陸上・駅伝

特集:第51回全日本大学駅伝

明大主将・阿部弘輝、走りでも心でもチーム支える 全日本大学駅伝選考会で一人旅

関東地区選考会の1組で鋭いスタートを切る明治大の阿部(写真はすべて撮影・北川直樹)

第51回全日本大学駅伝対校選手権  関東地区選考会

6月23日@神奈川・相模原ギオンスタジアム
1位 東京国際大 3時間57分13秒15
2位 明治大 3時間57分26秒03
3位 早稲田大 3時間58分46秒84
4位 日体大 3時間59分29秒30
5位 中央学院大 3時間59分53秒89
6位 中央大 4時間0分11秒12

明治大学は6月23日の全日本大学駅伝関東地区選考会で2位となり、11月3日の本大会へと進んだ。20校が参加し、各8人の10000m合計タイムで競ったが、明治大は1~4組でそれぞれ上位で安定したタイムを刻み、12大会連続13回目の伊勢路へ。第1組で圧倒的な力を示した主将の阿部弘輝(4年、学法石川)の姿に、チームメイトたちは勇気を受け取ったことだろう。

【日本選手権】明大・阿部弘輝、どん底から始まった大学ラストイヤーの先に

鋭いスタートから独走態勢

第1組の号砲が鳴る。最も内側にいた阿部は低い姿勢で鋭いスタートを切ると、隣の選手の前にスッと右腕をかざした。自分がレースを引っ張るから、前に出ないでくれというメッセージだった。「40人もいる中で転倒もしたくなかったし、スタートってみんな身構えてしまうので、『落ち着いていこうよ、レースはこれからだから』という意味のジェスチャーでした」と、阿部が説明する。

一気に前に出ると、米満怜(創価大4年、大牟田)だけがついてきた。最初の1000mは2分48秒で入った。2000mの通過は5分40秒。3000m手前で米満を振り切ると、あとは独走。その時点ですでに、第2集団との差はトラック半周近くにまで広がっていた。後半の1000mは3分ペースで刻み、最後の1000mも2分59秒。この組2位の山口和也(日体大4年、世羅)に約37秒もの差をつけ、29分25秒36でゴールした。ゴール後、阿部は応援してくれた仲間の方に手を挙げてうなずくと、同じ組で走った高校、大学の後輩である櫛田佳希(よしき、1年、学法石川)を待ち構え、自己ベストの30分5秒73で走りきったルーキーをたたえた。

阿部はペースを刻むことを意識しながらレースに臨んだ

いちど仕切り直したい、と選考会へ

阿部はもともと、今回の選考会に出る予定はなかった。新体制になって間もない今年1月、今シーズンの目標やレースプランを定めるミーティングの中で、山本佑樹監督に「全日本大学駅伝の選考会には使わない」と言われていた。10000mの自己ベスト27分56秒45を誇る阿部だ。アジア選手権と日本選手権、さらにその先に世界選手権を見すえてのことだった。

しかし4月のアジア選手権では6位入賞こそ果たしたが、タイムは29分17秒47と振るわず、5月の日本選手権でも29分5秒43で13位。とくに日本選手権では高校時代の同期である東洋大学4年の相澤晃(4年、学法石川)に水をあけられた。相澤は4位で学生トップを奪われた。目指していたレースで結果を残せなかった阿部は、自分の状態が上がっていないことを実感じていた。いちど仕切り直したい。その思いで、この夜の選考会に臨んだ。

関東地区選考会の要項には注意事項の欄に「原則として記録最下位2名を1組から、記録最上位2名を4組となるよう組分けを要望したい」とあるが、阿部は7月上旬にユニバーシアードに出るため、1組での出場が認められた。阿部は言う。「今日は練習の一つの流れとして、1000mのペース走という意識で走りました。監督にも『自分の走りをしてこい』と言われて。単独で、自分で押しきって走るというイメージの中で走れたのはよかったです」

「久しぶり手応えをつかめるレースになった」と阿部

選考会に向けて、阿部は選考会メンバーとは別のメニューに取り組み、最後の調整だけ合流した。レース前に思い描いていたプランは2000mまで5分40秒、後半は1000mを3分ペース、最後の1000mは2分55程度で押すというもの。ほぼその通りに走りきり、阿部は「久しぶり手応えをつかめるレースになったと思います」と笑った。

阿部さんに続く存在になりたい

1組に同じ福島・学法石川高校出身の櫛田が出走したのは、阿部の計らいだった。「1組はみんな緊張するところだと思うんで、僕が1組を走ることになってから『櫛田を1組に入れてください。後は僕が面倒見るんで』と監督に言いました。櫛田も上位(7位)で走ってくれて、うれしかったです」と阿部。自分がチームの精神的支柱でもあることを、阿部はよく分かっている。

4組で走った小袖英人(3年、八戸学院光星)と鈴木聖人(2年、水城)もまた、28分52秒49と28分55秒84で自己ベストを更新した。鈴木は「小袖さんがいてくれたから、最後まで走りきれました。阿部さんがいて小袖さんがいて、あと2人ぐらい強い選手がいれば明治はもっと強くなれると思うんで、自分はそんな存在になりたいと思ってます」と言う。「レース前、阿部さんに『お前は調子がいいから28分台出るよ』ってめっちゃ言われてて、いい結果を残したいと思って頑張りました。今日こういう結果を残せて、これから少しは阿部さんの力になれるんじゃないかな。最後は学生三大駅伝を笑顔で終わらせてあげたいです」と、熱っぽく語った。

2位以下を300m近く離してのゴールにも、阿部には笑みはなかった

阿部は今シーズンのこれまでのレースを振り返って「結果が出なくてきつかったです」と話す一方で、「でもここから状態が上がるきっかけをつかめました」と前を向いた。阿部はこの夜、淡々とゴールし、余裕すら感じさせる雰囲気でトラックを後にした。阿部の大学ラストイヤーにはこのあと、ほとばしるような歓喜の瞬間が訪れるだろうか。

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