駒澤大・大八木監督 充実を見せるチーム力、全日本大学駅伝では「頂点を」
全日本大学駅伝で歴代最多、12回の優勝を誇る駒澤大学。「3大駅伝のうち、1つはとろう」という目標を掲げて始動した新シーズンだったが、新型コロナウイルスの影響で通常と異なるシーズンを余儀なくされた。ここまでの取り組み、チームの現状を大八木弘明監督にうかがった。
励まし合いながら乗り切った自粛期間
寮とグラウンドの距離も近く、競技に集中できる環境にある駒澤大。しかし4月7日に緊急事態宣言が発令されてから、大学にも入れず、グラウンドも使えなくなった。部員全員が寮にとどまり、河川敷などを使いながら練習。都内という場所柄もあり、周囲の目も多く、選手たちはマスクをつけて練習することを余儀なくされた。「チームとしてはある程度動いてはいましたが、集団での練習をできなかったのがきつかったですね。質の高い練習はあまりできませんでした」と大八木監督は振り返る。
いつもと違う状況、マスクをつけての練習に、選手たちが精神的に参っていて、少なからずモチベーションが落ちているのも感じた。「『こういう時だからこそ自分自身が参ったらだめになってしまうから、頑張れよ』と励ますしかなかったですね」。気づいたら選手に話しかけるなど、励まし合いながら自粛期間を乗り切った。大八木監督の奥様の京子さんが寮母をつとめるということもあり、大八木監督は部全体を「家族のような感じ」と表現する。「自分のことだけじゃなくてチームのことも考えながらやっていこうよ、といつも言っていますね」
夏を経て躍動した選手たち
6月からグラウンドを使っての練習を再開。グラウンドが使えるようになり、選手たちの気持ちが入っていったのを感じたという。1カ月の中でもうまく調整できたと監督が振り返る通り、7月のホクレンディスタンスチャレンジに出た選手たちは好結果を残した。特に2年生にしてエースの田澤廉(青森山田)は深川大会5000mで13分37秒28の自己ベスト。ルーキーの鈴木芽吹(佐久長聖)も13分43秒38でベストを13秒あまり更新する結果だった。他にも花尾恭輔(1年、鎮西学院)、キャプテンの神戸駿介(4年、都松が谷)、赤津勇進(1年、日立工)、酒井亮太(2年、西脇工)も13分台と、チーム全体の好調ぶりを見せつけた。
8月は強化練習という形で高地の練習にも取り組んだ。前半はしっかりと走り込み、その後全日本インカレに出る田澤、加藤、鈴木はスピードのトレーニング。「最後の調整がうまくいった」ことで、田澤は10000m4位(日本人1位)の28分22秒48。5000mでは鈴木が13分43秒07で3位、加藤淳(4年、西脇工)が13分43秒61で4位に入った。花尾に関しては夏にけがをしていたため、練習が足りなかったといい「そのあたりが残念だったな」という。
田澤はこのレースではじめから留学生にくらいつき、留学生に勝つためにレースをすすめた。しかしジェームズ・ブヌカ(駿河台大3年)、フィリップ・ムルワ(創価大2年)、レダマ・キサイサ(桜美林大4年)の3人からは離された。大八木監督は「もっと3人に食らいついていってほしかった。負けても最後の最後まで勝負してほしかった。それぐらいの力はついていると思う」と期待をこめる。鈴木に関しては「緊張気味だったけど、田澤と一緒に練習をしていることもあって自己ベストに近いところでは走れると思っていた」と評する。
今年はルーキーたちの勢いを例年にも増して感じますが、とたずねると「長い距離もこなせるところがあるし、意識も高いですね」と教えてくれた。しっかりトレーニングを積めれば、もっと走れるようになるという。「1、2年生が底上げになってくれてるし、去年以上の結果は出したいなと思いますね」
駅伝に欠かせない「4年生力」
いっぽうで、つねづね大八木監督は「4年生の力が大事」とも口にしている。今年の4年生で伸びてきている選手を聞くと、まず加藤の名前が上がった。4年生になり、練習を「やらされている」のではなく、自分で体調に合わせてやりたいことを言ってくれるようになったという。「自分で考えるようになったと思います。トラックシーズンに関してはうまくいってますね」。続いて名前が上がったのは小林歩(4年、関大北陽)だ。「試合ではいい味を出してくれる選手」と評価。その小林は9月22日の日体大記録会5000mでは13分43秒77で走るなど、調子の良さがうかがえる。
キャプテンをつとめる神戸については「この状況なので精神的にきつい部分もあると思う」と彼の立場を思いやる言葉がまず聞かれた。「責任感を持ってる子なので、体調を崩さないようにとは思いますね。練習はパーフェクトにできてて、引っ張ってくれてます。チームのことも考えて厳しいことも言わなきゃいけなかったり、負担が大きいのがかわいそうかな」とこの特殊な状況での立場を気遣う。
全日本大学駅伝では「頂点を」
3大駅伝のうち、出雲駅伝が中止になったことについてはやはり「残念」という。昨年は3区でトップに立ったが、最終6区で國學院大學に逆転され8秒差の2位に終わった。「悔しい思いをしてたので、巻き返したいと思ってたんですけどね」。選手たちも残念には思っていたと言うが、「状況はわかってたような感じなので、全日本に向けて気持ちを切り替えてやろう、と動き出せましたね」
11月1日の全日本大学駅伝は、駒澤大が最多12回の優勝を誇り「相性がいい」駅伝でもある。ズバリ、頂点を狙いますか? と聞くと大八木監督は「優勝は狙いたい」とはっきり明言してくれた。「長い区間も試せるような選手が何人かは出てきてくれた」といい、ここからまた駅伝に向けて、チーム一丸となって動いていく。
前回の優勝は2014年の第46回大会。優勝を知らない選手たちは、今年こそ勝利の美酒を味わえるか。