駒大の新駅伝主将・中村大聖、相澤へのリベンジ誓う
ゴールまで残り400m。17km地点から小走りで駆けつけた駒澤大の大八木弘明監督が叫んだ。「ラストだぞ、ラスト!! いけ、いけ、いけ!!」。涼しい顔で走り続けていた中村大聖(駒大3年、埼玉栄)は歯を食いしばり、一気にスピードを上げる。懸命に腕を振り、先頭の相澤晃(東洋大3年、学法石川)を抜きにかかるが、逆に引き離された。6秒差の2位でフィニッシュすると、顔をしかめた。
「ラスト勝負で負けました。いけると思ったんですけどね」
ユニバーシアード金メダル男からの電話
3月10日の日本学生ハーフマラソン選手権でユニバーシアードのハーフ代表に内定しても、優勝を逃した悔しさがこみ上げた。スタート前の目標である3位以内は達成したが、ギリギリまで競り合ったからこそ、新たな感情がにじみ出た。
当初は「優勝を狙う」と言えるほどの自信もなかった。今年1月、初めて箱根駅伝を走り、3区で区間5位と好走したが、学生トップランナーたちとの差は感じていたのだろう。この日のレース前日、2年前の学生ハーフで3位に入り、ユニバーシアードで金メダルを獲得した駒大の1学年先輩である片西景から電話をもらった。そのときも「片西さんのタイム(1時間2分34秒)を超えるようにしたいです」と言うのが精いっぱい。大八木監督から「絶対にユニバーシアードの出場権を取れ」とハッパを掛けられても、ピンときていなかった。
「正直、取れるとは思ってなかったんです。僕自身が、いま一番驚いてますから」
自己ベストを1分近く縮めた1時間1分51秒の記録に、また目を丸くした。
「タイムもびっくりしました」
レースは辛抱強く粘る展開だった。想定以上に気温が高く、序盤から思った以上に汗が出た。5kmからしっかり給水を取ったのもそのためだ。途中から先頭集団のペースが上がっても、息を乱さずにタイムを刻む。
「3人に絞られるまでは、ついていくと決めてました」
スタミナには自信があった。冬場は「脚づくり」に励んだ。2月頭から約3週間、アメリカ・ニューメキシコ州のアルバカーキで高地合宿を行い、9月のMGC(マラソングランドチャンピオンシップシリーズ)の出場権を持つ駒大OBの中村匠吾(富士通)、同期の山下一貴(3年、瓊浦)らとレベルの高いトレーニングを積んできた。大八木監督が「合宿での大聖はパーフェクトだった」と手放しで褒めるほどの充実ぶりだった。
山下と競い合う「駒大エース」の座
新チームで駅伝主将に指名されてから、意識が変わった。大八木監督の「お前がしっかりしないとダメだ」という言葉を常に胸に留めている。練習から前で引っ張るようになり、着実に力をつけてきた。
2年生から2年連続で箱根の2区を走っている実力者の山下は、仲間の成長を素直に認めている。この日は中村に置いていかれ、45秒遅れの7位で終えた。
「周りの人たちは僕が駒大のエース候補と言いますけど、いまの大聖は僕よりも強い。レース中にペースが上がったとき、横を見たら、ぜんぜん平気そうな顔で走ってました。実際、練習からも強かったですけどね。この状況は悔しいです。このまま負けたくないので、これから見ててください」
中村大聖もライバル意識を隠そうとはしない。切磋琢磨するいい仲間と前置きした上で、あふれる思いを口にした。
「ずっと山下のほうが強いと思いながらも、負けたくない思いもありました。(山下がエースだという)周りの評価も知ってました。だから、今回は勝ててよかったです」
新エース候補に名乗りを上げた駅伝主将はレース後、大八木監督とがっちり握手をかわし、「よく辛抱して、よく走った」と、ねぎらいの言葉をもらった。
春の息吹が聞こえ、間もなくトラックシーズンが始まる。2位で満足しない男は、7月にイタリア・ナポリで開催されるユニバーシアードを見すえ、苦手なトラックでも力をつけることを誓う。
「(ナポリで)相澤にリベンジします。ラストのスピードの差でやられたので、そこを鍛えます。(金メダルの)片西さんに続けるようにしたいです」
力のこもった、頼もしい言葉だった。