陸上・駅伝

駒大陸上部駅伝主将・中村大聖 本気で上を目指す覚悟を決めたエース

3月の学生ハーフマラソン、2位でゴールしガッツポーズする中村。後ろは東京国際大学の伊藤達彦(すべて撮影・藤井みさ)

駅伝シーズンを前に、各校は夏合宿に取り組んでいます。駒澤大学は8月16日から22日まで、野尻湖で全体の1次合宿を実施しました。4years.編集部は野尻湖合宿を取材し、監督や選手に話を聞きました。今回は駅伝主将として、エースとして走りでチームを引っ張る4年生の中村大聖(埼玉栄)です。

駒大陸上部・原嶋渓 走りで引っ張れなくても、心で引っ張る主将

金しか狙っていなかったユニバ、銀でも一定の収穫

中村は3月の学生ハーフマラソンで2位に入り、ユニバーシアード代表の座をつかんだ。自身初の国際大会は、東洋大学の相澤晃(4年、学法石川)に次ぐ銀メダル。3位には東京国際大学の伊藤達彦(4年浜松商)が入り、団体での金メダルも合わせて獲得した。おめでとうございます、と切り出すと開口一番、「金メダルしか狙ってなかったので、正直悔しいです」と言った。

イタリア・ナポリの強い日差しが照りつける中でのレース。日本チームの監督からは「15kmまでは出るな、ラスト3kmか5kmでいけ」と指示されていた。スローペースで我慢の展開が続いたが、給水ポイントで中国の選手が仕掛けた。しかし実は、中国の選手は規定のポイント以外で給水を受けていて、ゴール後に失格となった。「よくわかんない場所で給水を受けてるのがレース中にもわかって、何してんだろう? って思ってました。それで(指定の)給水のところで仕掛けはじめて、思わず笑っちゃったんです(笑)」とレースを振り返る。走りながら、中国の選手は失格になるだろうな、と思っていたという。

自身初の国際大会となったユニバーシアード。様々なことがいい経験となった

結果的に学生ハーフと同じ順位でゴールした日本の3人。相澤選手は強かったですか? と聞くと「相澤に勝つのはもちろんだけど、伊藤にももう1回ちゃんと勝とうと思ってました。相澤とはラスト勝負になったときに分が悪いと思ってたんで、何回か仕掛けたけど離しきれなくて……結局引かされましたね。向こうは『ラスト勝負どんとこい』みたいな感じだったんで(笑)。そこで結果的に負けちゃいました」。

初の海外レースは、想定外の苦労も多かった。「現地についてからレースまでだいぶ時間があって、調整練習をしたんですが、練習場所まで行くバスが2~3時間こなくてずっと立ちっぱなしだったりとか。暑いのに午後しか練習できなかったりとか、1日通して休めた日があんまりありませんでした。食事も普段だったらレース前は炭水化物というか、米をしっかりとるんですけど、パスタとかピザしかなくて……。でも、そういう環境の中でしっかりまとめられたのは大きかったです」

イタリアから帰国して1週間もたたないうちに、中村の姿はホクレン網走大会にあった。このときは10000mに出場し、先輩の片西景(JR東日本)や後輩の伊東颯汰(3年、大分東明)と同じ組で走って29分27秒72の10位。「1回もホクレンを走ったことがなかったので、監督が経験として出してくれました。練習の一環だと思って出たんですけど、風も強くて直前まで時差ボケだったのもあってとにかく体もきつくて……。でもそんな状態で最低限まとめられたから、成長できてるのかなとは思います」

青学・森田の走りに衝撃「もっと上を目指さなきゃ」

駅伝主将の中村だが、昨年まではずば抜けた成績を残しているわけではなかった。転機は今年の箱根駅伝、3区を走ったときに青山学院大学のキャプテンだった森田歩希(現・GMOアスリーツ)に抜かれたことだという。「森田さんの走りを見て、衝撃を受けました。自分も今年よくて、中谷さん(圭佑、現・コモディイイダ)と同じタイムで走れたんですけど、ラストの伸びが全然違いました。来年は自分がああいう走りをしないと、もっと上を目指さなきゃいけない、と思いました」。その後のアメリカ合宿で本気でユニバーシアードを狙うという自覚が芽生え、学生ハーフでの快走につながった。

ホクレン網走大会での中村。直前まで時差ボケで頭痛などもあったという

チームを引っ張る上で心がけていることを聞いてみた。「練習で引っ張るのはもちろんですけど、練習前、後の行動で示すようにしてます。駒澤の練習環境って、ただ体操して走る、という感じでかなり自由度が高いと思うんです。その前にしっかり動きづくりやストレッチをできてる選手が伸びると思うので、自分がしっかりそれを示してあげるようにしてます。いまAチームでやってる後輩とは、一緒にとなりでやったりして。見て感じてくれてる人が今後伸びてくると思います」。自主的にやる、感じる。大八木監督の教えが中村にもしっかり伝わっている。「大八木監督は常にやる気を与えてくれる方です。目標が低すぎたりするときに活を入れてくれて、自分が上を目指さなきゃいけないと自覚させてくれます」

同級生のキャプテン、負けたくない

中村は埼玉栄高校の出身。くしくも埼玉栄の同級生には、東海大学の館澤亨次、國學院大學の土方英和とライバル校のキャプテンを務めている2人がいる。「やっぱりそこは意識します。土方とは実力が拮抗してると思うので、負けたくない。館澤は1500mを走ってるのに最終的に駅伝に合わせてくるから、強いなと思いますけど、やっぱり負けたくないです」。ライバルへの強い気持ちをのぞかせた。

4年間で最も充実したシーズンを過ごせている今年。さらなる飛躍が楽しみだ

駅伝主将として期待している選手を聞いてみると、1年の田澤の名前を挙げた。「あれは相当強いです。トラックだけかと思ったら距離走もAチームで余裕そうに走るので。普通は離れるのに……。でもやりすぎると今後のシーズンに支障が出てきちゃうんで、先輩としてうまくコントロールしてあげたいなと思ってます。箱根とかハーフも普通に走ってくると思うんで、期待してます」。

中村は、3年まで毎年夏合宿前にけがして、夏合宿で復帰するということを繰り返してきた。しかし今年はけがなく、合宿の初日からAチームで質の高い練習に取り組めている。「いままでとは全く違う夏合宿を過ごせてるので、秋冬シーズンにまた違った成長ができるのかなと思います」。中村大聖は名実ともに駒澤のエースとして、ラストイヤーを駆け抜ける。

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