女子が都大路初出場を決めた駒大高校 渡邉聡先生が大八木弘明総監督からもらった助言
今回の「M高史の陸上まるかじり」は駒澤大学高等学校陸上競技部(以下、駒大高校)のお話です。東京都高校駅伝(以下、都駅伝)で女子が初優勝を飾り、全国高校駅伝(以下、都大路)初出場を決めました。顧問の渡邉聡先生は駒澤大学OBで大八木弘明総監督の教え子です。
女子は階段を上るように順位を上げました
駒大高校陸上部長距離ブロックの顧問は草島文勝先生と渡邉聡先生。また外部からは田中幸二コーチと石井輝コーチが入り、きめ細かく手厚い指導体制で活動しています。
渡邉聡先生はかつて選手として駒澤大学に入学しますが、2年生の箱根駅伝後にマネージャーに転向。3、4年と副務を務めました。同級生には窪田忍さん、油布郁人さんといった駅伝やトラックでも大活躍したチームメートがいました。
2017年、駒大高校に赴任し、2年目の2018年には男子が都駅伝で初優勝を飾って、都大路に初出場。女子は2018年に東京都高校駅伝で6位となり、関東高校駅伝に出場しました。
女子は2019年にも都駅伝で6位となり、2020年は5位、2021年は4位、2022年は3位、昨年が2位。そしてついに今年、念願の初優勝! まさに階段を上るように順位を上げてきました。
在校生のレベルアップと卒業生の活躍
M高史も駒大高校の皆さんにはとてもお世話になっていて、思い入れのあるチームです。というのも、2018年に駒大高校の練習に参加させていただいたことがきっかけとなり、「M高史の部活訪問」という活動がスタートしました。学生さんたちの練習に参加、取材させていただくことに楽しさとやりがいを感じ、その後も中学、高校、大学生の皆さんを応援する形で全国各地の学校に伺い、現状打破させていただいてます。
今年は駒大高校の夏合宿に伺い、つい先日は関東高校駅伝前に行われたポイント練習にも参加させていただきました。駒大高校へは毎年伺っていますが、ウォーミングアップのペースが速くなっているなど、チームとして格段にレベルアップされていることを肌で感じていました。
毎年、一緒に走らせていただいているので、卒業生の活躍も楽しみにしています。現役の大学生では駒澤大学の金谷紘大選手(4年)に注目です。コツコツと4年間、着実に成長を続けて、今年は関東インカレ男子2部5000mに出場。出雲駅伝、全日本大学駅伝では出走こそなりませんでしたが、いずれも登録メンバー入りを果たしました。出雲駅伝ではレース後の出雲市陸協記録会5000mで全体5位となる13分57秒12をマーク。箱根駅伝でのメンバー入りが期待されます。
同じく駒澤大学の菅谷希弥選手(1年)は昨年、駒大高校3年時に10000mで東京都高校新記録となる28分55秒93をマーク。188cmという長身を生かしたダイナミックな走りが特徴です。
女子では東洋大学に進んだ渋谷菜絵選手(3年)が今年、日本インカレ女子1500mに出場。全日本大学女子駅伝、富士山女子駅伝にも出場経験があり、渋谷選手らしい軽快な走りでトラックから駅伝まで駆け抜けます。
男女とも大学でも競技を継続する選手が増えています。高校時代に一緒に走った選手の皆さんと、大学生になってから試合会場などでお会いすることも僕の楽しみになっています。
「学校や周りの方からも応援される人になろう」
都駅伝を終え、関東高校駅伝に向けた練習日、渡邉聡先生にお話を伺いました。
「(女子は)昨年の3年生たちが初めて(都駅伝)優勝を本気で目指したのですが届きませんでした。生徒たちは『もう今年は1位しかないでしょ!』という空気になっていました。今年の3年生は『絶対勝ちます』とブレずにチームを引っ張ってくれて一つになっていました」
駒澤大学で大八木総監督から受けた情熱や信念は、渡邉先生にとっても指導の土台となっているそうです。2018年に男子が全国に行けたのは「勢いだけでなく、運が良かったのもありました」と渡邉先生は振り返ります。
都大路の舞台を経験した男子はその後、東京都で4位、5位といった順位が続き、全国への道のりが厳しい時期もありました。女子も徐々に順位が上がっていたものの、まだ上位校とは大きな差がありました。そんな時に渡邉先生は恩師・大八木監督から助言をいただいたそうです。
「練習を一生懸命やる、練習メニューを考えるというのは顧問として当たり前です。それも大事ですが、生徒の人間教育についてもっと深く考えるようになりました。原点に戻って、まずは当たり前のことを当たり前にできるように、人としての成長をより意識したところ、少しずつ変わっていきました」と渡邉先生は言います。
「生徒たちは『全国へ行きたい』『強くなりたい』と言いますし、みんな練習は一生懸命にやります。ただ、生活面に関しては、うちは寮生活ではなく全員自宅から通っていますので、そこでチーム全体の意識や一人ひとりの意識が出てしまいます」
渡邉先生が伝え続けたのは「学校や周りの方からも応援される人になろう」ということでした。「なぜそれが大事なのか、顧問がいる時だけやるのではなく、いない時でもできるようにしようと言い続けてきました。人から言われてやるのと、理解して自分で動けるようになるのとでは全然違います。だんだん、学校でも他の先生から『陸上部いいね』と言われるようになってきました」
