現する19歳。新境地への道は始まったばかりだ。

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