陸上・駅伝

特集:第97回箱根駅伝

箱根駅伝に向け勢いに乗る駒澤大 主将・神戸駿介「優勝できる戦力は整った」

主将の神戸は「優勝できる戦力は整った」ときっぱり。2008年以来の頂点奪還なるか(写真提供・すべて駒澤大学)

12月15日に駒澤大学のオンライン会見があり、大八木弘明監督とエントリーメンバー16人が出席。箱根駅伝に向けての意込みや希望区間、この1年取り組んできたことについて語った。

駒澤大のエース・田澤廉が目指す高み「区間賞区間新を狙い、自分の走りで貢献したい」

スピードが持ち味、前半から流れに乗って

駒澤大学のチームとしての目標は、「往路優勝、総合3位以内」。最低でも3位以内を目指し、往路の勢いを復路につなげるつもりだ。今年は新型コロナウイルスの影響で4月からグラウンドが使えなくなり、練習場所を探すのにスタッフはじめみんなが苦労した、と大八木監督。厳しい状況の中でも選手一人ひとりがペースを決めて練習に向き合い、6月にグラウンドが使えるようになってからは質の高い練習に取り組めるようになった。大学の協力を得て夏合宿もでき、1、2年生が成長。「その刺激が3、4年生にも伝わってきて、チーム全体がレベルアップしてきました。その結果が全日本大学駅伝でもしっかり結果としてでたと思います」

全日本大学駅伝では6年ぶり13回目の優勝。全日本が終わってからは足りないものを考え、「まだまだ若いチームなので、しっかりと走り込みをしてきました」。合宿も2回行い、箱根の長い距離に対応できる練習を着実に積めてきた、と大八木監督は言う。

この状況の中で大会が開催されることに感謝を述べた大八木監督

このチームの強みは、と問われると大八木監督は「スピード」と答えた。「若いチームなので、前半から流れに乗って前の方でレースを進めていきたい」とレースプランを語る。チームのエースは田澤廉(2年、青森山田)だが、キーマンについて問われると「鈴木芽吹(1年、佐久長聖)や小林歩(4年、関大北陽)など、田澤に次ぐエースがどれだけ仕事をしっかりやってくれるか。1年生が何名出るかも含め、考えていかないと」。そして「ミスをしない」ことの大切さも強調した。「与えられた区間の中でミスをしたら優勝はできないし、3番も厳しい。しっかり確実に走ることを一人ひとりが自覚しながら、体調を崩さずけがもせず、1月2日・3日まで持っていくことが大事」とここからの過ごし方についても語った。

キャプテン神戸、4年間の集大成を

この1年間主将としてチームを引っ張ってきた神戸駿介(かんべ、4年、都松が谷)も、この大会にかける思いは強い。希望区間は10区とし、「4年間の集大成として、優勝のゴールテープを切りたい。このメンバーなら絶対優勝できると思っている」と力強く宣言した。

このためにしっかりと練習を積んできた。それが神戸から自信となって感じられた

スポーツ推薦ではなく一般入部で陸上部に入り、努力を積み重ねてきた神戸。去年の全日本大学駅伝で大学駅伝デビューしたが、3区16位。続く箱根駅伝でも9区13位と力を発揮しきれなかった。悔しい経験から「悔いのない1年にしよう」と決意し、単独走を克服するために1人で速いペースのジョグを走ったり、上級生として前で練習を引っ張るなど、着実にレベルアップしてきた。

しかし、夏合宿明けに脛骨を疲労骨折してしまい、しばらく走らない時期が続いた。その影響で全日本大学駅伝は走れなかったが、今回戻ってきた。もうけがの調子は大丈夫ですか?と聞くと「この高いレベルのチームで16人に入れているので」と自信をにじませたあと、「故障する前の状態に戻っています。今の調子はとてもいいです」と教えてくれた。