都大路での目標は「8位入賞」
生徒さんたちの変化を渡邉先生は実感していました。「勝ちたいのだったら、当たり前にできる行動を当たり前にする。練習はもちろん、生活面もしっかりやる。全国へ行きたいんだったら、忘れ物をしないよね、整理整頓は当たり前だよねというところですね」。そういった練習以外の場面が改善されていくと、競技の成績も上がっていったそうです。
「本当に不思議なのですが、それを感じたこの5、6年でした。また、記録が伸びただけでなく、公式戦では先頭や前の方で自信を持って走る選手が増えました。『都大会だったらレースを作るのは当たり前』『だって全国へ行きたいんでしょ』という空気がチーム内でも浸透しています。記録会でも都大会でも、前の方で勝負するという姿勢に変わってきました」
そして、今年の都駅伝では女子が初優勝。男子も2位に食い込みました。
「女子は都大会は勝ちましたが、まだまだというところです。生徒たちは都大路で8位入賞を掲げているので、それにどこまでチャレンジできるか近づけるのかですね。目標にして準備したいと思います」。指導者として今後の目標については「もちろんここがゴールではないですし、今年は結果として都駅伝は女子優勝、男子2位でしたが、来年こそは男女で優勝して、男女とも都大路に行きたいです。今の生徒たちが思っていることなので、達成できるように指導していきたいです。また、高校3年間で人間教育を大切にしていきたいです。いろんな経験をして、成長して、次のステージに進んでもいろんな場所で活躍できる人を育てていきたいです」とお話しされました。
3年生の選手、お2人にも話を伺いました!
都駅伝で区間賞を獲得した3年生の野口麻衣子選手、中尾夕菜選手にもお話を伺いました。今大会は1区の松田悠楽選手(2年)が区間3位の好位置でつなぎ、2区・中尾夕菜選手(3年)が区間賞の走りで順天高校を逆転して2位に浮上。3区で順天高校がトップに立ちましたが、3区の堀一彩選手(3年)、4区の伊藤晴香選手(1年)がともに区間2位で粘り、先頭と27秒差でアンカー5区の野口麻衣子選手へ襷(たすき)リレー。野口選手が逆転し、8秒差をつけて初優勝のフィニッシュテープを切りました。
主将 野口麻衣子選手(都駅伝5区区間賞 3000mベスト9分35秒39)
「昨年、都大路に行けず本当に悔しい思いをして、チームの意識が変わりました。キャプテンになって、絶対自分の代で都大路に行こうという気持ちでした。言葉だけではなく結果で引っ張っていこうと意識していました。個人ではインターハイに出場しましたが、最初1000mの入りからついていくのに精いっぱいでした。このままでは都大路で戦えないと思い、そこからさらに気持ちを切り替えました。(都駅伝では)27秒差で襷をもらって、正直不安もありましたが、絶対ここで決めるしかないと思って走り出しました。見える位置でつないでくれたみんなにありがとうと思いましたし、沿道からもみんなが応援してくれました。(今後の目標について)都大路は初出場でも入賞を狙う勢いで、全員でちゃんと合わせて頑張りたいと思います。大学でも1年目から全日本や富士山で使ってもらえるような選手になりたいです」
今シーズンはインターハイやU20日本選手権にも出場し、東日本女子駅伝では東京都代表で出走。5000mでも昨年16分16秒53で走っており、1500m、3000m、5000mの3種目で駒大高校記録を保持しています。
中尾夕菜選手(都駅伝2区区間賞 3000mベスト9分43秒55)
「昨年の都駅伝では大差をつけられての2位でした。都大路にたどり着くまでの道のりはまだまだだと感じました。今年は夏にけがをして、苦労したところもありましたが、なんとか合わせることができました。(都駅伝では)個人の走りは納得いっていないです。(前を走る)順天高校と7秒差で、(中継所では)詰めて同じくらいで襷を渡しましたが、本当は差をつけて渡したかったです。ただ、そのあとの3区、4区、5区を信頼していたので、信じて応援しました。アンカーに渡った時に27秒差でしたが、いけると思っていました。この1年苦労してきたこともありましたし、涙が止まりませんでした。(今後の目標について)都大路では入賞を目指して、ここからもっと個人の勢いも大事にしながら頑張ろうと思います。大学での目標は、私はスピードが得意なので、長い距離も頑張りながら、スピードランナーとして1500mや駅伝の短い区間でも頑張りたいです」
スピードが得意という中尾選手は今シーズン、800mで2分12秒94の駒大高校記録を樹立しました。
私、M高史が部活に顔を出させていただくと、生徒さんたち一人ひとりが元気よくあいさつに来てくださいます。大八木総監督のDNAを受け継ぎ、練習から生活面まで、丁寧にきめ細やかな指導をされている渡邉先生。顧問として生徒さんたちといつも真剣に向き合い、情熱に満ちあふれている草島文勝先生。外部コーチで時に生徒さんたちと走り、鼓舞し続ける田中幸二コーチ。トレーニングからケアまで幅広くサポートしている石井輝コーチ。卒業生、生徒さんたちのご家族をはじめ、応援されている皆さん。皆さんの思いが1本の襷に込められて、都大路の舞台を思いっきり駆け抜けてほしいと思います!