加藤学園高・山口浩勢先生と宇部鴻城高・江本嵩至先生は、城西大OB!合同合宿に密着
今回の「M高史の陸上まるかじり」は加藤学園高校と宇部鴻城高校の合同合宿のお話です。東京オリンピックとオレゴン世界陸上3000mSC日本代表の山口浩勢さんが昨年4月、加藤学園高校(静岡)陸上競技部の副顧問に就任し、指導者としてスタートを切られました。山口先生の城西大学時代の先輩でもある江本嵩至先生がご指導されている宇部鴻城高校(山口)との合宿に伺ってきました。
山口先生が大学1年の時、江本先生は院1年で主務
加藤学園高校は2015年に全国高校駅伝で8位入賞を果たすなど、都大路に出場していた時期がありました。ただ、近年は苦しい戦いが続き、山口先生が就任する前年の静岡県高校駅伝では12位。入賞ラインからも遠のいていました。
そんな中、前年まで日本代表として世界の舞台で戦ってきた山口先生が就任。ただ、最初はギャップが大きかったそうです。「まずは部室の清掃から始めました。生徒たちに何を伝えたらいいのかなと思った時に、わかりやすくオリンピックの話をしたのですが、皆、ポカンとしていました」と山口先生は振り返ります。
「自分の中では、ずっと積み上げてきた陸上の延長線上にオリンピックがあって現在があるので、『みんなにも可能性がある』と言いたかったのですが、全然伝わらないんです(笑)。そこで今の生徒に寄り添って、生徒の気持ちに合わせた話をしていかないといけないな、と考え方を変えました」。目の前の記録会、目の前の大会の話を丁寧にするようになりました。
その結果、就任1年目で加藤学園高校は静岡県高校駅伝で6位に。前年から大きく躍進し、東海高校駅伝出場を決めました。
山口先生が城西大学で1年生の時、大学院1年生ながら主務という珍しい立ち位置でチームのマネジメントやサポートをしていたのが江本先生でした。
江本先生の母校で指導にあたっている宇部鴻城高校は、城西大学の恩師・櫛部静二監督の母校でもあります。最近では駒澤大学から九電工に進んだ山野力選手もOBです。山口県高校駅伝は西京高校が31年連続で優勝していますが、その前年に優勝したのが宇部鴻城高校でした。ちなみに当時の都大路のリザルトを見てみると、1区を走られたのが、のちに早稲田大学や中国電力で活躍された梅木蔵雄さんでした。時代を感じます。
昨年の山口県高校駅伝では宇部鴻城高校が4区でトップに立つも、5区で西京高校が逆転。悔しい2位となり、都大路には届きませんでした。
伊那駅伝に向け、静岡県御殿場市で合同合宿
もともとは加藤学園高校が単独で伊那駅伝に向けた合宿を組んでいたところ、宇部鴻城高校と静岡県御殿場市で合同合宿をすることになりました。
大学生としては入れ違いになりますが、山口先生が1年生の時に江本先生が大学院1年生で主務ということで、大会の同行などで付き合いは長く、密度の濃い2年間を過ごされたそうです。
山口先生から「伊那駅伝は出ないんですか?」と聞かれた江本先生は「当初、伊那駅伝の計画は立てていなかったのですが、翌年度に向けて刺激になりますし、意識を高められると感じました。ただ、山口からはるばる行くのに駅伝だけ走って帰ってくるのはもったいないなと思って、相談したんです」とお話しされ、合同合宿の実現に至りました。
伊那駅伝直前の合宿ということで、追い込んだ練習はせずに調整練習がメインとなりました。ただ、普段はなかなか大会でも接することがない両校。「せっかくの機会ですし、目指すところは一緒です」と山口先生も快諾して、開催されました。
静岡県御殿場市の「遊RUNパーク玉穂」が拠点になりました。M高史も以前山口先生には現役時代に、江本先生には山野選手が当時のハーフマラソン日本人学生最高記録を樹立された時に、それぞれ取材させていただいたご縁もあって、合宿に参加させていただけることになりました。
山口先生が説いた「表現力」の大切さ
「遊RUNパーク玉穂」は1周1kmの舗装路とクロカンコースがあり、中央には芝生が広がります。富士山がこんなにもくっきりと見られる練習場所はなかなかないのでは、というくらい写真映えします! クロカンコースはスコリア(火山から噴出したものの一種だそうです)という砂のような路面。走り幅跳びの砂場の上を走っているかのような軟らかい感触で、体幹もバランスも鍛えられて、かなり良いトレーニングになります。
芝生を使って動き作り、補強、流しなどを丁寧に行うことができますし、周回コースは適度な起伏もあり、リズムよく走ることができます。レース前の調整としても、強化・鍛錬としてもトレーニングできる場所だなと感じました。何よりも景色が最高! 富士山に見守られ、心身の充実を感じます。
動き作りでは山口先生が実演する場面もありました。動きのキレや意識するべきポイントがとてもわかりやすく、山口先生のしなやかで美しい動きはもはや芸術の域(笑)。選手の皆さんにとっても素晴らしすぎるお手本だったのではないでしょうか。
夕食後は両校そろってミーティングも行われました。学年ごとに次の1年の目標に対して、チームに何が足りないのかを話し合い発表。山口先生は「表現力」というキーワードをお話しされました。自分が思っていることを言葉に出すこと、きちんと言葉で表現すること、それが結果的にパフォーマンスにもつながっていくんですね!
