陸上・駅伝

駒澤大学新主将・山野力「打倒・青学」で大学駅伝三冠を、田澤廉とともに結果を出す

駒澤大学の山野力新主将。箱根で9区を走り、駅伝でのチーム力の大切さを知った(撮影・松永早弥香)

大学王者の駒澤大学は、新春の箱根駅伝で青山学院大学に11分15秒の大差をつけられ3位に終わり、連覇を逃した。翌日の1月4日早朝、山野力(4年、宇部鴻城)は練習前に新主将に指名された。「かなえられなかった(大学駅伝)三冠を、自分がチームを引っ張ってかなえたい」。有言実行、2月にハーフマラソンで1時間0分40秒の日本選手学生最高記録をたたき出した。自らの走りでみせながら「打倒・青学」へ突き進む。

地元の山口で好記録

山野は参加予定だった香川丸亀国際ハーフが中止になり、2月13日に地元・山口であった全日本実業団ハーフに出場した。実力者に臆することなく先頭集団の中で進む。19km過ぎに國學院大學の山本歩夢(現2年、自由ケ丘)が抜け出すと、山野も負けていない。20km手前で先頭に立つと後続を2、3m引き離しながら競技場へ。最後は実業団勢に抜かれて4位になったが、1時間3分14秒の自己記録を大幅に更新した。「箱根の疲労もだんだん抜けてきて、最低限、自己新を」と話していた本人も驚く快走。練習などでは強さをみせてきた地力の持ち主が結果を残した。

身長175cm、バランス良く伸びやか走りが魅力(撮影・加藤諒)

力走は故郷に錦を飾る形になった。山口・宇部市出身。小学生の時、箱根の山登りで激走する東洋大学の柏原竜二さんの走りをテレビで見て、「自分も箱根で」と思った。神原中学校で陸上部に入ったが、「陸上の専門知識がある先生ではなく、練習も150mダッシュを何本かやって終わりと、短距離っぽい練習だった」。目指すのは箱根だ。土、日には自主練習で、地元のときわ公園をぐるぐる走った。「何が大きな大会で、何が全国につながる大会かなどわかってなく、とりあえず出る大会は一生懸命走って自己ベストを、という感じだった」

陸上競技にも力を入れる宇部鴻城高校に進み、驚いた。「ちゃんとした練習メニューがあって、ペース走とかインターバルとか。初めて取り組み、自分の練習はまだまだだったんだと痛感した」。幼稚園から中学校までマラソン大会といえばずっと1位だった。「自分より速い人を知らなかった。高校に入って、負けを知って、負けたくない気持ちがさらに強くなって必死に練習したって感じですね」。インターハイには届かなかったが、中国新人陸上選手権5000mで優勝するなどバランスのいい走りと努力できる才能はあった。

駒澤大学から声をかけてもらったが、当初は関東の別の大学を目指していた。しかし、スポーツ推薦の条件の一つの設定タイムを切れなかった。駒澤大に連絡を取ると藤田敦史コーチから「勉強で頑張って入ったら陸上部にも入れてあげるよ」と言われた。「絶対、受かるという気持ちで毎日、勉強していました」。AO入試に向け踏ん張り、経営学部へ進んだ。

駒澤大学の好環境で力蓄える

名門の陸上部では、高校に入った時以上に驚いた。「環境が一番整っているなと思う。食事面にしてもそうですし、練習の場所もクロスカントリーコースがあったり、競い合える仲間がいたり。陸上をするには一番整っている環境だったので、駒澤大学に入学してよかった」。1年生の時はけがもなく練習に打ち込めた。出雲、全日本、箱根と3大駅伝に出走はできなかったが、記録も伸びて順調に力を蓄えられた。

そして、2年生の全日本で駅伝デビュー。6区(12.8km)を区間4位でまとめて逆転優勝へつなげた。箱根でも9区(23.1km)で区間6位と粘って逆転優勝に貢献。宇部市役所に優勝報告に訪れ、「初めての体験だったので、『頑張って良かったな』と思いました。箱根などに出場するとテレビ放映されるので、SNSなどで連絡がきました」と語った。

2年生の全日本で大学駅伝デビュー。優勝に貢献した(撮影・加藤諒)

チームで大学駅伝三冠を狙った昨シーズンは一転、苦しんだ。原因不明の不眠症に悩まされ、春の関東インカレは一睡もできずに男子2部ハーフマラソンに臨んだ。それでも、1時間3分3秒で9位に入った。夏合宿で走り込めたのがせめてもの救いだったが、その後は左ひざの痛みで出雲と全日本には間に合わなかった。

箱根では前回と同じ9区を任せられることを昨夏ごろには伝えられていたが、走りたい区間として、やや距離が短い7区(21.3km)を挙げていた。「あんまり練習が積めてないというのもあり、距離的な要素で不安な面もあった。7区は1年生らが多く走るイメージもあり、ちょっと楽をさせてもらいたいなという感じでした」

駅伝の持つ力を改めて知る

今年の箱根では予定通り2年連続で9区に起用された。出番を待つ戸塚中継所でも距離への不安を抱えたままだった。ところが、8区の鈴木芽吹(現3年、佐久長聖)がなかなか中継所に現れない。前回、山野登りの5区で力をみせた鈴木は、平塚中継所では2位で襷(たすき)を受けたが、6位まで後退してしまった。この事態に、山野は自分自身への不安が消えたという

「一生懸命、襷をつなげてくれるという姿勢を見て、なんか一気に吹っ切れたというか。自分も失敗して、『鈴木が走れなかったから、駒澤は順位が落ちた』と思われたくなかった。自分がしっかり走ることでそういうのもなくなるかなと思って頑張った」

前回の9区では抑え気味に入って、結局、後半に伸ばせなかったから、序盤から積極的に飛ばした。1時間8分47秒で区間4位、前回の自身の記録を1分余り上回り順位も2つ戻して、総合3位につなげた。駅伝にチーム力がいかに必要かを自ら感じた新春だった。

今年の箱根で10区の青柿響へ襷をつなぐ。総合3位に入った(撮影・森田博志)

新主将に就任したのは、3年生で主将を務めていた田澤廉(4年、青森山田)が世界を見据えてより競技に専念するという面もある。山野もハーフマラソンで好記録を出し、個人として戦えることを証明した。卒業後も競技を続け、マラソンへの挑戦を視野に入れる。「山の神」に憧れて競技を始め、「やまの・ちから」と山に強そうな名前ではあるが、「起伏のある距離走とかをやると、全然もう、みんなと余裕度が違うので向いてない」と笑う。

「強い新入生が入って来ますし、メンバーを見ると、最近の駒澤の中では強いチームかなと思う。『今年は自分たちも青学と互角に戦えるんだぞ』というのをみんなに言って、箱根で圧倒的に負けた差で、もう勝てないと思ってほしくない。少しでも自分がそういう声かけをすることでみんな、リベンジに燃えてほしいなと思っています」

勝負の秋へ向けて大事なトラックシーズン。主将が走りと声でチームを押し上げる。

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