大学陸上・駅伝

特集:第51回全日本大学駅伝

駒澤大のスーパールーキー田澤廉、圧巻の全日本デビューで箱根への視界良好

7区を力走する田澤。2分49秒あった先頭との差を1分31秒まで縮めた(撮影・柴田悠貴)

第51回全日本大学駅伝

11月3日@愛知・熱田神宮西門前~三重・伊勢神宮内宮宇治橋前の8区間106.8km
3位 駒澤大 5時間15分4秒
7区 田澤廉(1年、青森山田)52分9秒(区間賞)

インパクト抜群の17.6kmだった。伝統ある藤色の襷(たすき)をかけたルーキーが、全日本大学駅伝であらためて限りない可能性を示した。8区に次いで距離の長い重要区間の7区に抜てきされた駒澤大の田澤廉(1年、青森山田)は、大八木弘明監督の期待に応える快走。レースの流れを一変させ、大会最多12度の優勝を誇る名門の窮地を救った。「これぞ駒澤のエース」と呼ぶにふさわしい走りだった。6区の加藤淳(3年、西脇工)から8位で襷を受けると、各大学の主力クラスを次々ととらえる圧巻の4人抜き。気持ちよさそうに、あっさりと抜いていった。

堂々の区間賞でも満足せず

「抜く瞬間だけグンとスピードを上げて、後ろにつかせないようにしました」

52分9秒。堂々の区間賞である。ただ、初の伊勢路で快挙を成し遂げた本人は、内容にもタイムにも満足していなかった。「正直、入りでビビってしまって……。監督から(最初の5000mを)14分30秒でいけと言われてたのに、39秒で通過してしまいました。それで少し遅いなと思って、少しずつ上げていったんです。うまく入れれば、もっとうまくいけたと思います。設定タイムは51分35秒でしたから」

特別な思いを胸に秘めて走っていた。寮で同部屋の神戸(かんべ)駿介(3年、松が谷)が8人に抜かれたことを待機所で聞かされ、すぐに気合を入れ直した。「絶対に僕が神戸さんの分を取り返してやるぞ、って。ずっとそう思って準備してました」
神戸はスポーツ推薦ではなく、自分から駒大陸上部の門をたたいた男。初の三大駅伝出場の緊張もあり、区間16位と沈んだ。レース後、肩を震わせて嗚咽を漏らした神戸は、自らの遅れを挽回(ばんかい)してくれた田澤の走りに驚がくしていた。「見習わないといけないところはたくさんあります。規格外だと思いました。本当に申し訳なかったです」

苦しい走りとなった神戸。田澤は同部屋の先輩のためにも走った(撮影・藤井みさ)

アンカー山下も称賛「さすがゴールデンルーキー」

驚いたのは、神戸だけではない。最終8区で田澤から襷を渡された山下一貴(4年、瓊浦)は1人かわして3位でフィニッシュすると、後輩の好走をたたえた。「想像を超えたというか、これ以上ないくらい頑張ってくれました。後ろが追えないくらいの差をつけてくれたので、僕は前だけを見て走れました。3位(7区終了時点)の東洋は絶対に抜くつもりでした」。後輩を信じていないわけではなかったが、詳細を知らされると、目を丸くした。「田澤は区間賞? え、え、青学の吉田(圭太)よりも速かったということですか?」

区間2位の吉田に15秒差をつけたことを知ると、あ然として22歳の素の言葉が口をついて出た。「うわ、ヤバっ。それはすごい。田澤はいったい何秒だったんですか? (52分)9秒、9秒なんですか。エースというか、もう大エースです。さすがゴールデンルーキー」

山下(中央)は自身の走りよりも後輩をたたえた(撮影・安本夏望)

伊勢路で3年連続アンカーを務めた4年生は、ただただ感嘆の声を上げていた。その表情から、嫉妬や嫌味などは感じ取れなかった。当日のエントリー変更で田澤が7区に決まったときも、異議を唱える上級生は誰もいなかったという。田澤は練習を多くこなすタイプではないが、要所の(強度の高い)ポイント練習では、その強さが際立っていた。山下は言う。「長い距離の練習でも"余裕度"が違いましたから。1年生ですけど、みんな心配してなかったです。田澤なら7区でもやれるだろうって。今回は相当、やってくれましたけど(笑)」

大八木監督「箱根駅伝の軸になる」

出雲駅伝の3区では東洋大の相澤晃(4年、学法石川)、國學院大の浦野雄平(4年、富山商)、青山学院大の吉田圭太(3年、世羅)らに競り勝ち、1位で襷を届けたのは記憶に新しい。衝撃の大学駅伝デビューから3週間。再び周囲の度肝を抜き、評価を高めた。大八木監督も手放しで褒める。
「田澤はさすが。これで20kmを超える箱根駅伝の区間も走れるのがわかった。(チームの)軸となるでしょうね」

潜在能力は計り知れない。10000m以上のレースに出場したのは、全日本の7区が初めてだった。マラソン男子の五輪代表選考レースMGCで優勝した中村匠吾(現・富士通)をはじめ、多くの名ランナーを育ててきた監督の期待は高まるばかりだ。「まだまだ走れる。いまは試行錯誤しているところ。相澤君みたいに自信をつけられれば、もっといける。もっと突っ込める。次は10000mをやらせてみようかなと思う。計画的に育ててます。育てがいがあって、面白いですよ」

駒澤大記録をすべて破らせる。大八木監督の期待は大きい(撮影・藤井みさ)

箱根駅伝の前に、10000mで27分台を狙わせることを示唆した。今後のターゲットは村山謙太(現・旭化成)が持つ5000m(13分34秒58)、10000m(27分49秒94)、ハーフマラソン(1時間0分50秒)の駒大記録になる。「全部、破らせるつもりです。スピードの強化ができれば、超えるんじゃないかな」

箱根駅伝でも主要区間を走る可能性は高い。田澤本人は配置へのこだわりを口にしないが、これだけはきっぱり宣言していた。

「どの区間でも、区間賞は取ります」

勢いまかせの発言でもなければ、大言壮語でもない。いまや、誰もが認めるランナーになりつつある。ハキハキとした口ぶりには、自信がみなぎっていた。

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