陸上・駅伝

駒澤大・大八木弘明監督 攻めるチームをつくり、学生駅伝三冠を「獲りにいく」

箱根駅伝優勝会見後、ガッツポーズで記念撮影に応える大八木監督(代表撮影)

駒澤大学は昨年度開催された2つの大学駅伝で二冠を達成し、「強い駒澤」の復活を印象づけた。大八木弘明監督からたびたび聞かれたのは、「若いチーム」という言葉だ。昨年度の戦いをどのように捉え、今後のチーム作りを行っていくのか、話を伺った。

「出雲、全日本は勝てるチーム」と選手に意識づけ

昨年4月にチームが始動した際に、大八木監督が選手たちに言ったのは「出雲、全日本は勝てるかもしれないけど、箱根は若いチームなので厳しいかもしれないね」ということだ。「出雲、全日本はしっかりと勝ちにいこう、勝てるようなチームだよ。箱根は3番以内にしっかり入っていこう。夏に走り込んで、スタミナをつけてなんとか乗り切っていこう」と繰り返し、選手たちに意識づけていった。

当時は緊急事態宣言の真っ只中。学校のグランドが使えない時期もあったが各自で練習を積み、夏合宿も各方面の協力がありなんとか実現。チーム状況はいい方向に向いてきている、という手応えがあった。それだけに10月の出雲駅伝中止は残念だった、と振り返る。「だから全日本は絶対に勝ちに行こうと。アンカーにエースの田澤(廉、3年、青森山田)を置いて、そこまでどううまくつなげるか……と考えていたんですが、そのとおりのレース展開になって勝てました」

箱根駅伝は「不思議の勝ち」

箱根駅伝の目標は繰り返し「3番以内」と言っていた通り、「次の年に勝つつもりでチームを作り上げてきた」と大八木監督。「それがまさかの、という。勝たせてもらったなという感じでした。自分たちの力で勝ったというよりは、なんとか棚ぼたの優勝という感じでした」

「不思議の勝ち」だったと振り返る箱根駅伝の優勝(撮影・藤井みさ)

9区から10区に襷(たすき)がわたった時点で前を行く創価大学との差は3分19秒。「やられたな、と正直思いました。『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』の言葉通り、不思議な勝ち方でした。本当に勝たせてもらった。若いチームでこれからまた頑張っていこう、一生懸命やっていこう、というのを見てくれていて、天から力を与えてくれたような感じだなとも思えましたね」

「攻めるチーム」を念頭に田澤に主将を任せる

新チームが始動したが、「守るチームじゃなく、攻めていくようなチームじゃないと勝てない」と大八木監督は考えている。下級生がどんどん上級生を脅かしていくような、そういう勢いも持ってほしいと考えている。「田澤や芽吹(鈴木、2年、佐久長聖)なんかは去年も3、4年生をすごく刺激していたと思います。『自分がレギュラーとして出るんだ』という気持ちをすごく感じましたね。特に芽吹たちの学年は、去年駅伝を走れていない唐澤(拓海、花咲徳栄)、青柿(響、聖望学園)、赤津(勇進、日立工)などから『今度は俺たちが出るんだ』という意気込みも感じますね」

昨年11月の全日本大学駅伝、優勝し笑顔を見せる大八木監督(撮影・朝日新聞社)

田澤を3年生主将とするのは、大八木監督の心のなかでは12月ぐらいに決まっていたという。ただ走る、選手としての成長だけではなく、リーダーシップもとっていけるような人物になってほしいという期待をこめてのことだ。「大変だと思いますが、一番この時に人間としても、選手としても成長していってほしいと思って任命しました。ここをどう乗り切れるのかを見たい、というのもありますね。そして4年生になった時に、彼がどう考えるかも見ていきたいと思います」

副将には山野力(3年、宇部鴻城)が就任。大八木監督は山野を「優しい人間」と評価する。「意見も言えるし、賢いと思います。色々と考えて田澤にもアドバイスしながら進めてもらえたらと」という。田澤も「自分はどちらかというと態度で見せるタイプで、山野はしっかり言葉で言ってくれるタイプ」と言っていた。いい組み合わせとなっているようだ。

田澤、鈴木、そして唐澤にも期待

5月3日の日本選手権10000mには、田澤と鈴木が出場予定だ。田澤は箱根駅伝のあとけがをし、2カ月ほど休んで3月に走りはじめ、ポイント練習に復帰できたのは4月から。「不安はあると思いますよ。まあまあでは走ると思うけど、急ピッチで仕上げたので入賞あたりに入れれば、というところはありますね。あのとき(昨年12月の日本選手権)の感じにおさめられるかどうか、他の選手にどこまでついていけるかだとは思います」

4月10日にあった日本学連10000m記録会で28分00秒67で走った鈴木に関しては「学生ハーフと記録会の疲労はあるけど、今度こそ27分台で走ってほしい」と期待する。「芽吹は安定感がある選手だと思います。確実に安定したレースをするので、力をつけて実業団選手と渡り合えるようになってくれればなと思います」

鈴木芽吹は2年生ながら田澤に次ぐ主力。この学年の躍進は目覚ましい(撮影・藤井みさ)

田澤、鈴木以外に伸びている選手は誰になりますか? とたずねると、間髪をいれずに唐澤の名前が返ってきた。唐澤は3月27日の世田谷記録会で5000m13分40秒90、4月24日の日体大記録会で28分02秒52とそれぞれ自己ベストを大きく更新。躍進の要因を「スタミナがついてきたこと」だと大八木監督は分析する。「今までは5000mなら3000m過ぎ、10000mなら7000m過ぎたら落ちたりしてたんですが、今は反対に上がっていく感じですからね」と成長を評価する。

三冠は「やらなくちゃいけない、獲りに行くんだ」

駒澤大の箱根駅伝エントリー時の上位10名の平均タイムは28分26秒81だった。そこからさらに各選手がベストを更新し、ますます高速化が進んでいる。なにか特別なことをしているかというと「ちょっとスピード練習の質を上げたりはしているけど、そこまで変えていない」と大八木監督。「靴も進化して、いい選手が入ってきて、練習と合致しているというのはあるかもしれません。この練習をやったらここまでできる、というのをみんながわかってきた。本気になってレベルアップしていこう、という選手たちの気持ちも感じられます」

チーム目標である「学生駅伝三冠」。手ごたえはありますか? と聞いてみると「手ごたえというよりも、やらなくちゃいけないだろう、やろう!(頂点を)獲りに行くんだ! という気持ちですね」と気合いの入った言葉を返してくれた大八木監督。チームの歯車がうまく巡り、好循環に入っているように感じられた。さらにパワーアップすること間違いなしの駒澤大から、今年も目が離せない。

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