陸上・駅伝

特集:第52回全日本大学駅伝

全日本大学駅伝6年ぶり優勝の駒澤大学 大八木監督「どうしても勝ちたかった」

優勝を決め、笑顔で歓声にこたえる大八木監督(撮影・朝日新聞社)

第52回全日本大学駅伝

11月1日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
優勝 駒澤大 5時間11分08秒(大会新記録)

全日本大学駅伝最多12回の優勝を誇る駒澤大学は、2014年を最後に優勝から遠ざかっていた。8区までもつれた好勝負をアンカーの田澤廉(2年、青森山田)が制し、6年ぶりに待望の頂点をつかんだ。

崩れることなく堅実に襷をつないだ選手たち

今シーズン、駒澤大学は東海大学、青山学院大学と並び「3強」と称される位置にいた。ルーキーイヤーから活躍した田澤が「エース」として自覚を持って成長し、1年生にも鈴木芽吹(佐久長聖)や花尾恭輔(鎮西学院)ら力のある選手が入学。加えて4年生にも練習を継続できる選手が多く、コロナ禍の中でも力を蓄えてきた。

気温11度の中でスタートしたレース。1区は集団のまま進んだが、7.6km付近で京都産業大学の北澤涼雅(3年、久御山)がスパートしたのを機に集団が縦長に。駒澤大の1区を担当する加藤淳(4年、西脇工)もつき、スパートをしながら先頭争い。ラスト300mでスパートした順天堂大の三浦龍司(洛南)に置いていかれたが、トップと6秒差の3位、区間新記録で襷(たすき)リレー。加藤は「三浦くんを意識しすぎて、前に出たり無駄な動きをしてしまいました。最後まで余裕を持って冷静にレースを進められれば違ったのかなとちょっと悔いが残ります」と話したが、自身が走った大学駅伝では最もいい区間順位で「最低限」と話した。

スタート前、緊張した表情を見せる加藤(撮影・藤井みさ)

2区はルーキーの花尾だったが、少し動きが固く区間11位、9位で同じくルーキーの鈴木につなぐ。鈴木は5位グループでペースを保って走り続け区間5位の走り、8位で4年生の伊東颯汰(4年、大分東明)へ。伊東は東洋大、國學院大などと終始競りながら7位で襷リレー。5区の酒井亮太(西脇工)は2年生で学生駅伝デビュー。東洋大の大澤駿(4年、山形中央)、東海大の本間敬太(3年、佐久長聖)とともに前を追う。リズムに乗った走りで区間2位、区間新記録の快走。3位で同じく2年の山野力(宇部鴻城)に襷リレー。山野は明治大の大保海士(4年、東海大福岡)に抜かれたものの、4位で7区の小林歩(4年、関大北陽)までつないだ。

小林は粘りの走りで区間4位、トップを走る青山学院大とは41秒差、2位の東海大とはわずか2秒差で襷はアンカーの田澤へ。小林は「田澤は30秒ぐらいなら逆転してくれると思ってたので、トータル17kmで考えて最後まで離れないような走りを意識して走りました」と振り返った。

優勝のゴールテープを切れてうれしい

田澤は東海大のアンカー・名取燎太(4年、佐久長聖)にぴったりとつき、2人旅。「(前との差が)何秒でも追い越してやろう、自分が優勝のゴールテープを切るんだ」という気持ちで走り出した。9kmで青山学院大の吉田圭太(4年、世羅)に追いつくと3人で並走。11km付近で吉田が離れると、田澤と名取の一騎打ちとなった。残り1.2kmで初めて田澤が前に出ると、一気にスパートし名取を引き離した。そのまま猛烈なスピードで駆け抜け、「よっしゃー!」と喜びを爆発させながらゴールテープを切った。

田澤はレース後、駒澤大の今シーズンの目標が「3大駅伝どこか勝つ」だということに触れ、「今年の全日本は勝てると監督も言ってたので、流れも良くて自分のところでブレーキするわけにはいかないと思ってずっと走ってました。最終的に1番でゴールテープを切れてうれしかったです」と喜びをにじませた。

名取と18kmあまり並走した田澤だったが、残り1.2kmで仕掛け猛烈にスパート(撮影・朝日新聞社)

