陸上・駅伝

専修大・長谷川柊 チームを引っ張る穏やかエース、箱根そして世界へ

7月22日のホクレン網走大会で力走する長谷川(撮影・藤井みさ)

専修大4年の長谷川柊(しゅう、八海)が存在感を増してきた。6月23日の全日本大学駅伝関東地区選考会では、10000mを28分51秒09で走って日本勢トップ。7月17日のホクレンディスタンスチャレンジ北見大会の5000mでは、13分46秒76と自己ベストを10秒近くも更新。中4日で臨んだ22日の網走大会では13分47秒77と、出したばかりのベストに迫るタイムだった。ラストイヤーにグッと上向いてきた長谷川に迫った。

監督が現実的にしてくれた専修大との縁

新潟出身の長谷川が陸上を始めたのは中学1年生のとき。兄が陸上部に入っていたので、なんとなく自分も入ったのがきっかけだった。「足もそんなに速くなかったです」と長谷川。高3のときの5000mのベストは15分10秒台。専修大の陸上部に入るには15分を切っていることが条件で、前監督の伊藤国光氏から誘われ、選考基準を突破するために記録会に参加した。「そのときに、当時コーチを務めていた長谷川淳・現監督が、15分を切るために一緒に走ってくれて。14分41秒が出たんです。自己ベストを30秒も更新できました」。15分を切ったことで、専修大への入学が決まった。監督は人生を変えてくれた人ですね? と尋ねると「そうですね」と、はにかみながら答えた。

専修大に入ってから着々と記録を伸ばし、2年生だった2017年の箱根駅伝予選会では、全体の36位で走り、関東学生連合チームのメンバーとして2区を走った。翌年、2018年からは予選会がハーフマラソンの距離になり、長谷川はここでも1時間2分49秒と、個人では全体の14位という好成績を残した。そして今年、さらに記録を伸ばし、トップレベルの仲間入りをしようとしている。

悔しくて吹っ切れたから、落ち着いて走れた

昨年の冬にけがをして、今年3月終盤に再び走れるようになった。昨年の関東インカレ2部5000mでは5位に入っており、今年も入賞(8位以内)を視野に入れてトラック練習を積んだ。しかし思うように走れず10位にとどまった。そして迎えた全日本の関東選考会。「悔しかったし、関カレがだめだったから吹っ切れてて、いつもより落ち着いて入れました」と振り返る。「最後はスパートもできて、思ってる以上に走れました」と長谷川。「日本人1位という結果でしたけど『國學院の浦野選手とか、もっと強い選手がいたら負けてたかも』と考えると、結果には満足してません。もっと速い選手と走って勝ちたいです」。負けん気をのぞかせた。

長谷川は日本人1位となり、日本学生連合チームのメンバーに選ばれた(撮影・北川直樹)

全日本大学駅伝にはチームとしての出場はかなわず、選考会後は箱根駅伝予選会に向けてロードの練習に切り替えていたという。長谷川監督いわく「(ホクレンの)直前はまったくトラック練習なんてしてなかったんですよ。“刺激入れ”のつもりで出てみる? って言ったら、本人が出たいと言ったのでいいかなと」。長谷川も「秋に記録を狙おうと思ってて、ホクレンは14分フラットぐらいで走れたらなと思ってました」という。その結果、自己ベストを10秒近くも更新、次いでそれに近いタイムでもう1本走って周囲を驚かせた。ワンランクアップした感じを本人も持っているのだろうか。「自分的には変わった感じはないです」と話した。「いままでは順位を気にしてたんですけど、そういうのがなくて、いい意味で緊張感がなかったのがよかったと思います。風もそんなに気にならなくて、不利な環境の中でも走れたから、力がついてきたのかなと。2本まとめて走れたのは自分の中で大きかったです」

五輪のトラックで活躍してからマラソンへ

取材の日は、翌日から夏合宿が始まるという日。「まずはけがをせず、継続していくことが大事だと思います。練習の引っ張りは全部自分がやるぐらいの気持ちでやりたいです。それを見て、後輩がついてきてくれれば」。チームとしては、10月26日の箱根駅伝予選会で本戦出場を決めることを目標に練習を積む。個人としての目標を聞くと「まず予選会でしっかり走ることが第一で、その先は(11月開催の)八王子ロングディスタンスでタイムを出すことです」と教えてくれた。いまの10000mの自己ベストは28分32秒76。これを縮めて「来年の日本選手権の(参加)標準(記録、28分20秒00)を切りたい」という。

長谷川監督(左)は長谷川について「やるときはやる選手」と信頼を置いている

「やっぱり、日本選手権には出たいです。まずはトラックで結果を残さないとその先もないのかなと思ってて。(10000mで)27分台を出して、オリンピックで活躍してからマラソンにも挑戦したいなと思います」

あこがれの選手を尋ねると、前監督だった伊藤国光氏、設楽悠太が破るまで長らくマラソンの日本記録保持者だった高岡寿成氏の名前を挙げた。もちろんリアルタイムで二人の走りを見たことはないが「動画で見たり、ネットで記録を調べたりして、別格だなと思って。自分の中で大きな存在です」。ではこの選手に負けたくない、という選手は? 「やっぱり、國學院の浦野選手です。何度も一緒に走ってるけど、1回も勝ててなくて、強いなと思って。ライバルというより、勝てたらいいなという存在です」

ホクレン網走大会でも長谷川は浦野と最後まで競ったが、わずかに及ばなかった

最後に、エースとしての自覚について聞いてみた。「期待してもらってるし、自分が走らなきゃいけないのも分かってます。自分がしっかり走った分だけ、チームにいい影響を及ぼすので、まずはしっかり自分のことをやって、走りで見せていきたいです」

きっぱり強い言葉が返ってきた。穏やかな雰囲気を漂わせながら、時おり強い闘志が顔を出す。長谷川柊は、まだまだ強くなるに違いない。

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