チームの雰囲気を良くするために

今年1月に神戸がキャプテンになってから、新しく入ってくる1年生に力があることはわかっていたので、彼らが力を発揮できる環境を作ろう、と4年生全体で話し合った。もともと駒澤大学陸上部は、1年生の担当する仕事が多い。神戸たちも下級生のときはそれを経験してきたし、実際に「今年の1年生にだけ(今までやってきたことを)やらせないのはどうなんだ」という声もあったという。それでも「勝つためには1年生の力が必要」と意見がまとまり、それまでのルールを変えた。「1年生もそれに甘えることなく他の仕事をやってくれて、みんなが不満のない状態でやってこれました。下級生から上級生に話しかけられる雰囲気もできてきて、チームの雰囲気がより良くなったんじゃないかと思います」

4年生が中心となって、下級生の力を活かそうといいチームをつくりあげてきた

「いいチームにしたい」という神戸たち4年生の思いが伝わったなと感じたのは、全日本大学駅伝のときだという。メンバーを外れた神戸は他の選手達と寮でテレビ観戦していた。「自分たちが1年生のときは、走った選手は悔しがったり喜んだりしていたんですが、走らなかった選手は『チームの力になれたのかな?』とわからないところがあって……今年はチーム全体として結果について喜んだり、悔しがったりするチームを作りたいと思っていました」。結果的に優勝した瞬間は、周りの家から苦情がくるぐらいみんなで喜びあった。「チームがひとつになった、理想のチームができたんじゃないかなと思いました」

「自分に能力がないのはわかっている」という神戸。だからこそ力のある選手がやらないことをコツコツとやってここまできた。「努力することを強みとしてやってきました。4年間やってきたと言えるので、自信を持って箱根ではスタートラインに立ちたいです」。キャプテンの最後の箱根はもうすぐだ。

ルーキー鈴木、田澤の背中を追って

大八木監督からキーマンとして名前を挙げられた鈴木芽吹。1年生ながら全日本インカレ5000m3位、全日本大学駅伝で大学駅伝デビューも果たした。今回5人の1年生がエントリーされたが、その中でも一歩抜き出た存在だともいえる。

全日本大学駅伝では3区を走って5位。9位でもらった襷(たすき)を8位で渡した。だが「物足りない走りだった」と振り返る。「チームが優勝を目指している中で、自分のところに少し順位が下がって(襷を)渡されたので、上げて渡したかったです。でも他の大学の先輩たちは経験や練習の量が違って、自分は劣ってるなと感じて自信をなくしてしまいました」。全日本大学駅伝後は箱根を意識して、しっかりと距離走で走り込んだ。いまは「全日本の悔しさを箱根につなげていけると思う」と前向きだ。

駒澤大学に入って、最も刺激となっているのは1つ上の先輩、田澤の存在だ。「田澤さんは学生トップじゃなく、日本トップレベルの選手なので。田澤さんの背中を日々見て走っています。そういう存在がいるのは本当に大きいと思います」

ライバルは「同じ区間を走る青学、東海の選手。その選手に勝たないと優勝できないから」

鈴木の走ってみたい区間は2区か4区。なぜ? と問われると「2区はエース区間で、駒澤のエースって考えれば普通は田澤さんが走るべきなのかなと思うんですけど、今の駒澤は田澤さん頼みだけでは勝てないと思います。だから自分が走って、田澤さんの圧倒的な力を他の区間で生かしてほしいです」。では4区の理由は?「自分の地元が熱海なんですけど、小田原とかを通るのが近くていいかなって。気持ちが上がるので」と笑った。

大八木監督は何度も「若いチーム」と表現したが、4年生は4人、3年生も3人エントリーされている。特に4年生は神戸、小林、伊東颯汰(大分東明)、加藤淳(西脇工)といずれも駅伝経験のある上級生だ。エントリーメンバー中、上位10人の10000mの平均タイムは28分26秒81で全21校中最速。全員が力を引き出し合う環境で切磋琢磨する駒澤は、まだまだ強くなる。

in Additionあわせて読みたい