富士山女子駅伝初出場を決めた帝京科学大学!清野純一監督が説く、目標設定と継続力
今回の「M高史の陸上まるかじり」は帝京科学大学女子駅伝チームのお話です。今年の全日本大学女子駅伝では初出場ながら12位に入り、富士山女子駅伝の出場権も獲得。大学女子駅伝界でいま、勢いのある注目チームです。
「学生たちは努力ができる子たち」
帝京科学大学女子駅伝チームは2018年に始動し、今年で創部7年目になります。昨年3月、仙台育英高校時代に全国高校駅伝で優勝を果たし、順天堂大学時代も箱根駅伝総合優勝を経験された清野純一監督が就任。引退後は仙台育英高校や実業団での指導も経験され、陸上の現場から離れていた期間を経て、いまは帝京科学大学で指導されています。
私、M高史と清野監督は同い年ということもあり、高校、大学時代の活躍は大会などでよく見ていました。同い年の指導者が増えて、今度は選手を育てる立場で活躍されている姿を拝見すると、うれしくなりますね。ところが、清野監督が就任する前年の関東大学女子駅伝は、全日本大学女子駅伝出場権のボーダーラインまで約7分というチーム状況でした。
清野監督は「就任してすぐ学生たちと話をしました。最初に来た時は全国を目指す雰囲気ではありませんでした。学生スポーツなので、目標を決めるのはあくまで学生たちです。その上で、学生たちに目標を話し合ってもらったところ、持ってきたのが『それでも全国にチャレンジしたい』というものでした。言うのは簡単ですが、ボーダラインまでは約7分という差。相手は2km以上先にいました。可能性はゼロに近い、でも目指すなら目指すなりのことをやらないといけないよという話をしました。『それでもいいのでついていきます、やります』と学生たちは言ってきました。そこでのやりとりが、1年半という短い期間で全日本にたどり着くことができた、ひとつの大きな分岐点だったと思います」。
目標設定と、そこに向けて努力を継続する大切さを丁寧に教えていきました。「競技は下から方式です。今のレベルからまず10秒アップ。次に20秒アップ。そして30秒アップ……。継続してやっていったら、5000m16分台でしょという風に積み重ねていきました。全日本までの7分差をいきなりはね返すのは難しいですが、1年目にまずは3分差にして、今年はさらに4分縮めてボーダーを突破しました」と清野監督。今年の関東大学女子駅伝では8位に入り、全日本大学女子駅伝初出場を決めました。
「速い、遅いは抜きにして、学生たちは継続した努力ができる子たちでした。それが大きかったですね。その後は私が声をかけて『帝京科学でやってみたい』という学生たちが入ってきてくれました。これまでの指導経験をもとに丁寧に、基礎、基本を大切にちゃんとやるべきことをやれば速くなれると伝えていきました」
RPE(自覚的運動強度)を練習中から活用
清野監督が練習に採り入れているのがRPE(自覚的運動強度)という指標です。
「就任当初、みんな練習がなかなかできなくて、どれくらいキツいのか、よくわからなかったんですよ(笑)。そこで研究や実験などで使用するRPEを用いて、定期的にキツさを確認するようにしたんです。その後、キツかった練習だったのが、1カ月後、2カ月後に同じ練習を同じようにやったとき、前よりもキツくなくなっていたら、強くなっているよね、という指標にもなりました」。RPEは練習日誌でだけではなく、練習中も確認するようにしているそうです。その他、心拍数も参考にしているそうで「理屈や根拠があって、この練習の設定タイムがあるんだよと伝えるとすんなり入ってくれますね」と手応えを口にされました。
「あくまでも学生がやることですので、(指導は)競技力と人間力を磨いて、社会に出ていくための準備をすることです。たとえば目標に対して山を登るにしても、来年くらいまでは全部教えますが、登り方や方向性の出し方がわかってきたら、今の下級生が上級生になった時は、もっと自立したチームを求めたいです。そのためには一人ひとりが自立しないといけないですし『みんなならできると思うよ。それが学生スポーツだよ』という話はしています」
ポイント練習でRPEの指標を体験
RPEの指標について、実際に練習で体験させていただきました。
取材に伺った日は、全日本大学女子駅伝に向けたポイント練習が行われました。1600m×5本という内容です。1600mを走った後に少し休息をとり、全部で5本走ります。リカバリーの間に、選手自身でキツさや余裕度を確認し、自己申告でボードに示していきます。
ボードには6~20までの数字が書かれており、数字が小さい方から「非常に楽である」「かなり楽である」「楽である」「ややきつい」「きつい」「かなりきつい」「非常にきつい」という項目が記されていました。
本数を重ねるにつれて「楽である」から「ややきつい」になっていく選手もいれば、1本目は「ややきつい」で始まり、逆に刺激が入ったのか、2本目以降「楽である」になる場合もあります。僕もやってみましたが、4本目や5本目は「もう少しで終わる!」という精神的な影響からか、序盤よりも楽に感じました(笑)。
この日は追い込むトレーニングではなく、ある程度、余裕を持ちながら走る練習ということで、清野監督もフォームや余裕度に関するアドバイスを選手に送っておられました。こういったトレーニングの成果が実を結び、全日本大学女子駅伝では初出場ながら12位に! 全日本に続いて富士山女子駅伝の初出場も決めました。
授業や実習が多い中、競技でも現状打破!
