駒澤大・大八木弘明監督 充実するチーム力、さらに磨いて学生駅伝三冠を
昨年度開催された全日本大学駅伝、箱根駅伝の2冠を達成し、今年度前期のトラックシーズンでも活躍が目立つ駒澤大学。今年の目標は「三冠の達成と箱根の連覇」だ。駅伝シーズンを前に、大八木弘明監督にいまのチームの状態や選手たちへの評価について、8月下旬に電話で話を伺った。
明確な目標が躍進の原動力に
「春先に順調にスピード練習ができていたなという感じで、各選手たちが目標をしっかり持ってくれていたなと思います」。大八木監督は選手たちの快進撃をこう振り返る。主将の田澤廉(3年、青森山田)、鈴木芽吹(2年、佐久長聖)は10000mで27分台を出す、5月の日本選手権でしっかり結果を出す、という目標のもとで取り組んだ。田澤は日本選手権2位で27分39秒21、鈴木は3位で27分41秒68。中堅の選手たちは5000m13分台を目標に掲げていた選手が多かったという。「13分台の中でも40秒台、上の(レベルの)選手たちなら30秒を切るとか、きちんと明確に考えて選手たちが取り組んでくれたかなという感じがしますね」
いま、駒澤大学には13分台の持ちタイムを持つ選手が18人もいる。大八木監督は「こういう練習をしてこのタイムで走れば、13分台は出せる、と各選手たちが感じ取れてきているという感じ」だと話す。従来よりもインターバルの設定タイムを2~3秒上げるなど、トレーニングの質も上がった。それについてこれる選手が増えてきたことがチーム全体の底上げにつながっている。
田澤、鈴木、そして唐澤への期待
主将の田澤は日本選手権で2位となったあと、6月のデンカチャレンジにも出場した。東京オリンピック男子10000mに内定していた相澤晃(旭化成)、伊藤達彦(Honda)に次ぐもう1人の代表を狙っての挑戦だった。田澤は1月末に疲労骨折をしたあと、3月10日ぐらいからようやく走りはじめ、日本選手権までは急ピッチで仕上げた。「(世界ランキングの)ポイントを持っていたので、さらにポイントを上げて(ターゲットナンバーの)枠に入れれば、という感じでした。チャレンジはしたけど、なかなか難しかった。いい経験したんじゃないかなと思います。まだまだ力がない。日本選手権でも(伊藤に)ラスト1000mでいかれましたしね」
一方、鈴木については「27分台は出そうだなと思ったけど、あそこまで頑張ってくれるとは」と評価する。「勢いも力もついてるし、練習の中身も良くなってます。田澤のいい練習相手だと思います」といい、「面白い形ですね」と教え子の成長を楽しんでいる。
田澤、鈴木に次いでここにきて実力を示しているのが、唐澤拓海(2年、花咲徳栄)だ。4月末に大八木監督に取材した際には、伸びてきている選手として唐澤の名前を即答していたが、関東インカレ5000m、10000mでともに3位かつ日本人トップとなるなど、期待通りの活躍を見せた。特に5000mでは、鈴木とラスト勝負となり先着した。「冬にけっこう走り込んでくれたのが大きいです。1年生のときと比べて、見違えるほど距離を踏めるようになった。トラックでいけるかな、と思ったら来てくれたのは良かった。(田澤、鈴木の)2人に近づいてくれたのではと思います」
今は田澤、鈴木、唐澤の3人で練習をするようになっているという。唐澤は関東インカレで鈴木に先着し、鈴木は「勝たなきゃいけなかった」と悔しさを口にした。7月のホクレンディスタンスチャレンジ網走大会5000mでも2人は同組を走り、今度は鈴木が先着。やはりライバル心もあるのでは……と話を向けると、「(鈴木は関東インカレで)遅れていっちゃったので、届かなかった悔しさがあると思います。でもホクレンのときには勝った。かなり2人でライバル心を持ってやってくれてると思います。そうとうレベルアップしていると思いますよ」
1年生では、佐藤条二(市立船橋)がホクレン網走大会で13分51秒49、篠原倖太朗(富里)がホクレン千歳大会で13分53秒92と好記録を残した。大八木監督は「練習もできるようになってきた」と評価し、夏の走り込みなどの練習をしっかりやってくれれば、とこの先に期待をかけている。
「まだまだ戦国時代」
新型コロナウイルスの感染拡大などで不透明なところはあるが、学生3大駅伝が開催されたら狙うのは三冠だ。特に全日本大学駅伝は過去13回優勝し、「相性がいい」と以前から大八木監督も明言している。改めて相性がいいとは? と尋ねてみると、「リズムですかね」。「夏合宿から踏まえて、練習が一旦リズムになって、うまく疲労が取れて全日本の頃に合うのかも……」。あとは「相性がいい」と言うことによって、選手たちも「自分たちもやれるかも」と思う効果もあるかも、とも言う。「昨年も春から出雲、全日本は勝てるチームだよ、と言い続けて、出雲は中止でしたが全日本では勝てました。そういう部分はあると思いますね」
昨年は田澤をアンカーに置いたが、鈴木、唐澤の力がついてきたので、田澤をどこに置くかという悩みもある。「芽吹はもう、アンカーを走ってもどこでも大丈夫だとも思いますので。作戦でいくしかないです」。十分に連覇を狙えるチームだという手応えは監督自身も感じている。
ここまで駒澤が強いと、「一強」のようにも思えるが、監督はそうではないと感じているようだ。「順天堂もチーム力が上がってきているし、早稲田もメンバーが揃っている。それから青学も。全体的にはメンバーがいるのかなと思います。どこが勝てるかもちょっとわからない。今もまだ戦国時代なのでは、という感じがしますね」
そう話してくれた大八木監督。だが着実に、去年よりもさらにチーム力が充実していると感じさせる結果も出ている。秋の駅伝シーズン、「王者」としての戦いに注目していきたい。そして全日本大学駅伝のときのような会心の笑顔をまた見られるだろうか。