箱根駅伝連覇目指す駒澤大 主将・田澤廉が導く「一人ひとりが考え責任を持つ」チーム
前回大会は10区で大逆転での優勝をおさめた駒澤大学。12月16日にオンラインによる合同記者会見が行われ、大八木弘明監督と選手たちが取材に応じた。出雲駅伝は5位だったものの、全日本大学駅伝ではチームの底力を見せて2連覇。箱根でも連覇を狙うチームの中心は、日本人学生ナンバーワンランナーの田澤廉(3年、青森山田)だ。
一人ひとりに責任を持つよう促す
田澤は前回大会で優勝した翌日に、大八木監督から主将に任命された。走力は抜群、だが3年生主将ということもあり、はじめは何をしたらいいのかわからないという状態だった。卒業した先輩たちにも連絡を取り、励ます言葉やアドバイスをもらい、自分なりのキャプテン像をつくってきた。はっきりと言葉で言うことは正直、あまりない。田澤が思ったのは、「選手一人ひとりに考えて行動してほしい」ということだ。「考えて行動できたら、それが自分の力になると思います。だから自分は答えを最初から言わず、ヒントだけを与えて答えを導くような言葉がけを意識しました」
今のチームでは特に2年生の代が強く、勢いがある。「三冠」を掲げて臨んだ駅伝シーズンの初戦、出雲駅伝ではしかし5位だった。その要因について田澤は「ミスをした選手が多いのと、自分(田澤)頼みになっていた」という。「全日本ではそれをなくして、一人ひとりが責任ある走り、自分で流れを変えられるような走りをしてほしいと言いました」。その結果、主力の鈴木芽吹(2年、佐久長聖)や、トラックシーズンに結果を残し、駅伝でも中核を担うことが期待された唐澤拓海(2年、花咲徳栄)を欠いた状態でも優勝をつかみとれた。「箱根も一人ひとりが責任ある走りをすれば、おのずと優勝につながっていくと思います」。田澤は選手それぞれが自立して考えられる力をつけるよう、主将として導いている。
日本人トップは最低限の走り
田澤自身は全日本大学駅伝7区で日本人最高記録を出したあと、12月4日の日体大長距離記録会10000mで27分23秒44の日本人学生最高記録をマークし、22年オレゴン世界陸上の参加標準記録(27分28秒00)を突破した。昨年は12月4日の日本選手権10000mで27分46秒09を出したあと、箱根駅伝に合わせきれず、2区区間7位(日本人3位)と実力通りの走りができなかったことが思い出され、それが若干の気がかりではある。それについて大八木監督は、「多少疲労はあったが1週間ぐらいの中で疲労を取りながら、距離走やインターバルなど思った通りの練習はできている」とし、田澤の現在の状態もまずまずだと話した。
昨年は全日本大学駅伝のあと、箱根駅伝に向けて重点的に練習を行い、距離走なども複数回入れていた。それが体力的に負担をかける結果となり、腰を痛めたりなど疲労が出てきてしまったという。今年は昨年の経験を踏まえ、あまり強度の高い練習を入れないようにした。田澤も「前回は合わせきれなくて、今年もわからないけど、自分がやれることはやって箱根に挑みたい」と語る。目標は「どの区間を任されても区間賞。日本人トップは最低限の走りだと思います」。ライバルは? との質問にはいつもどおり「いない」と答えたが、「強いて言うなら(イェゴン)ヴィンセント(東京国際大3年、チェビルベレク)を意識して走ります」と学生というより、世界での戦いに目線を向けている。
鈴木芽吹「悔しさを晴らす積極的な走りを」
もうひとり、優勝に向けて重要な戦力となるのが、チームで田澤に次ぐ力をもつ鈴木だ。駅伝シーズン前は昨年度の走りを振り返り、「駅伝には出たけれど満足いかない走りだったので、自分の走りで優勝を引き寄せたい」と語っていた。しかし春から調子がよく、夏合宿でも監督の出すメニューをすべてこなしているうちに、9月上旬に右大腿骨の疲労骨折をしてしまった。もともと骨密度が低く、高校の時も3回骨折をしているという鈴木。大学に入ってからは好調を維持していたため、「けがに対する油断があったかもとは思います。何も考えず、ただ言われるだけでやっていたかも」と振り返る。「ここからより、練習の質を上げることもだけど、故障しないために練習量を落とすとか、そういうことも考えてやっていかなければいけないなと思っています」
出雲駅伝と全日本大学駅伝は欠場。出雲駅伝はチームが5位となり悔しい気持ちと、自分が走れない情けない気持ちがあった。だが全日本では足並みが揃わない中でも優勝を勝ち取れたチームに、「走れない悔しさよりも先輩や同級生が頑張ってくれて優勝できた、そこにうれしさと感謝を感じました」と話す。11月中旬ぐらいから練習に本格復帰し、距離走やインターバルもこなし、順調な状態で来られている。主力と言われながらも駅伝シーズンで貢献できていない、その気持ちは鈴木の中で大きい。「箱根については往路のどこでも、任されたところで走りたいです。2つ(の駅伝を)走れなかった悔しさを晴らすような、積極的な走りをしたいです」と意気込む。
チャレンジャーとして攻める
大八木監督は「ディフェンディングチャンピオンではなく、チャレンジャーで。攻める気持ちで頑張っていきたい」とあくまで前回は前回、今回は今回、と意識する。戦略をたずねると「往路はできれば勝ちたいとは思います。負けても(首位との差が)1分半、2分ぐらいの中では持っていって、復路で逆転しようという思いはあります」と展望を考えている。戦国駅伝と言われて久しいが、その中にあっては「ミスをしたチームが負ける」と強調する。
「自分たちが今までやってきたことに自信を持って、選ばれた区間は『絶対俺がやるんだ』という気持ちで臨んでほしい」。最終的には一人ひとりの気持ちが大事。自信を持って1月2日、3日戦えるかどうか。田澤が主将として言い続けている「一人ひとりが考えること」ともリンクしている。
おごらずにやれることを一つずつ。それぞれが責任を持って走れば、おのずと連覇は近づいてくるはずだ。