練習後、選手の皆さんにもインタビューしました。チームや競技のお話から、今後の目標、学業、趣味まで色々伺いました!
山口あずさ主将(4年、白鷗大足利)
「4年生は自分1人しかいないですが、明るい後輩たちに毎日助けられて、優しくてみんな妹みたいです(笑)。前半シーズンはけがで思うように走れず、走りでチームを引っ張ることができませんでした。関東インカレが終わってから徐々に走れるようになってきて、練習中の声かけや練習以外の場面でも『みんなで頑張ろう』という雰囲気を作るように心がけていました。ジョグの意識も変わってきて、中盤から後半の走りが変わり、5000mで戦う走りを清野さんから教えていただきました。清野さんがオンとオフの切り替えが大事と言ってくださっているので、オフは友達とお出かけしてリフレッシュしています」
中村愛莉選手(3年、鯖江)
「新入生がすごく頼もしくて、力がある子が入ってきてくれました。チーム内でお互いに高め合っていけるような存在が身近にできたので、みんなで強くなろうと思える雰囲気がだんだん出てきています。4年生が1人なので『3年生がしっかりサポートしなきゃ、4年生を支えていかなきゃ』という気持ちが強くありました。自分で積極的に距離を踏む意識で、ジョグはもちろんですが、アップやダウンのジョグも意識してスタミナがついたかなと思います。5000mがまだ16分40秒07なので、まずは16分40秒を切って16分半に近づけたらと思っています。少人数のチームですが、人数が少ないからこそ清野さんが練習も一人ひとりと向き合ってくださいます。人数は少なくても、みんな元気でチームの雰囲気も良いです」
取材時に目標を教えていただいた中村選手ですが、その後11月9日の日体大長距離競技会で16分22秒08をマークし、自己ベストを大幅に更新しました。
山田依茉選手(1年、世羅)
「もともと鍼灸(しんきゅう)や柔道整復などの分野に興味がありました。高校にトレーナーさんが来て、よく診ていただいていたのがきっかけです。柔道整復学科で、人の骨や筋肉について勉強しています。今後は11月の記録会で5000m16分20秒前後を目標にしています。(現在のベストは16分47秒)富士山女子駅伝では1区を走りたいです。高校時代もずっと1区を走っていました。1区は緊張するのですが、チームのために走っていい流れを作りたいです。(帝京科学大学は)一人ひとりが陸上に対して本気なので、私も頑張ろうと思えるチームです」
柔道整復学科で柔道整復師の資格を取得予定の山田選手。オフは映画を見るのが好きな時間とのことです。
粕谷雫選手(1年、宇都宮文星女子)
「高校時代は自宅から自転車で片道10kmを通っていました。朝練もあったので結構カツカツでした(笑)。大学に入ってからは寮生活も楽しいです。先輩たちが優しくて、上下関係もなく、コミュニケーションをとりやすい雰囲気を作ってくださっています。清野さんに出していただいたメニューをちゃんとこなせていたので、関東大学女子駅伝で単独走になっても目標タイム以上で走れました。帝京科学大学に入学したのは、全日本や富士山の初出場を果たすこと。そして自分もその一員になりたいという思いからでしたので、うれしかったです。富士山女子駅伝では最長区間を任せてもらえたらという希望があります。タイムに関しては、まずは12月に5000mで16分10秒を切り、少しでも15分台に近づきたいです(現在のベストは16分23秒48)」
学校教育学部・中高保体コースで学んでいる粕谷選手。全日本では最長区間の5区で区間13位と各校のエースたちと渡り合いました。大学に来てからはサウナが好きで、息抜きになっているそうです。
資格や免許を取れる学科に所属している選手が多く、選手の皆さんは授業数が多かったり実習があったりする中で、競技でも結果を出し、現状打破し続けています。初の富士山女子駅伝での襷(たすき)リレーにも注目です!