伊那駅伝は両校が隣同士でスタート
合同合宿を通じて、それぞれ両校の主将と先生にお話を伺いました。
宇部鴻城高校主将・新3年生、赤瀬志優選手
「今回の合宿ではオリンピック出場経験のある山口先生の経験談や、トップ選手の補強運動、ドリルなど新しい知識を学ぶことができました。学校に戻ったら残っているメンバーに合宿で得た知識や経験を伝え、どんどん宇部鴻城でも採り入れていこうと思います。加藤学園の皆さんと接する中で『コミュニケーションを取ることの大切さ』を改めて感じたので、自分たちも活発にコミュニケーションをとって、チームの目標である都大路出場につなげたいです。昨年の2位という悔しい結果を胸に今年は優勝します!」
加藤学園高校主将・新3年生、大川功貴選手
「今回の合同合宿で学んだことは、表現力の大切さです。一緒に合宿させていただいた宇部鴻城高校さんは全員が自分を表現できていて、チームで都大路出場を目指しているのが伝わってきました。自分たちのチームはこの表現力が課題で、個々の力もまだ弱いです。ただここを強化できれば、大きく飛躍できると感じているので、今後、表現力を身につけていき、男子は県3位以内、女子は県10位以内を目指して頑張っていきます!」
宇部鴻城高校・江本嵩至先生
「生徒の表情から、この合宿が充実したものになったことがうかがえます。合宿中は東京オリンピックや世界大会出場経験のある山口先生のポジティブな言葉、思考から『何か一つでも多くのことを吸収して帰るぞ』と生徒たちが声を掛け合う姿が見られました。その様子からもコミュニケーションの質が上がっていったように感じます。指導者としては、生徒が競技を通じて少しでも充実した時間を過ごせる環境作りを心がけています。夢や目標は生徒のものです。あらゆる経験の中から夢や目標が作られ、私はそこにサポーターとして関わることができればと考えています。昨年春、選手の中から『都大路に行く』というチーム目標が初めて立てられました。結果的には目標達成とはなりませんでしたが、着実に選手の意識が変わってきていることにたくましさを感じています。高校の陸上競技はあくまでも人生の一過程にすぎません。将来を通じて生きる経験に触れさせることに、力を注ぎたいです」
加藤学園高校・山口浩勢先生
「合宿初日の夕食では、両校が遠い位置に座るなど心の距離が行動に表れていて、残り2日間でどれだけ縮められるのか不安もありました。しかし、加藤学園高校の今年のテーマとして『表現力を高める』を体現するかのように、1回1回の練習をこなすたびに徐々に会話も増え、お互いに刺激し合っている光景が印象的でした。指導者としては、目先の結果を求めるのではなく、少しでも長く競技生活を送れるように、高校3年間でベースを作れればいいかなと思っています。私自身、29歳でオリンピックに出場することができました。どんなレベルやカテゴリーでもいいので、走ることの楽しさを感じ、ずっと続けていく中で、様々な出会いや出来事などを通して、豊かな人生を送って欲しいです。また、競技力の向上だけでなく、礼儀やコミュニケーションスキルの大切さを学び、社会で活躍できるスキルを身につけて欲しいと思っています」
ちなみに3月24日に両校そろって出場した伊那駅伝。127チームが参加した男子はくじ引きでスタート位置が決まったそうですが、なんと宇部鴻城高校と加藤学園高校が隣でスタートというミラクル! 合宿のご縁が運も引き寄せていったんですね(笑)。
伊那駅伝の結果は宇部鴻城高校が57位、加藤学園高校が82位でした。全国から集まった強豪校への挑戦を経て、新年度が始まる4月。それぞれの目標に向かって、さらに現状打破されることでしょう!