陸上・駅伝

“三強崩し”狙う駒大陸上部・大八木弘明監督 選手に説く「鈍感は罪」

合宿の朝は早い。野尻湖1周練習を終えたあとの大八木監督(撮影・藤井みさ)

駅伝シーズンを前に、各大学は夏合宿に取り組んでいます。駒澤大学は8月16日から22日まで、野尻湖で全体の1次合宿を実施しました。4years.編集部はこの合宿を取材し、24年にわたり駒澤大学陸上競技部を指導する大八木弘明監督にお話を聞きました。

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前半シーズンはまずまずの出来

大八木監督は自身の学生時代から野尻湖で合宿をしていたので、野尻湖との縁はかれこれ40年近くなる。まずは、1次合宿の消化状況について聞いてみた。「いい感じでやれてるとは思う。数名故障者はいるけど、順調にはきてる。2、3次合宿でもけがなく、しっかり走り込みできればなというところかな」。夏合宿でのテーマは脚作り、体作りがメインだ。長い距離に耐えられる筋力を、夏場の走り込みでしっかりつけていく。去年は予選会のために早くから距離を踏むトレーニングをしてきたが、今年は予選会がなく出雲駅伝、全日本大学駅伝と続くので、今後スピードもあわせて強化していくつもりだという。

練習前、監督が話すと空気がピリッと引き締まる(撮影・藤井みさ)

「前半シーズンはまあ、まずまずはまずまず、といったところ。4年生でいくと大聖(中村、埼玉栄)が28分30秒台、14分一桁台で走って、山下(一貴、瓊浦)もホクレン(深川大会)でいい走りをした。3年生に故障者がおり、少し不安。今年は3年生がキーマンなので、きっちり走って層の厚さを上げていければ、駅伝シーズンに向けておもしろい戦いができると思う。2年生は石川(拓慎、拓大紅陵)、大西(峻平、西脇工)、佃(康平、市船橋)あたりがいいね。1年生は田澤(廉、青森山田)を筆頭に酒井(亮太、西脇工)、山野(力、宇部鴻城)、などがしっかり頑張ってる。1年生がどれだけ下から刺激を与えてくれるかということもカギになると思う」

3年生について大八木監督は、「去年予選会から箱根に出て、満足しちゃってる感じがある」と評する。「4年生を食ってやる、というのが見えない。もう少し意欲をもってやってほしいなと」。エースの自覚を持たないと、行動、リーダーシップ、メンタル的にも現れてこない。その自覚を求めたい、という。期待しているからこその厳しい言葉だ。

「やはりいまのエースは中村大聖、中村大成と山下の3人。3年だと最近は神戸(駿介、松が谷)が結果を出して、引っ張っていくんだという気持ちが見えてきてる。神戸はうちで走りたいと一般で入ってきた選手で、頑張っていると思うね」

三大駅伝、すべて3位以上

ここ数年、優勝から遠ざかっている駒澤大学。出雲駅伝は2013年、全日本大学駅伝は14年を最後に、毎回上位争いはするものの優勝には手が届いていない(出雲駅伝は昨年は不出場)。箱根で総合優勝したのは、08年の第84回大会が最後だ。今年のチーム目標を尋ねると「三大駅伝すべて3位以上」との答えが返ってきた。「最近(3位以内に)入ってないからね。全日本大学駅伝はいつも相性のいい大会で、特に去年コースが変わって戦略を立てるのもおもしろい。いい戦いができると思う。優勝争いにもからんでいきたいね」

やはり意識するのは上位の東海、東洋、青学の3校だ。選手層の厚さでいくとやはり東海大学が一歩抜き出ていると大八木監督は見る。今年は監督の教え子である前田康弘氏が監督をつとめる國學院大學もあなどれない。チームとしてのまとまりが出てきている、と評価している。

昨年の全日本大学駅伝で、選手に声をかける大八木監督(撮影・松嵜未来)

今年のチームには三大駅伝を走った経験者は8人。そのうち3人は経験1度のみと、他チームに比べて経験不足が不安視されることもある。「安定感を持って結果を残せている選手がまだ少ないということ。『去年(三大駅伝に)出たから、今年も必ず出てやろう! 』という気持ちが足りない。けがをしてしまう者も少なくない」。けがをしてしまうのは、体力面やメンタル面の問題なのだろうか。「けがは準備不足、これにつきる。レースに出るだけではなく、そこまでにどう臨んできているか。本番までに準備をしっかりしていないと、けがが多くなってしまう。自分でここまでやったら大丈夫、これ以上はだめかも、などの体調の見極めが自分でできないといけない」。自分の体と対話して、自律的に動くようにしてほしい、と大八木監督は言う。

主役は自分、主人公になって成果を出す

監督にインタビューする前に複数の選手に話を聞いたが、1年生の田澤選手は「けがをしないように監督に練習メニューを相談する」と言っていた。そのことについて話を向けると「田澤はエースになるんだ、という気持ちを持ってくれてるといいなと思う」と期待の言葉が返ってきた。「やっぱり伸びる選手は自覚がしっかりある。藤田(敦史・駒大コーチ)、宇賀地(強・コニカミノルタ選手兼コーチ)、中村(匠吾・富士通)、村山(謙太・旭化成)、窪田(忍・トヨタ自動車)、みんなそう。自分に自信があって、そのための準備も怠らない。『俺が俺が』と思えるやつが本当のエースなんだ。自分が主役と思って、成果を出してもらえればと思う。主人公にならなきゃだめなんだ。これは田澤に限らず選手みんなに言えることだけど、俺が主役だと思ってやってくれるようになってほしい」

誰よりも選手のこと、陸上のことを考えている(撮影・藤井みさ)

大八木監督は常々、「やらされているのではなく、自分でやる」ことの重要性を説いてきた。人から言われてやる前に、気づいたら行動に移す。何かがあったら素通りしない。「なんでも、感性が大事。感性のない選手は何をやってもだめ。『鈍感は罪』なんだ。ひとつのことから、何を感じ取れるかをしっかり考えてほしい」。勝負に負けたとしても、そこから何を感じ取れるか、どのような行動に移せるか。悔しさをバネに飛躍する選手を何人も見てきた。だからこそ、選手には何度も伝え続けている。

選手に大八木監督の印象を聞いてみると、「熱い」「情の人」「陸上好き」という回答が返ってきた。いつも真剣に、熱い思いを持ち続けている大八木監督の、情熱を保ち続けられる理由はなんなのだろうか。「とにかく陸上が好きだからということに尽きるかな。中学校の時、俺はこれ(陸上)でやっていくんだ、と思ったのがずっと続いている。好きだから情熱もついてくるし、この仕事をしていられることに感謝の気持ちを毎日持っているね」。最近は怒らなくなった、優しくなったという声も聞かれますが? 「うん、まあ年とともにだんだんね(笑)」

誰よりも陸上を愛し、誰よりも選手を見ている大八木監督。その情熱はこれからも尽きることがない。駅伝シーズン、また大八木監督の愛にあふれる檄を楽しみに待ちたい。

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