昨年のルーキーイヤーにも3大駅伝フル出場、全日本では7区区間賞と活躍したが、今年に入って変わったことは「エースの自覚を持つようになったこと」。自分の走りがチームの成績に直結するという気持ちで取り組んできた。今回走り出したときも、本当であればすぐ吉田の後ろについて、56分台を出すつもりでガンガン攻めていきたいという気持ちもあったという。「でも優勝を必ずしたい、という思いがあったので(名取との)並走を選びました。結果的にタイムはまだ(57分34秒)だけど、優勝しきれたのはいいところです」

区間のほとんどを名取と並走したが、大八木監督からは名取の胸を借りて走り、自分のタイミングで仕掛けろと指示をもらっていた。特に計画していたわけではなく、「ここで仕掛ければいけるのでは」という気持ちもあり残り1.2kmで仕掛けた。「ラスト1kmで仕掛けると(名取が)ついてくるだろうと思って、ふいに仕掛けることで『えっ』ていうような感じの思いをさせたかったです。それがうまくいって優勝できたのでよかったです」と独特の表現で勝負勘について明かした。

この活躍で箱根駅伝での走りにも期待が高まるが、「どの区間を任されても区間賞、区間新記録を狙ってるので、目標達成できるように頑張っていきたい」と力強く答えた。

「この大会は狙っていこう」チーム一丸となって

大八木監督は「このコロナ禍で試合を開催してもらえたことは本当にありがたく思っている」とまず試合があることへの感謝を口にしたのち、「全日本で優勝を狙えるようなチーム作りができたので、『ぜひこの大会は狙っていこう』とミーティングでも話していたし、それが現実にできたことがうれしく思っています」と笑顔を見せた。夏過ぎから1、2年生が順調に育ち、練習のレベルも上がってきて「これだったら青学、東海にも勝てるのでは」という思いに徐々になってきていたと振り返る。

大八木監督はレースを決めた選手に酒井の名前をあげた(撮影・朝日新聞社)

今回は8区間のうち、2区花尾、3区鈴木、5区酒井、6区山野が大学駅伝初出場だった。その中でも酒井がいい流れを作ってくれたと快走をたたえ、「このあとも期待したい」という。一方で花尾、鈴木の1年生2人がちょっと緊張気味なところがあったといい「もう1度練習をきちんとやって、自信をつけさせることが大事かなと思います」と箱根駅伝に向けて選手への意識付けをしていくつもりだ。

どうしても勝ちたい、本気になって取り組んだ

「平成の常勝軍団」と呼ばれた駒澤大だが、出雲駅伝は2013年、全日本大学駅伝は2014年、そして箱根駅伝は2008年以来優勝から遠ざかっていた。勝てなかった期間、スピード練習を質の高いものに変え、距離走とスピード練習のバランスをアレンジするなど、工夫を凝らしてきた。今の1、2年生の選手獲得がうまくいったという手応えがあり、この2学年を強化しながらしっかり育成していけば優勝は狙える、という思いがあったと大八木監督。

「今年は私自身も本気になって取り組んでたところもあります。朝練習から選手と一緒に自転車でついて、『俺も一生懸命やってるんだぞ!』というところは見せて指導してました。今いる選手たちは優勝の経験がないから、どうしても勝つレースをしたかったですね」

ゴール後、田澤の走りをねぎらう青山主務(撮影・朝日新聞社)

その思いは選手たちに伝わり、チーム内でも自然と優勝を意識して行動するようになっていった。その筆頭がキャプテンをつとめる神戸駿介(かんべ、4年、都松が谷)だ。誰よりも練習し、チームを態度、練習の面から引っ張ってきた。しかし今回故障でエントリーメンバーからは外れた。同学年の加藤は「練習も一番やってたので、彼の思いを受け継いで、走れない選手のぶんも一緒に走りたかった」といい、小林は「神戸を優勝したときのキャプテンとして名前を残してあげようよ、とみんなで話し合ってたので、それができてよかった」と仲間への思いを口にした。下級生に勢いのあるチームだが、4年生のこうした思いもチームに好循環をもたらしていることは間違いない。

改めて箱根駅伝での目標を問われた大八木監督は「今年は8番だったので、3番以上には行きたいなと思ってる」。箱根はすべての区間が20km超えのタフなレース。スタミナを強化しないと、箱根は難しい、と言いながらも「しっかりこのあと準備して優勝を目指して頑張っていきたい」とも口にした。この勢いをエンジンにして、「令和の常勝軍団」となっていけるだろうか。

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