東京国際大駅伝部エース・伊藤達彦、「継続は力なり」でつかんだ飛躍
東京国際大学が大学駅伝界で存在感を増してきた。6月の全日本大学駅伝関東地区選考会では早稲田、明治を抑えてトップ通過。エースの伊藤達彦(4年、浜松商)は3月の日本学生ハーフマラソン選手権で3位になり、7月のユニバーシアードに出場。創部以来初の国際大会出場者になった。躍進のカギはどこにあるのだろう。伊藤に話を聞いてみた。
チーム初の国際大会出場、ユニバで金と銅
取材日は夏合宿の前日。テスト期間だったが、伊藤は3年生の後期までに単位を取りきった。「いまは練習と、あとは教習所に通ったりしてます」と教えてくれた。
イタリア・ナポリで開かれたユニバーシアードのハーフマラソンでは、優勝した相澤晃(東洋大4年、学法石川)、2位の中村大聖(駒澤大4年、埼玉栄)に次ぐ3位に。3人の成績で争う団体戦では日本が優勝。伊藤は金メダルと銅メダルを持ち帰った。
「イタリアに行ってから試合まで10日ぐらいあったんですが、宿舎での食事はバイキングで、日本で食べているものと違ったりして、調整が難しかったです。相澤に『何食べてるの?』って聞いて、同じものを食べたりしてました(笑)。初めての国際大会ということで、レース前は緊張しました。暑かったので、始まってからは給水を積極的に取るようにして、学生ハーフと同じように『あまり前に出ないように』『引っ張らないように』と言われていたので、なるべく後ろの方で走りました。最後に出ていく予定だったんですけど、給水を取りにいってる間にペースアップされちゃって、うまくついていけませんでした。だから思い通りにいったとは言えないですね」
前述のように、伊藤は東京国際大駅伝部で初の国際大会出場者。「名誉ある一人目で走らせてもらったので、自信になりました」と語る。この経験を同期や後輩に伝えていきますか? 「う~ん、言葉とかはあまり……。練習で伝えていきたいです」と言って笑った。発言よりも背中で引っ張るタイプのようだ。
長い距離に対する苦手意識を払拭
東京国際大学駅伝部は2011年に創部。16年に箱根駅伝初出場を果たすと、2017年を挟んで18、19年と連続出場。伊藤はこの2年連続で2区を任された。区間15位と11位で、そこまで強いという印象はなかった。それが今年3月の学生ハーフで表彰台に乗り、一躍注目を浴びた。何かきっかけがあったのだろうか。「3年生の半ばぐらいまでは、長い距離に対する苦手意識がまだありました。今年2月の唐津10マイルで思ったよりうまく走れて(46分31秒で2位)、長い距離を走る感覚がつかめました。そのあと学生ハーフで3位になって、さらに自信がつきました」
その躍進の裏には秘密が? 練習を変えたりしたんですか? と聞くと「いや、とくには練習は変えてないんです。強いて言えば、けがせず継続できてるのが大きいです。大学1年生の夏に1カ月ぐらい走れなかったほかは、そんなにけがもなくて。継続は力なり、ですね」と言って笑った。
自分たちの代が一番強い
伊藤の走力アップと比例するかのように、東京国際大学のチーム力も年々上がってきている。創部9年目でついに、今年11月の全日本大学駅伝出場権をつかんだ。しかも関東の選考会をトップ通過。この事実は多くの陸上ファンを驚かせた。チームとして何か変わった、と思うことはあるのだろうか。「自分たちの代が一番強いと思ってて、僕たちが4年生になったので、東京国際大学としても最大のチャンス。そういう意識が僕たちの中にもあります。タイムも一番いいし、練習も一番やってると自信を持って言えます。後輩もみんな頑張っているので、チームが底上げされてきてるなと感じます。とくに今年の1年生は有望な選手が多いので、期待してます」。伊藤はチーム内の役職がついているわけではないが「練習は自分なりに引っ張っているつもり」だと強調する。最近ではAチームに入れ後輩も増えてきている。伊藤から声をかけ、上のチームに引っ張り上げることもあるそうだ。
6月の全日本の関東地区選考会では、1年生の丹所健(湘南工科大附)が2組で走り、組の6位に。10000mで30分7秒56と、自己ベストを47秒も更新した。さらに、7月13日のホクレン・ディスタンスチャレンジ士別大会では、5000mを14分6秒15と、こちらも自己ベストを更新。伊藤は「1年生のこの時期に14分ひとけたはすごい。これから距離を踏んで長い距離に慣れてくれば、予選会もいい順位でくると思います」と、期待を寄せる。
箱根の予選会は日本人1位、箱根で6位以内
チームとしてのいまの目標は、全日本大学駅伝で上位に入ること、そして箱根駅伝でシード権を取ること。順位は6位以内だという。なぜ6位以内かと聞くと「シード権が目標なんですけど、10位と言ってしまうと11位になってしまうので」と返した。箱根駅伝でシード権を取れば、出雲駅伝の出場権も得られる。「本当は自分たちも出雲を走りたかったですけど、シード権を取って、後輩たちに出雲を走ってもらえればと思います」
伊藤個人の目標を聞くと「タイムとしては10000m27分台。箱根駅伝予選会で日本人トップを取ることと、箱根駅伝2区で日本人トップを取ることです」と、はっきりとした答えが返ってきた。今年も各校のエースが2区に集まれば、かなりの激戦が予想される。過去2度続けて2区を走ってみて、伊藤はどう感じたのだろうか。「今年はまだいけたかなという感じがしました。最後に足がつりそうになって、失速してしまって。力不足だなと。そこをもう少し考えて、余裕が持てる走りをしたいです」
走るのは2区以外は考えられない? 「そうですね、いまのところは2区を走ってきてるから、リベンジしたいです」。いままでレースの距離として走ったのは、箱根2区の23.1キロが最長だ。ハーフマラソンで自信がついてきたいまこそ、もう1度2区にチャレンジしたいという。
自分がもっと伸びるイメージがある
ユニバーシアード代表選手の意気込みを聞くアンケートで、伊藤は将来の夢を「ニューイヤー駅伝優勝」と答えていた。「本当は箱根駅伝で優勝したいですけど、それはさすがに厳しいというのはわかってるんで。『優勝』というものをまだ経験してないので、してみたいんです」。卒業後はホンダへの就職を希望している伊藤。マラソンの前日本記録保持者で、MGCファイナリストの設楽悠太など、日本トップレベルの選手らとチームメイトになるつもりだ。「去年、設楽選手と夏合宿を一緒にさせてもらって、設定タイムが速くてスピード感があるなと思ったんですけど、ホンダの練習が自分に合ってるなと感じました。また一緒にできるのが楽しみです」。ズバリ、自分がもっともっと伸びるイメージがあるかと尋ねた。伊藤は「あります」と、これまたズバリ答えてくれた。
来年は東京オリンピックイヤー、オリンピック出場は考えないのか。「いままでは考えたこともなかったんですけど、今回ユニバに出て、オリンピックも目指してみたいなと、ちょっと思いました。ちょっとだけです。東京オリンピックはさすがに無理なので、その次とか……。実業団に入ってからどうなるかわからないですが、目指せるのであれば目指したいです」
東京国際大学というチームも、伊藤個人も、これから伸びていく要素しかない。
秋からの駅伝シーズンは「紺青奮迅」のスローガンの通りの活躍が見られるだろう。